オウンドメディアで「雇われ編集長」をやってみてわかったこと。

僕のkakeru編集長着任記事から。 http://kakeru.me/other/tsukaoka-hello/

こんにちは、塚岡雄太です。

ウェブの世界でコンテンツを作って生計を立てています。趣味を仕事にしてしまいました。

僕は「コンテンツ型ウェブ広告」と呼ばれるもの全般のプロデュースとコンサルティングを主戦場にして仕事をしているのですが、その中でひとつ、特別な仕事がありました。
インターネット広告会社オプトのオウンドメディア「kakeru」の編集長です。

「ありました」というのは、それを退任するにあたってこのエントリを書いているからです。
いろいろ思いもあり長くなりますが、よろしければご一読を。

編集長になるまで

出版社、ウェブ制作会社、インターネットサービス運営会社と3社を渡り歩いて独立したのが2016年1月。
その時(まことに失礼ながら)保険として動いていた転職活動の中でこの仕事と出会いました。

最初、オプトは僕のことを正社員として迎えてくれる用意をしてくださっていたのですが、他にフリーの仕事が決まっていたこともあり、わがままを通して「外部委託」として編集長になりました。

ちなみに、僕の前任である初代編集長はあんなことこんなことで有名な、えとみほ(江藤美帆)さん。ビッグネームが勇退した後ということで少々の気後れもありつつ二代目編集長になったというわけです。
そしてこの度、その任を次世代に譲って退任します。

前置きが長くなりましたが、オウンドメディアの世界で「外部」から来た二代目の編集長というのがどんな仕事か、なかなか経験できる人もいないだろうと思うのでインターネットの総知識量をわずかに底上げする目的で書いてみます。

コンプライアンスの壁

まずぶつかったのが、コンプライアンスの壁です。
編集長とはいえ、一介の業務委託パートナーである僕は執務スペースに入ることができませんでした。
また、個人事業主としての僕とオプトの間に競合する業務内容が多く含まれるため、編集部員が今どんな仕事をしていてどのくらい忙しいのか、詳細を把握することもできません。

誤解のないようにはっきり書いておきますが、このことについて不満はこれっぽっちもありません。
機密情報でいっぱいの執務スペースに外部の人間を入れてしまったり、業務内容を無警戒に話してしまう会社の方がずっと問題だと思います。オプトはしっかりした会社だなぁ、と感心しました。

というわけで、僕は契約上の出勤日である火曜日・金曜日はオプト社内のカフェに陣取って編集部員(kakeruの場合は「ライター」とほぼ同義です)との打ち合わせを行い、メールやメッセンジャーで指示を出し、編集会議があれば来客用会議室へ出向くという仕事の進め方になりました。

これで困ってしまうのが、編集部員のモチベーション維持でした。

オウンドメディアにおける編集部の構成には大きく分けて「専任スタッフによる編集部」と「兼任スタッフによる編集部」の2つがありますが、kakeruは後者です。

つまり、編集部員は記事執筆以外に、オプト社員としての仕事も同時に多く抱えています。

となると、自分自身の限られた時間的・体力的リソースを「オプト社員としての仕事」と「kakeru編集部員としての仕事」に振り分けなくてはいけません。難しく、苦しい判断です。

そんな状況で「記事を書く」ためのモチベーションを維持するのは「書き手としての使命感」ですが、忙しい環境の中で何とか時間を作り出して「記事を書き始める」ためのモチベーションを生み出すのは「編集長に怒られちゃうから書き始めるかぁ…」だったりすることは皆さん想像できるでしょう。

元編集長として断言しますが、彼らは「書き手としての使命感」は確かに持っていました。
だからこそ、「書き始める」ために背中を押す役割を持つ僕が遠いところにいるマイナスをいかに埋めるかについて苦心し続けました。

打開策として編集部員との打ち合わせはできるだけ多く、密に、相談事があればいつでも聞いてくれというスタンスをとってはいましたが、やはり「近くにいない」というマイナスを埋めるには至らなかったというのが、正直なところです。

教えることの難しさ

これまで、僕は仕事としてウェブメディア、ペーパーメディアの編集を約10年やってきました。
それは、どんな場合でも「プロのライター」または「プロ志望の若手ライター」たちとの仕事でした。
なので、書いてきたものがダメなら厳しく指導してきました。それがプロ同士の礼儀です。

しかしオウンドメディアでは、編集部員は多くの場合「プロのライター」でも「プロ志望の若手ライター」でもありません。
ひとりの会社員として、その業務で身につけた専門性の高い知識や貴重な経験を記事という形でオウンドメディアを通じて世に広めるのが彼らの使命ではありますが「ライター」ではないのです。
なので当然ですが、筆力はライターには及びません。

