テクノロジやツールは指数関数的に進歩しているので、世界はこれからもきっと良くなる(良くする)

※この記事は「反領域的なスタートアップはチープなツールの組み合わせから」の一部を独立、編集したものです(長いと言われたので)。


世界には様々な問題があり日々ニュースを騒がせていますが、長いスパンで見てみれば世界はここ数十年で急速に良くなっていると捉えることが可能です。

たとえば西暦 0 年から見てみると、GDP は指数関数的にこの百年の間に向上しました。(※横軸は西暦です)

Matt Ridley ”繁栄” より

また世界の絶対的貧困もここ数十年で大きな改善を見せています。

https://www.weforum.org/agenda/2016/01/poverty-the-past-present-and-future/
https://www.weforum.org/agenda/2016/01/has-the-world-overlooked-a-major-achievement/

これほどまでに急激に世界の環境が良くなっているのは、様々な技術的イノベーションが近年起こっていることが大きな要因を占めているとされています。

振り返ってみれば、かつてのテクノロジの進歩はとてもゆっくりしたものでした。たとえば石斧は 100 万年以上ほとんど変化が起こらなかったと言われています。また Wired の創刊編集長である Kevin Kelley が『テクニウム (What Technology Wahts)』で指摘するように、水車は 1 年に一度も進歩するようなものではなく、鉄の強度が 10 年に一度増すこともなく、トウモロコシの収穫量が劇的に増えることはありませんでした。

しかし現在はどうでしょうか。毎年のように新しい技術が出てきて、新しい進歩が見られます。今から 10 年前には iPhone のようなタッチベースのスマートフォンは存在しなかったにもかかわらず、今や数十億台のスマートフォンが世界中で使われています。

最初は「おもちゃだ」と言われていたマウスは数年に一度大きな進歩をし、球体を転がして認識していたものから赤外線を使うものになり、有線からコードレスになっています。モバイルコンピューティングの世界ではマウスどころかタッチが中心となりつつあり、もしかすると今後はタッチすら不要の音声入力などが主流になるかもしれませんし、VR/AR が流行れば、空中のジェスチャがマウスの代替となるのかもしれません。

このように技術はここ数年劇的に進歩しています。Google での AI 開発を指揮する Ray Kurzwell が Singularity is Near で指摘したように、様々な技術が指数関数的に進歩をしているとも言えそうです。

指数関数的な進歩の例:ムーアの法則

その最も有名な例は「集積回路上のトランジスタ数が 18 ヶ月ごとに倍になる(あるいは価格が半分になる)」というムーアの法則です。ムーアの法則の終焉が騒がれる最近ですが、それでもここ数十年はほぼ指数的にそのチップ数とクロック数を伸ばしています。(※グラフの縦軸は対数です)

インテルのチップに見るムーアの法則の実績 (http://singularityhub.com/2016/03/08/will-the-end-of-moores-law-halt-computings-exponential-rise/)

また Kurzwell らは、かつて真空管からなどからトランジスタ、IC などへパラダイムシフトが起こることによってムーアの法則が保存されてきた、という経験則によって、これからは IC とは別の形でムーアの法則が保存されていくのではないかという論を立てています。

実際に過去を見てみると、5 つのパラダイムシフトが起こり、ムーアの法則が維持されていたというのが過去の経験則になります。

パラダイムが変化することでムーアの法則が維持される (http://singularityhub.com/2016/03/08/will-the-end-of-moores-law-halt-computings-exponential-rise/)

ムーアの法則以外の指数関数的な進歩の例

ムーアの法則以外にも多くの技術が指数関数的に向上しているテクノロジは数多く存在することも指摘されています。

たとえばデータストレージ、DNA シークエンスのデータ、インターネットの帯域幅などが同じく Ray Kutzwell によって例として挙げられています。以下の図では、それぞれ横軸が時間、縦軸が性能の対数グラフになっています。

http://singularityhub.com/2016/03/22/technology-feels-like-its-accelerating-because-it-actually-is/

またムーアの法則と同様にコストが大きく下がっている現象も見られます。以下の図は DNA シークエンスのコストが劇的に下がっている例です。

DNA シークエンスのコスト (Carlson, 2014)
https://www.genome.gov/sequencingcosts/

これらは性能向上やコストの減少という観点ですが、性能が向上することやコストが安くなることにより周辺のテクノロジやツールもその恩恵を受け、様々なツールが開発され、利用可能になりつつあります。


急成長するテクノロジとスタートアップ

スタートアップは急成長を目指す組織です。こうした指数関数的な性能の伸びを示しているテクノロジをうまく使うことで、急激な成長を支えることができるのではないかと思われます。

実際に様々な写真系のスタートアップがここ数年急成長してきたことは記憶にあたらしいのではないかと思います。以下ではカメラと写真の指数関数的な伸びを確認してみます。

カメラと写真の例

カメラ自体は 100 年以上歴史のある技術ですが、デジタル化によってその利用範囲を大きく拡大しました(デジタル化は飛躍の一つのキーだと Diamandis らは指摘しています)。

たとえば以下の図では、1933 年からのカメラの製造数をプロットしています。

http://petapixel.com/2015/04/09/this-is-what-the-history-of-camera-sales-looks-like-with-smartphones-included/

