Photo “Honeybees with a nice juicy drone” by dnl777

ワーカー型クラウドソーシングとオープンイノベーション型クラウドソーシング

ランサーズや、いま話題になっているクラウドワークスが登場したときに「あれ、僕が聞いてたクラウドソーシングと違うぞ?」と思ったのを覚えている。僕が聞いていたクラウドソーシングというのは、例えばInnoCentiveのようなものだ。

オープンイノベーション型クラウドソーシング

InnoCentiveは「ウィキノミクス」(ドン・タプスコット, 2006年)で知った。この本は「ウェブを通じた無数の人の協働(コラボレーション)によって成立する世界」というビジョンを説明している。その一つの類型が「アイデアの広場」「求職サイトの求職と求人のように、アイデアと発明の『売ります』『買います』が並ぶ」アイデアゴラで、例えばInnoCentiveだった。このビジョンは間違いなくクラウドソーシングだし、例えばInnoCentiveは「クラウドソーシング」(ジェフ・ハウ, 2009年)でも取り上げられている。

群衆の知恵・集団的知性とWikiコラボレーション」(塚本牧生, 2010)

InnoCentiveでは作業に対するワーカーではなく、「課題(Challenge)」に対する「解決(Solve)」が求められている。ここには企業が社内で解決できなかった課題が寄せられ、高い報奨金が設定されていて、各課題に多くの人がアプローチしている。いま「Solve a Challenge」のリストを確認したときには、1ページ目には報奨金1万$が1件、1.5万$が1件、3万$が3件、5万ドルが2件、15万ドルが1件の課題が掲載されていて、各課題に27~524人がアプローチしていた。

InnoCentiveのSolver(解決者)からUberの運転手に至るまで、こうしたクラウドソーシング経済、つまり「オンライン・プラットフォームを通じて入ってくる、単発の仕事をこなすこと」を米国では「ギグ・エコノミー」というらしい。業界での通称にとどまるものではなさそうで、ヒラリー・クリントンもこの言葉を使っている。そのギグ・エコノミーの世界に優秀なプロフェッショナルが好んで参加する動きがあるらしい。

ニューヨーク・タイムズの記事によると或るハーバード・ビジネス・スクールの学生は企業からの要請で、新製品のプライシング・モデルを構築するなどの高度なコンサルティングを単発で請け負い、マッキンゼーに代表されるコンサル会社へ就職するのをパスしたそうです。(ギグ・エコノミーで高スキルのワーカーも日雇い化へ — Market Hack

米国では、InnoCentiveに見るような、高額な報酬でスペシャリストを求めるタイプのクラウドソーシングがある。そして最近のギグエコノミーについての報道を見ると、そうしたタイプのクラウドソーシングも成り立っているようだ。オープンイノベーション(社外と協力したイノベーションの方法論)のためのクラウドソーシング利用だから、ここでは「オープンイノベーション型クラウドソーシング」と呼ぼう。

ワーカー型クラウドソーシング

僕が読み聞きしていたクラウドソーシングはInnoCentiveなどのオープンイノベーション型クラウドソーシングだったから、ランサーズやクラウドワークスが出てきたときには「あれ、なんか違うぞ?」と思った。言ってみれば「求職サイトの求職と求人のように…求職と求人が並ぶ」サービスだった。

これもクラウドソーシングの一つの類型だし、日本だけのものじゃない。象徴的な例を挙げれば、一つは主にバーチャル(オンライン)での作業のために「一時的に大量の労働力を雇用する」ことを可能にしたAmazon Mechanical Turkだし、もう一つは配車と目的地までの運転を手配するリアルでの作業手配を可能にするUberだろう。InnoCentiveなどが一つの課題に多様な専門家がアプローチする「集合知」をクラウド化したのに対して、こちらは大量の作業を大量のワーカーに効率的に割り振る「マッチング」をクラウド化している。

同じワーカー型のクラウドソーシングでも、ランサーズやクラウドワークスはUberよりAmazon Mechanical Turkに近い気がする。Uberは配車と言う性格上、その出発地と目的地、そしてその時間に対応できる人だけが個々のワークの候補者になれる。スキルや道具のほかに、ローカル性が候補者を制限するから、ある程度条件が保たれる。Amazon Mechanical Turkではワーカーは世界中からインターネット経由で参加してきて、とても競争は激しくなり、報酬額も低減競争にさらされる。

バーチャルでの作業、せいぜい成果物の郵送までが中心のランサーズやクラウドワークスは、ワーカーの競争はとても激しくなり、満足度の高い報酬は得られないかもしれない。

日本でのクラウドソーシング・ワーク

日本のクラウドソーシングについては、だから二つのことが言えそうな気がする。まず、まだワーカー型のクラウドソーシングしか見当たらなくて、オープンイノベーション型の話はあまり聞こえてこない。二つ目はよく知られているのはランサーズやクラウドワークスなどで、ワーカー型のクラウドソーシングの中でもローカル性が低くて、競争が激しく、報酬が値崩れしやすそうなタイプのものが中心事例になっちゃってる。

実際にクラウドワークスは「月収20万超え、わずか111人」と話題になった。でもそれはクラウドワークス経由での収入だけの金額だ。他のクラウドソーシングサービスも併用するだろうし、仕事の出来がよければ徐々に再発注が増えてきてそれらは直請けになるだろう。そう思っていたら、「ランサーズで100円のウェブライターからはじめて、月商が243万になったよ 」という記事が出てきた。243万の内、クラウドソーシング経由が119,793円に対して直接受注が 2,116,946円で、あとはアフィリエイトなどだそうだ。

これらのワーカー型クラウドソーシングは、仕組みだけじゃなく役割も「マッチング」なのだと思って付き合うほうがいいのかもしれない。働き始めに経験を積み、実績を作り、続けて受注できる常客と出会うための場。オープンイノベーション型のギグ・ワークを得られるようになるための前段階。フリーランスやノマドワーカーが盛んに喧伝されているけど、駆け出し期間、報酬以上に仕事と実績がほしい期間に発注者を見つけられるパイプは欲しいかもしれない。あるいは就職前のアルバイトとして、経験づくりを兼ねてというのもあるかもしれない。

つらつら考えていて、日本は大都市集中とIT系ではコミュニティやコミュニティイベントが密すぎて、オープンイノベーションは口伝てと人伝で専門家を探す形で回っちゃってるのかもしれないな、と思った。もしそうなら、オープンイノベーション型クラウドソーシングの到来は米国より遅れてるだけかもしれない。オープンイノベーションの進め方が地方にも広がれば、地方にオープンイノベーション型クラウドソーシングが花開く目もあるかもしれない。

もしかすると「日本のクラウドソーシングは残念」なのかもしれないけれど、「日本のクラウドソーシングはこれから」な方を信じたい。ワーカー型とクラウドソーシング型が揃って、ついでにリモートワーク環境が整って社内と社外の協働が簡単になって、そこから大都市圏も地方もなく一億総活躍して津々浦々まで広がったギグ・エコノミーが立ち上がったらいいなと思う。