というわけで、僕はまず編集部員が筆力を身につけるための教育に着手しました。
ここで、プロでもプロ志望でもない編集部員に教育する上で大きな壁があることに気が付きました。

「文章を書く」ことを「自転車に乗る」ことに喩えましょう。
日常生活に困らない程度の技術はちょっとした訓練で身につき、その後もずっと持ち続けられます。
しかし一方で、速さや曲乗りのような技術を究めようと思えばキリがありません。

文章を書くことのプロになるというのは、自転車で言えばその技術を究めていくということになります。
その訓練をする場合、受け手側には覚悟が必要になりますし、プロ志望のライターに覚悟がなければそこで終了です。

でも、オウンドメディアの編集部員を教育する場合にはそうもいきません。プロにまで叩き上げることはできなくても、なんとか「読者にとってストレスのない文章」が書けるようになってもらわなくてはいけない、という難しい挑戦でした。

そこで僕がやってみたのが、記事タイプ別のテンプレ作りです。
記事はどんなものでも、基本は「起承転結」の流れを持っていながら、記事タイプによって「起」「承」「転」「結」が持つ役割が違います。

プロのライターが無意識に使い分けているこの「違い」を「インタビュー記事」「考察記事」「座談会記事」「調査記事」の4つに類型化してテンプレートを作り、まずはこれを守ってもらうことをはじめました。

ここさえ押さえれば、あとは「てにをは」「あれこれそれ」「表記の統一」のような細かいお作法を少しずつ覚えるだけでそれなりの記事が書けるようになります。

これは成功し、テンプレを抜け出して自分なりのスタイルを見つけ出した編集部員もいたほどです。
こればっかりは、編集のプロとして外部から僕が来たメリットだったかもしれません。

ヒーローは誰か

だいぶ長くなりましたので、これで最後にします。

オウンドメディアの役割はメディアによってそれぞれですが、普通は「企業の利益を上げる助けになること」です。
それは直接的に広告で収入を上げる場合もあれば、仕事の受注窓口を大きくする(いわゆるインバウンドというやつです)ことを目的にする場合もあります。ただ会社のブランドを上げるため、ということもあります。

いずれの場合にも必要なのが「メディアの顔」です。
特に、最近のウェブメディア業界はヒーローを求めます。名物ライターであったり、名物編集長であったり。

その「顔」がどれだけ有名か、どれだけ有能であるかがメディアの価値とほぼイコールで語られることもあるくらいです。
個人的には、その風潮はペーパーメディア時代の悪習の残渣としか思えないのですが、時代の要請には逆らえません。
そこで僕も、kakeruの顔が誰であるべきか考え、まず決めたのが「編集長ではない」ということです。

普通は、編集長が顔になったほうがメリットが大きいです。
テレビに顕著ですが、メディアに取材を検討する場合、普通は編集長が出演することを想定します。
主催イベントのモデレーターや司会も、編集長のほうが映えます。
肩書として「◯◯担当」「◯◯に詳しいライター」よりも「編集長」と出ている方が受け手にとって説得力を持つからです。

しかし、僕はタイトルにもあるとおり「雇われ編集長」です。有期契約労働者です。
炎上やクレームの矢面には進んで立ちますが、華やかな場はオプトの社員に出てもらうべきと考えました。
僕が有名になったとしても、いつかはメディアを去る身。その後の自分自身の仕事にはプラスに働くでしょうが、そこは企業利益のために奉仕するオウンドメディアの編集長として身を引いたという次第です。

次の編集長は、いまkakeruの顔となっているあの人になるそうです。
これから炎上やクレームの矢面にも立たなくてはいけなくなるはずなので、陰ながら応援しています。

最後に

kakeruの編集長の仕事は、僕のキャリアにとって特別なものとなるでしょう。
組織で働くことを辞めてすぐ、組織を運営する仕事をすることの迷いもありましたが、結果として得られた経験はかけがえのないものでした。

僕が退任するにあたって、「オウンドメディア編集長の条件」というのをずっと考えていました。
最後にそれをここに書いて、終わりにします。

  1. 編集長は、権勢欲を始めとした私利私欲に左右されてメディア運営を行ってはならない。
  2. 編集長は、 組織人としてのしがらみや利益関係に左右されて正しい判断ができていない可能性を疑わなくてはならない。
  3. 編集長は、メディアのために存在するが、メディアは編集長のために存在していないことを忘れてはならない。
  4. 編集長は、クライアント(運営会社)と読者の両者をもっとも理解した存在でなくてはならない。

それでは!
これからのkakeruを楽しみにしています。