クラウドファンディング = 借金

Bolt という、ハードウェアスタートアップを中心に投資している VC が以前「Kickstarter is Debt (Kickstarter は借金)」という記事を書いており、「クラウドファンディングで集めたお金は製造のためのお金であって、研究開発費ではなく資金調達でもない、負債(借金)であることを認識しよう」と主張しています。私もその主張を支持しており、本記事のタイトルもそこから取ってきています。

(※なお、この記事はクラウドファンディング出資者ではなく、キャンペーン主催者向けの記事です。またハードウェア系プロジェクトの購入型クラウドファンディングを前提としています)

この記事に改めて言及した背景は、最近クラウドファンディングのプラットフォームを運営する企業が国内でも増えてきた影響か、学生のハードウェア系のプロジェクトやアイデアに対しても、「このアイデアを実現するために、クラウドファンディングでお金を集めよう!」と気軽に誘いをかける企業の方々がいるという点にあります。

プロジェクトを進めたい人にとっては、たしかに購入型のクラウドファンディングは「モノ」を作る前に需要を測れる良い手段であり、イニシャルコストが大きくかかるハードウェア系のプロジェクトでは有効な資金の集め方です。

ただハードウェアの生産に関するノウハウがない企業が、学生のハードウェア系のプロジェクトを無闇に焚き付けてクラウドファンディングをさせるのは、「クラウドファンディングのキャンペーンが目標額を達成したとき」に結構な問題になるのではないかと思います。

上述の Kickstarter is debt の記事にある通り、クラウドファンディングで集めたお金は製造のためのお金であって、研究開発費のために使うお金ではなく、資金調達でもありません。さらにいえば、クラウドファンディングはプリセールスとして有効ですが、Product/Market Fit の確認 (LTV>CAC など) や顧客開発の代わりになるものではありません。

もし消費者向けのハードウェアのプロダクトで、購入型のクラウドファンディングを始める場合、その前に BOM や COGS、コストやマージン、さらにはパッケージや配送、そして時間軸などについて、キャンペーンを始める前にある程度の確度で把握しておく必要があります。

そういう状況になっていないと、いざクラウドファンディングのキャンペーンが目標金額に達成しても、製造コストなどを含めると結果的に予算オーバーしてしまうことは普通にありえます。また金銭的な面だけではなく時間軸についても重要で、出荷の遅れが発生した場合、キャンペーン主催者個人の評判を著しく傷つける可能性があります。

製品と交換という風に約束してクラウドファンディングで集めたお金は、VC などから equity finance で集めたお金と違って、失敗したときには基本的に出資者に返金をしなければなりません(だから debt = 負債、借金です)。仮にそのとき研究開発や人件費で集めたお金を使ってしまっていると返金できなくなる可能性があります。そうなると穴の空いた分を補填するために、さらに借金をする必要すら出てきてしまいます。

社会人なら貯金で何とかなるかもしれませんが、学生がそうした状況に追い込まれるとなかなか取り返しがつきません。


アイデアや PoC のプロトタイプが出来た段階というのは、以下の図の紫の部分のような、まだまだ最初の段階です。この状況で以後のコストを把握するのは、量産の経験のない学生にとってはかなりリスクが高いことが多いです。

だからといってクラウドファンディングをするな、と言っているわけではありません。クラウドファンディングは目的に寄っては有効な手段なので、たとえばまだプロトタイプの段階でクラウドファンディングをするときは、

  • 最悪自分たちの手作業で製造できる数量 (10 〜 100 個) のみの募集に留めておき、大量生産前提の個数にはしない
  • 単価を高めに設定しておく
  • まだプロトタイプであることを強調する
  • 報酬を製品そのものではなく別のものにする(ステッカーやTシャツ、レポートなど)
  • クラウドファンディングの経験のある企業やエンジェル投資家などからサポートを得る(マーケティング面ではなく実行面で)
  • 製造の知見やフィージビリティを確認できる人のサポートを得る
  • 赤字が出たときにサポートしてくれそうな投資家からのバックアップを得る(キャンペーン達成の実績をレバレッジしてお金を集める、などもできますが、その場合、本格的に会社化していく必要はあります)

という状況で始めることをお勧めします。

昨今はクラウドファンディングのキャンペーンに出資する層がより一般に広がってきたことにより、集められるお金は増えたものの、製品に求めるクオリティが高い人たちもクラウドファンディングに参加するようになってきています。また Kickstarter や Indiegogo を使うような「ある程度分かってる層」がバックするのと、大企業がリーチできるような層の人たちがバックするのとでは、製品に対する期待値は自ずと違ってくるはずです。そうした期待値に合わせていく必要が出てきつつあることも認識しておいたほうが良いかもしれません。


クラウドファンディング自体はパワフルなツールであり、それを否定するものではありません。うまく使うことでこれまで以上に多くの人がチャンスを掴める素晴らしい仕組みです。ただそこで得たお金の使いみちをきちんと理解した上で、支援者への約束を設定し、クラウドファンディングを実施することを個人的には強くお勧めします。

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