新技術に必要なのはスペシャリストかエバンジェリストか

Makio Tsukamoto
4 min readMay 29, 2015

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これまで社内でSNS、仮想化とクラウドなど、ちょっとトレンドな部分に技術者として携わってきた。今、会社はビッグデータなどに手を伸ばしているが、そこは眺めるのみになっている。

新技術に取り組む段階で、企業はまず利用技術を導入し、次に利活用スキルを持つファースト・メンバーを育てる。会社によって違うなと思うのは、ファースト・メンバーの性格だ。ある会社では利活用のコアになるスペシャリストを育てるし、ある会社では利活用を社内に広めるエバンジェリストを育てる。

スペシャリストは商品開発や解析技術(役務)の提供を専らにし、必要に応じてコンサルティング(高度な知見の提供)もする。エバンジェリストは社内への啓蒙や教育を専らにし、必要に応じてコンサルティングもする。

「みんなが使う」系の技術には「みんなに広める」エバンジェリスト

どちらが正解ということもない。ただ自分で携わった仮想化については、この技術は「高度技術」じゃなくて「コモディティ技術」として社内に根付いたらよかったなと思う。つまりスペシャリストよりも、エバンジェリスト型のファースト・メンバーの育成と活動が必要だったなと。いまその時期にある技術で言うと、クラウドコンピューティングと、ビッグデータについてそう思う。

高度にクラウドを組み込んだシステム設計ができるスペシャリストのいる会社より、みんながファイルサーバにファイルを置く気軽さで、クラウドにインスタンスを立てて実験や実用をする会社に。高度な収集の仕組みの構築と解析から理論化ができるスペシャリストのいる会社より、みんながエクセルで金額集計表を作成するように、気になったあるデータと別のデータの相関を計算する会社に。

ふんわり言えば、「みんなが使う or みんなで使う」性の強い技術には、「みんなに広める」エバンジェリスト育成のアプローチが相性がいい気がする。

「○○ファースト」試験法

「みんなで使う」性の有無は、技術の性格×会社規模×顧客規模が決める感じ。「こういう場面にバシッとはまる」みたいな技術は、みんなで使わない。それよりも深さが活きる。コアメンバーにはスペシャリストであって欲しい。「なんにでも使えるけど何に使うべきかよく分からない」みたいな技術は、みんなで使った方がいい。なんにでも使ってみて、結果を見たほうがいい。広さが活きる。コアメンバーにはエバンジェリストであって欲しい。

SNS、仮想化、クラウドは「みんなで使う」が似合うと思う。そういえば、この分野には「SNSファースト」「仮想化ファースト」「クラウド・ファースト」とった、○○ファーストというフレーズがよく生まれる。あとはモバイル・ファーストとかね。前述したように、僕はビッグデータも「ビッグデータ・ファースト」になった企業が強いと思う。この「○○ファースト」という語がピンと来るかというのは、簡易的に「みんなで使う」性をはかれるリトマス試験紙かもしれない。

たとえばIoTもトレンド技術だ。でも「IoTファースト」と口にしてみると、いささか違和感があって唸ってしまう。IoTには、たとえば本当に自宅の鍵はインターネットにつながるべきかとか、IoTはアップデートをどうするのか、陳腐化したモノがインターネット上に残り続けるのかとか、まず考えるべきいろんな論点がある。熟考ファースト。これらは高度な知見を持ち練りこまれた製品を生み出せるスペシャリストを育てた企業が強いと思う。

技術の性格で初期人材を決める

「○○ファースト」試験法でなんとなく技術の性格は見えてくる。「○○ファースト」がしっくり来る技術なら、「みんなが使う」性が高い。会社に「みんなが独学」するのは非効率といえる規模があれば、初期人材としては「みんなに広める」「みんなに教える」エバンジェリストを育てるのがよさそうに思う。

でも実際には技術の性格より会社の性格で、どちらの人材を育成するかが決まってないだろうか。前例主義の企業では、まず最初の一例を作るために、製品開発をするスペシャリスト育成に向かう。Web企業やベンチャー企業に象徴されるような新しいものに強い会社は、エバンジェリスト育成に向かう。あくまで僕の印象で言っているけど。

いまやトレンドの広がりと速度が従来と比べ物にならなくなって、たとえばITに携わる会社ならどこでも、戦略的にIoTとビッグデータはどちらも無視できない、みたいな時代になってる。そんな時代だから、会社の性格でアプローチを決めると、戦術を誤るんじゃないかなという気もする。

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