BeyondLab の設立経緯と活動について

こちらのエントリーでは、まず、BeyondLab がどのような経緯で立ち上がり、今現在どのような活動を行っているのかを書きたいと思います。エントリーの目的としては、まだBeyondLabを知らない(あるいは、改めて知りたいと思っている)皆さんに私たちの活動を知ってもらうこと、そして、一度イベントに参加してみたいと思ってもらうことです。

BeyondLab(2017年3月時点で、フランスでの非営利団体登録済、日本では未登録)は、2013年の年末頃にフランスのグルノーブルという街で生まれました。中心となっていたのは、政府系研究機関のCEA(Commissariat à l’énergie atomique et aux énergies alternatives:かつては国防や原子力を専門に研究活動を行っていましたが、今日では代替エネルギー、先端情報技術、ナノテクノロジーなど様々な分野を基礎研究から産業レベルまで幅広く含んでいます)に籍のあったフランス人の博士過程学生、そして、ほぼ目と鼻の先に位置するグルノーブル経営学院(Grenoble École de management )の学生など、若いフランス人たちでした。

当時、彼らの問題意識は、最先端の科学研究が社会に十分に還元されていないのではないか、という点にありました。国を代表する研究機関であっても(あるいは、そうであるからこそ)、スタートアップやイノベーションという言葉に表されるような世の中の動き方の変化に対し、素早く順応し、創造性を発揮していくことは容易ではありません。

上述のCEAの博士課程の学生たちは、旧来の内部構造がもらたす硬直性により、新しいアイデアが埋もれてしまったり、人材の流動性や多様性が失われてしまったりするところを、少なからず目にしていました(とはいえ、CEAは00年代からスタートアップ創出にフォーカスを置いていたのですが)。無論、今日では、状況は当時の彼らにとって少しづつ良い方向に変わってきているでしょう。実際、知人の若手研究者の中には、CEAの中で今までこの組織が扱わなかったような挑戦的な技術スタートアップを立ち上げるに至る人たちも出てきました。今後、組織の中の世代交代がさらに進めば、よりアクティブな環境に変わっていく可能性は大いにあります。とにかく、当時の若い研究者にとっては今日の意味で言われているようなイノベーションはどこか遠く感じられ、それに対する渇望がくすぶっていました。

グルノーブルは小さな街です。特に、カフェ、レストラン、バー、スーパーマーケットなどが旧市街の周辺に集まっていることもあり、ふらふら歩いていれば簡単に知り合いに出会うことができます。仕事帰りに立ち寄ったバーで同僚や友人に出会い、そのままそこに居合わせた皆が一緒になって議論を交わすこともよくあります。こうした文化の中では、コミュニティというものがごく自然に形成されていくように感じます。BeyondLabでも、こうした文化の中で多様性に溢れたメンバーが集い、フランス的な批判精神に溢れた議論を通じて問題意識を共有しながら、具体的なアクションへと繋げていきました。また、この時期にグルノーブルで最初のコワーキングスペース(COWORK In Grenoble)が生まれており、起業家やアーティストなど様々な背景を持つ人々が集う環境の中で、BeyondLabのプロトタイプは練られていきました。

http://www.co-work.fr/

こうして活動を始めたBeyondLabの理念は、

“Create the intersections that empower the inventors to take science a step further.”

です。これを自分なりの理解も含めて、もう少し言葉を足して説明してみます。

今日の社会では多くの人がイノベーションを起こし、世界をより良い方向に変えようとしています。行政、大学、研究機関、企業、VC、NPO、メディアなど、そのプレイヤーたちを数えればきりがなく、普段の生活の中で「スタートアップ」や「イノベーション」という言葉を聞かない日はない、という状況になっているように思います。しかし、イノベーションには俯瞰的な視点から異なる分野をつなぐことのできる”コーディネーター(あるいは、メディエーターなどとも言われる)”の存在が不可欠であり、今後、より多くの人材が必要です。

では、どうやってそうした人材を増やせるのでしょうか?例えば、多くの人が思いつくように、理系大学院で経営戦略やファイナンスといった科目を教えるなど、これまでになかったようなイノベーション創出に特化した総合教育というものがあり得るかもしれません。また、科学技術と芸術を、その起源に戻り再び結びつけるような環境もさらに必要かもしれません(例えば、地理的に近い東京大学と東京藝術大学の間で、また、CERNにはすでにそのような環境があります)。もちろん、こうした要素は多種多様なプログラムとして世に溢れています。その気になれば、自分自身の力でコーディネーターとして要求される性質を獲得することは可能です。しかし、それでも十分ではないと私たちは考えています。

私たちは、まず、LabMeUpと呼ぶイベントを通じて、毎回テーマを設定し、その中に各領域の最先端の研究者と多様なバックグラウンドを持つ参加者を集め、自分自身が仮のコーディネーター(つまり、議論を導くためのファシリテーター)となり、それぞれの研究成果の中にある革新的な技術、積み上げられた知見、新規性の高いアイデアをあるひとつの事業イメージへと結びつけることを行います。そのためには、それぞれの参加者の特性を最大限に引き出すことのできるコミュニケーション技術が必要になりますが、BeyondLabのファシリテーターたちは日頃から専門家を含めた内部での議論や試行錯誤を行うことでそれを磨いています。また、単に事業イメージといってもその可能性は無限です。LabMeUpでは、あくまで限られた時間の中で、無数に引ける線のひとつを描くに過ぎません。ですが、こうした体験の価値は少なからずあると信じています。なぜならば、登壇者してくれた研究者のほとんどが、「こうした場が長い間欲しかったが、自分の今までの環境では得られなかった」「研究者でありながら事業化を考える勇気がなかったが、もしかしたら行けるかもしれないと思えた」「自分の研究の価値を再発見する機会になった」という感想を持ち、また参加者のほうからも、「研究は社会の中でもっと活かせると思えた」「何か新しい考え方、ものの見方を学べたように感じる」という声が聞こえてくるからです。このように、研究者か否かに関わらず、コーディネーターの視点をより多くの人に共有することにより、科学技術に基づいたイノベーション創出への意識はぐっと高まるのです。彼ら/彼女らは、今後、自身がコーディネーターとして動くことを実践しながら、それだけでなく、社会の集合的無意識をも形成していきます。そうして、社会は新しい感覚をアップデートし、今ある個々の要素がさらに有機的に結びつき、より多くのイノベーションを生み出すための世界共通のプラットフォームが創られるはずです。私たちにとってLabMeUpは、そのきっかけを蒔く場所なのです。

BeyondLabは、これまでに(2017年3月時点)50以上のイベントを実施し、1300人以上の参加者を得て、100以上の科学研究ベースのプロジェクトを扱ってきました。非営利団体として、常にオープン・中立の立場をとり、様々なパートナーとのコレボレーションを行っています。また、フランス、スイス、スペイン、日本などに支部を持ち、国際的な活動もスタートさせています。各ローカル支部の役割は、まず、その国や地域のエコシステムを発見、構築すること、そして、それらを国という枠組みを越えて繋いでいくことにあります。というのも、ある社会課題とそのソリューションは必ずしも地理的にオーバラップしているわけではなく、今後、異なる国・地域のエコシステムが相互に関わり合うことで、そうしたギャップを埋めていく必要がますます高まってくると考えられるからです。

以上、まだBeyondLabを知らない、あるいは、改めて何をやっているのか知りたいと思っている皆さんへ向けて、私たちの活動をご紹介してきました。もし興味を持っていただけましたら、ぜひ一度イベントに参加してみてください!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

公式HP

日本支部の関連情報

https://www.facebook.com/beyondlabtokyo/