どうせなら「働き方改革+1」をやろう

『働き方改革でチャレンジしづらくなっている』デザイン思考第1人者が語る改革議論への違和感」はとても頷けるところが多く、特に業務時間内に「余白を作る」という意識はすごく大切だと思いました。

一方で「一律に労働時間にキャップをはめることに疑問を呈する」などのあたりにちょっとした違和感もあります。それは提言内容というより、政府の「働き方改革政策」と、この記事が前提にしている世の中の「働き方改革の取組み」が別物に見えることの違和感かもしれません。

「労働時間のキャップ」は有害か

単純に労働時間にキャップをはめるというのは、クリエーティブワークの性質からすると、生産性を上げるどころか、逆に閾値に達しない仕事を大量生産する形に働いてしまう可能性があります。閾値に到達する機会を自ら手放し、アウトプットがゼロになってしまうリスクを抱えるということです。(『働き方改革でチャレンジしづらくなっている』デザイン思考第1人者が語る改革議論への違和感

2017年3月に発行された「働き方改革実行計画(概要)」を見ると、残業のキャップに触れているのはおそらく「4.罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」だと思います。

現在の法律だと「勤務時間の上限は1週間40時間、1日8時間」と決まっていて、労使協定を結ぶとさらに「時間外労働」が認められますが、これも「1か月45時間、1年360時間などの限度が」基準として示されています。ただこれは基準でしかなくて、実際の各社の協定の範囲内や臨時措置としてどんな残業が起こりうるかわからないので、実行計画では「原則として、月45時間、かつ、年360時間」はそのままで、絶対の上限を「年720時間、単月100時間、2~6か月の月平均80時間」として罰則を設けようとしているようです。

「単純に労働時間のキャップをはめる」といっても、政府「働き方改革」政策では、もともと労基署案件だったレベルについて罰則規定を設けてるぐらいな内容に思われます。適法範囲内で運営されていた職場だったら、元々抵触しないレベル。残業ができなくなったりしなそうです。残業0がベースで、キャップはいままでと同じ月45時間程度。「閾値に到達する」のに追加時間が必要であれば、その45時間のバッファを使えるはずです。

クリエーティブワークに害やリスクが生まれるとしたら、それはどんなケースなのでしょうか。元々労基署案件レベルだった?「働き方改革」の旗の下で、実際にはコスト削減のためだけの残業抑制をしようとしている?

何を「生産性」と言っているか

いま、一般に「生産性の向上」という言葉が使われるときには、単位時間あたりにどれくらいのアウトプットが出せるか分かっている前提に立っています。その上で、その効率をいかに上げるかという話になっている。(『働き方改革でチャレンジしづらくなっている』デザイン思考第1人者が語る改革議論への違和感

これも「一般に」言われている生産性の話としてはそうなのですが、「働き方改革実行計画(概要)」を見ると、違和感を覚えます。たぶん生産性の話に該当するのは「3.賃金引上げと労働生産性向上」でしょう。次のように概括されています。

アベノミクスの三本の矢の政策によって、デフレではないという状況を作り出す中で、企業収益は過去最高となっている。過去最高の企業収益を継続的に賃上げに確実につなげ、近年低下傾向にある労働分配率を上昇させ、経済の好循環をさらに確実にすることにより総雇用者所得を増加させていく。

ここで言われているのはまず労働分配率のことです。労働分配率の定義はこうです。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100

でも生産性、「単位時間あたりにどれくらいのアウトプットが出せるか」「その効率」というのは、単位時間あたりに人件費がかかることを踏まえると労働生産率、定義はこうですよね。

労働生産率(%)= 付加価値 ÷人件費 × 100

真逆になってます。働き方改革政策では「利益が出たら人件費へ、賃上げを、労働者に回そう」と言っています。そうすれば消費が増えて、好景気が循環し、それが外的要因として利益(生産率)に還ってくるから、と。でもいきなり生産性を見ている取組になると「人件費を減らして付加価値維持を」とか「人件費を増やさず付加価値向上を」になっています。

ちなみに働き方改革実行計画本文を読めば、生産性にも言及していますが、それは「生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備」としてです。賃上げが前提の生産性向上で、人件費を減らすとか増やさずというものではなさそうです。

働き方改革「+1」を考えたい

佐宗邦威氏は「残業抑制」とか「時間あたり成果」といった「20世紀型のものづくり」の発想をクリエイティブワークに当てはめることへの違和感を提示されています。僕はそれに共感しつつ、それ以前に働き方改革って「長時間残業是正」と「労働分配率」で、「残業抑制」や「労働生産性」はそれとは別の経営層の興味なのではないかという違和感も抱いています。

各社で「コンセプトは働き方改革、取組は働き方改革から抜粋、ゴール設定は残業抑制と労働生産性」という醜いキメラが現場を歩き回り、踏みにじらないかが心配です。各自努力で就業時間を短くしながら就業成果を増やせといえば、現場を擦り切れるほど絞り上げる感じにならないでしょうか。

それよりは、こう思います。政府「働き方改革」政策をその趣旨通りに実行すると、実施企業には3つのものがもたらされそうに思います。ワークライフバランス。ダイバーシティ。そして人材流動性。やるなら、この3つを経営層の興味、経営課題への解決につなげる「+1施策」を考えるのが良いのではないかと。

ワーク≫ライフだと思われる現在のバランスを是正していくと、まずはワークタイムを減らしていくことでしょう。全員が8時間ぴったりになって終了というほど機械的にできるものではないでしょうから、実際には8時間の勤務時間内に余白時間が生まれるでしょう。そこに達したときに、そこに仕事を詰めるかわりに、佐宗氏の言う「組織の中で20%の余白をつくる」方向の+1施策は考えられないでしょうか。

全員テレワークが当たり前になると、男女、老若、関東の人と北海道の人と九州の人、健康な人と療養中の人と障害を持つ人、育児者や介護者などが同じ会社にいるだけ、同じチームで働くことが容易になるでしょう。その時に積極的に「すべてのチーム内にダイバーシティがある」方向に進める+1施策は考えられないでしょうか。ダイバーシティは、アイデアの源泉といわれます。

会社が同一労働同一賃金、様々なキャリア形成パスの受容を進めていくと、労働者にとっては移動や復帰がしやすくなるでしょう。その時に積極的に「人材流動を盛んにする」方向の+1施策は考えられないでしょうか。労働者が移動していき、その経路上でその人について知られていくことはKnow Whoや最近で言うWho Know What、トランザクティブ・メモリーが増えていくことにつながります。

働き方改革と経営課題のキメラを作るのではなく、働き方改革の上に自社独自の+1施策を載せて、経営課題に向けて楽しく歩いて行けるブレーメンの音楽隊のような取組み方になっていってほしいと思います。

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