シリコンバレーはただの場所ではなく、マインド(とコミュニティ)である

シリコンバレーはただの場所ではない。マインドである」と書いたのは Andreessen Horowitz の Marc Andreessen です。

これは非常に良い指摘だと思っています。たとえば仮に「シリコンバレーのような”場所”をどう作っていくか」という問いを立てた場合は、

  • 企業の R&D センターと大学をミックスしたクラスターを作る
  • コワーキングスペースなどの場所を作る
  • 技術ライセンスの移転を行いやすくする
  • 規制を緩める
  • 資本を集める
  • イベントをする
  • 支援体制を整える

と、「場所」という言葉に引き寄せられた答えを返しがちです。しかし現状、残念ながらその多くがうまくいっていないとも言われています。

一方、「シリコンバレーのような”マインド”をどう作っていくか」という問いを立てた場合にはもっと別の角度の回答が見えてくるのではないかと思います。

たとえば pay it forward のマインド人を紹介するマインド(と紹介を受け入れるマインド)、誰かになにかを ask することをそれほど躊躇わない、といったようなマインドなどがシリコンバレーにはあって、そうしたマインドがスタートアップ全体の成長スピードを下支えしてくれていると考えたとき、その問いによって「場所の開発」だけでは実現できない部分が見えてくるのではないでしょうか。

そんなとき、マインドをある種の意思決定と考えると、それに最も大きな影響を与える一つの要因は人間の社会性であり、その社会性を作り上げるのは起業家やスタートアップ関係者を取り巻くコミュニティではないかと思います。

スタートアップコミュニティの重要性

ボストンの Route 128 の凋落とシリコンバレーの隆盛の経緯を調査し、その理由を人材の流動性や分業体制、技術の進歩スピードや地域のネットワークなどから説明した「現代の二都物語」という本があります(解説)。こうした特徴をすぐに模倣することは難しいのですが、コミュニティの力を強化することでその一部は実現できると思いますし、より良いマインドを醸成していくことではないかと思っています。

またマインドを醸成するという点以外にも、スタートアップコミュニティを強くすることは良い効果を生むと信じています。

たとえば、スタートアップのコミュニティができると、

  • 誰が優秀で信用できるか
  • スタートアップの経営ノウハウ
  • 誰がどういうスキルを持っているのか
  • どの業者が良かったのか(悪かったのか)
  • どの投資家が良かったのか(悪かったのか)

といった Web や本では出にくい情報が、人のつながりを介して広がっていくと考えられます。

最近、日本の CTO の半数以上が株をもらっていない、というニュースがありましたが、あれはまさにエンジニア側のコミュニティにスタートアップに関する知識が溜まっていなかった、という証左ではないかと感じています。ビジネスサイドとエンジニアサイドにおけるスタートアップ関連情報の非対称性により、エンジニアサイドが損をするようなことはエコシステム全体として不健全であり、長期的に悪影響を及ぼします。そしてこうした不健全さを是正するには、メディアによる正しい情報発信と、それを知識として長期に溜めておくコミュニティの力が合わさることが必要ではないでしょうか。

「年収も保有株も少なすぎる」、ベンチャーCTOイベントで実態報告 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/061700551/

とはいえ、カクテルパーティーやネットワーキングイベントには効果がないという指摘もあり、もっと起業家に寄り添う形でのコミュニティ形成を考える必要があります。

そこで今回は、スタートアップのコミュニティに関する研究とそ成果を以下に簡単にまとめてみました。

スタートアップコミュニティに関する研究と言説

スタートアップコミュニティに関する研究は US を中心に様々な形で行われています。私も先日、起業家の社会的ネットワークに関する記事を書きました。

その他にもスタートアップコミュニティという視点で示唆的なものがいくつかあります。例えば以下の様なものです。

  1. ローカルなスタートアップコミュニティが大事
  2. 一つの場所に複数の文化やコミュニティがあるべき
  3. 場所ごとに専門性を分ける
  4. スタートアップのステージに合わせた多様性
  5. 従業員も含めたピア・ラーニング
  6. コミュニティでのトランザクティブメモリ

1. ローカルなスタートアップコミュニティが大事

良い起業は地理的に集中する傾向にあるという調査があります。特に近年は都市部に集中するようです。そしてネットが発達したとはいえ、起業家コミュニティはローカルで成長することが指摘されています。たとえば時系列で Twitter のフォロー関係を追った場合、起業家が新たにフォローする人たちは、国内で有名な起業家や VC といったわけではなく、ローカルの起業家や政府関係者だったそうです。

http://www.kauffman.org/newsroom/2014/04/kauffman-foundation-research-finds-that-grassroots-entrepreneurs-think-locally-act-locally

リンク先の同レポート内では、そのローカル性ゆえに、ネットや Twitter での情報発信していくことよりも、どうやってローカルで起業家同士のネットワークを作っていくかの重要性が指摘されています。細かいノウハウや悪いうわさなどは、対面でやり取りされることも多いでしょうし、日=その指摘は説得的です。

個人的に、コミュニティはスタートアップと同じようにまずは極力小さく始めるべきだと思っています。私個人は本郷という小さなエリアに基本的には注力したいと考えています。

