藤井隆さんに会った日のこと

広告を作る仕事をしているので、ときどき芸能人の方にお会いする機会があります。完全にミーハーなのでいちいち喜んでいるのですが、お会いしたあとは、大抵その人のことを大好きになってしまいます。
中でも群を抜いて好きになったのが、藤井隆さんでした。

数年前、僕は藤井さんのインタビュー撮影に先輩のアシスタントとして参加しました。スタッフは20名前後、皆がガヤガヤと準備をしているところに藤井さんがやってきます。

僕らスタッフと違って、時間あたりのコスト(と言ったら失礼ですかね、要するにギャランティです)が段違いで、さらに1日でいくつもの現場をかけもつことの多い芸能人の方は、最後に現場入りして最初にお帰りになることがほとんどです。

なので、その日も約20名のスタッフで迎えるかたちになりました。皆、少しだけ手を止めて「おはようございます」「よろしくおねがいします」と挨拶をします。
藤井さんは、歩みをかなり緩めて、スタッフ一人ひとりと目を合わせながら笑顔で「おはようございます」「こちらこそ、よろしくおねがいします」と挨拶を返しつつ、化粧台へと向かいました。

こちらも準備をしながらなので、「ざーっす」「よーっす」とスタスタ通りすぎてもまったく気にならないところです。というか、それが普通ですね。
ただ目を合わせて挨拶してくれた、というだけで現場の士気がぐんと上がるのを感じました。

そしてインタビューが非常に良い内容で終わって、撤収の時間。
駐車場で荷積みをしていると一台の車が速度を落とし、窓を開けて「おつかれさまでーす!」と大きな声で挨拶して去って行きました。もちろん藤井さんです。

ああ、好き! なんていい人なんだろう!
帰ったらあらびき団をYouTubeで見て、ナンダカンダを聞こう!

当然ですが僕が同じことをしても、ここまで好かれはしません。
これ、悪い書き方に思えるかもしれませんが、「芸能人だから」なんですよね。
でも、その時の藤井さんからは「芸能人のオレが腰低く挨拶して嬉しいだろう」という驕りも、「僕なんかが、すみません、よろしくお願いします」みたいな卑下もありませんでした。

それが才能だと思うのです。
自分の役割、立場、能力に自覚的でそれを効果的に使える才能。

有名人が細かやかに気を遣うこと、立場のある人が頭を下げること、博識な人が相手を見くびらないこと、美人が笑顔だけで場を御すること、若い人が年上にちゃんと甘えること。
僕も含めて、多くの人は驕りや卑下によって自分の立場や能力を高く(または低く)見積もってしまい、その使い方を間違ってしまいがちではないでしょうか。

この日以来、僕は藤井さんのファンになり、自分の立場や能力を自覚するように努めていますが、どうしても驕りや卑下が顔を出して失敗することが多いです。

自分を効果的に使いつつ、場の空気を変えてしまう才能。
それが手に入ったらずいぶん生きやすいのになあ、とテレビで藤井さんを見ていると思い出す一件のお話でした。

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迷ったら、笑える方に。(塚岡雄太)

どうも塚岡です。コンテンツプロデューサーを名乗っています。主にインターネットでコンテンツを作って生計を立てています。趣味を仕事にしてしまいました。考えをまとめるために、ときどき長文を投下します。