2. 一つの場所に複数の文化のコミュニティがあるべき

東京の中でも渋谷は渋谷の文化、本郷は本郷の文化、といったように場所ごとに別のコミュニティの色がありますが、たとえば本郷という小さなエリアの中でも小さなコミュニティがたくさんあったほうが良いと考えられます。色々なコミュニティが多数あるほうが、様々な種類の人や様々なステージの人を受け入れる土壌ができ、結果的に地域全体として多様性を確保することができます。場所が近くさえあれば、たまにそれぞれのコミュニティが混ざるということも容易です。

実際、一つのプログラムやコミュニティですべての起業家をカバーするというのは難しい、という指摘がされています。それぞれ似たような起業家向けイベントでも意外と来る人は異なるため、異なるタイプのイベントやプログラムは必要のようです。そのため、一つの小さなエリアにも複数のコミュニティがあるほうが健全ではないかと思います。

異なるコミュニティに異なる人達が属するネットワーク図。複数のコミュニティに顔を出すのは一部の人のみ。 http://www.kauffman.org/newsroom/2014/04/kauffman-foundation-research-finds-that-grassroots-entrepreneurs-think-locally-act-locally

3. 場所ごとに専門性を分ける

Marc Andreessen は、シリコンバレーをコピーしようとすべきではない、と指摘しています。代わりに提案されているのは 50 の異なるシリコンバレーを作ることです。たとえば「ドローンバレー」や「自動運転車バレー」といった、これから伸びてくるテクノロジの専門分野に特化した集積地です。実際、Boston はバイオに関して強いですし、深圳はある種の「IoT バレー」と言えるかもしれません。

日本では B2C のWeb やモバイルは渋谷周辺に集積していますが、B2B スタートアップは比較的分散しており、また日本橋ではバイオを盛り上げようという機運もあります。こうして専門性をエリアごとに作っていくことは、恐らくスタートアップのローカルコミュニティを育成する上でも有効ではないかと思います(もちろんそれだけではダメだと思いますが)。

4. スタートアップのステージに合わせた多様性

たとえば NYU では、起業前の人たちに向けて以下の様な5つの段階に分けて様々な仕掛けを用意しています。起業前といっても、色々な段階に分けて考えて仕組みを作っていくことが重要だと思われます。

http://www.slideshare.net/rimalovski/sxsw-a-universitys-role-in-funding-startups15mar15 の一部を翻訳

また起業後にもスタートアップには様々なステージがあることがよく指摘されます。

たとえばスタートアップのビジネスが軌道に乗るに連れて、創業者たちは徐々にネットワーキングイベントに参加しなくなってくることが分かっています。そうした調査を鑑みると、イベントの数をシンプルに増やすというよりも、ステージごとに必要となる、細かいけれど重要なトピックなどをカバーするイベントなど、イベントの多様性を確保していくほうが有効だと同レポートでは指摘されています。

一方で創業者たちはローカルのピアネットワークに対する要望が強いという研究結果も同レポート内で言われてます。個人的にも、特に同じステージのスタートアップが近くにいることが重要だと感じており、ピアの小さなコミュニティをいくつも作っていくこと、それをサポートすることが効果的ではないかと考えています。

5. 従業員も含めたピア・ラーニング

創業者同士のピアネットワークの要望が高いと書きましたが、ピアネットワークができることにより、なんでも知っている「先生役」がボトルネックにならずスムーズな情報共有が可能です。

可能であればそれをスタートアップの創業者たちだけではなく従業員レベルでも行うことで、さらにそのネットワークの有効性が高まるのではないかと思います。そのためにも細かなトピックに分かれたイベント等は有効なのではないでしょうか。特にこの 10 年はエンジニア間の情報共有が盛んですが、それをもっとビジネス領域まで広げていく必要があるのではと感じています。

実際、創業者に関するコミュニティやつながり分析はいくつかあるものの、従業員にまでそれを広げた分析や活動はあまり行われていないというのが実情ではないかと思います。しかし本当にスタートアップ全体の効率性を考えるのであれば、スタートアップの従業員ネットワークも創業者ネットワークと同様に重要なはずです。

またエンジニアは同じレベルのエンジニアとつるむ傾向にある、という研究結果もあります。初心者向けなら初心者向けのコミュニティがあり、上級者には上級者のコミュニティがあるなど、レベルを分けたコミュニティが必要と言えるかもしれません。

6. コミュニティ全体でのトランザクティブメモリ

誰が何を知っているのかを知っていること (knowing who knows what)、が組織のパフォーマンスを上げるうえで重要だと言われています。これをコミュニティにも応用することで、コミュニティ全体のパフォーマンスを上げる示唆につながるのではないかと思っています。

特にトランザクティブメモリを高めるには、直接対話が重要だと言われています。そのため、ローカルでいかに直接対話する機会をいかに増やすかがコミュニティでの情報共有を行う上で重要ではないかと考えています。

おわりに

色々始めていこうと思いますので、近隣のコミュニティにいる方々は宜しくお願いします。

関連文献

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