かつてはアナログカメラだったものが、カメラがデジタル化されてデジタルカメラに置き換わり、そして 2003 年を境にそのデジタルカメラがスマートフォンに搭載されることによって、その普及台数をわずか数年で一気に伸ばすことができました。

上の図は一部を省略しています。省略部分を対数にしない形で見てみると以下の様な縦長のグラフになります。これもまた指数関数的な伸びをしていることが分かります。

http://petapixel.com/2015/04/09/this-is-what-the-history-of-camera-sales-looks-like-with-smartphones-included/

さらにこうしたカメラの普及によって起こったのは、写真のツールの発生でした。

今は勝者として Snapchat や Instagram などが残っていますが、多数のアプリが開発されていました。最初は Flickr でデジタルカメラの画像を保存してシェアする使い方だったものが、カメラがモバイルに搭載されることと SNS の隆盛とが重なり、一気に写真を撮るという活動を変え、撮影枚数が急増しました。

結果、Web 上でシェアされる写真の数も指数関数的に増えていることが指摘されており、今や一日あたり十億枚を超える写真が Web でシェアされると推定されています。

一日あたりにシェアされる写真の枚数:2014 Internet Trends (http://www.kpcb.com/blog/2014-internet-trends)

上記のグラフ上で存在感のある Snapchat は、最初は写真共有ツールとして開発されましたが、今や写真だけではなくコンテンツの配信プラットフォームとして Facebook に追いつかんとする勢いで急速に成長しており、まさに新たなツールが新たな市場を切り開いた例としても考えられるのではないでしょうか。

BuzFeed のコンテンツが最もよく見られるプラットフォーム(http://www.slideshare.net/a16z/mobile-is-eating-the-world-2016/

これらはカメラはスマートフォンというツールと組み合わさることにより、その技術的な飛躍を遂げ、さらなるツールを生み出していった一例であると言えるかと思います。もちろんそれを支えているのは、そのデジタルカメラを支えるセンサの性能や CPU の性能、帯域幅の増加など、様々な技術的な発展の組み合わせです。


ツールはテクノロジの発展に合わせて今後も爆発的に増える

なぜ技術はこんなにも加速度的に進歩するのでしょうか。それは Peter Diamandis によれば「テクノロジが新たなテクノロジを生む」からだと言われています。

・(生物学的、テクノロジー的な)進化は次の世代のより良いプロダクトに繋がる。そのプロダクトはより効果的で有効な方法であり、次のステージの進歩を作るために使われる。それはポジティブフィードバックループであると言える。
・言い換えれば、我々はより速いツールを設計したり作ったりするために、より速いツールを使っている。
http://www.diamandis.com/index.php?p=blog/why-tech-is-accelerating

これは Matt Ridley が指摘する、専門化によって人はその技術をさらに進めようとツールを洗練させて時間の節約を図る、という指摘と符合するように思います。専門化によって作られたツールがさらに新しいツールを作る現場を我々は今まさにソフトウェア開発の領域で体験しているからです。

たとえば、Ruby on Rails は Web アプリケーションの作成を劇的に楽にしてくれました。それだけではなく、そこに様々な gem が開発、追加され、その RoR のエコシステムはわずか数年で爆発的に進歩した結果、Web アプリケーション開発のスピードは劇的に上がりました(その結果、多くのWeb スタートアップが生まれました)。

またここ 1 年は TensorFlowTheano を始めとした機械学習に関するツールが続々と出てきており、機械学習の民主化とも言えるような動きが見られます。オープンソースの動きなどを一緒に考えると、Chris Dixon が指摘する「Software eats software development」がまさに機械学習でも起きていると言えるかもしれません。

また Product Hunt を見れば分かるように、毎日のように新しいツールが開発されています。そしてそれは今やソフトウェア以外にも広がりつつあり、人を使ったりサービスも雨後の筍のように出てきている最近です。

たとえば Postematesオンデマンドで配達してくれる人を手配するサービスです。彼らは API を公開しているのでそのサービスをアプリに組み込むことが出来ます。つまり、人のプログラミングが(ある程度)できるということです。そして Postemates の利用は指数関数的に増加しています。

https://twitter.com/Basti/status/715738714761142272/photo/1

さらにロボットを使ったオートメーション化が進んでおり、Transcriptic は多くの実験をロボットが代わりにやってくれる環境を整えています。このサービスを使えばラボを持つことなく、以下のような JSON ベースのautoprotocol を送るだけで一部の実験が可能になっています。そしてそのために、Python のライブラリなども公開されています。

{
"refs": { ... },
"instructions": [
{ "op": "pipette",
"groups": [
{ "distribute": {
"from": "water/0",
"to": [
{ "well": "test/A1",
"volume": "40:microliter" },
...
}

なので、ソフトウェアを使ってラボをコード化できるようになってきているとも言えます。

また Verilog を使って細胞をプログラミングできるような状況にもなりつつあります。

このようにコンピュータの発展はロボットの発展を生み、そしてそれがバイオの領域まで進出しつつあります。それはコンピュータの指数関数的な進歩が大きな影響を与えているのではないでしょうか。


世界はテクノロジできっとよくなる

こうしたソフトウェアを中心としたツールは今後も爆発的に増えてくるのではないかと思います。そしてそのツールやテクノロジは更なる新しいテクノロジを生み、そのツールやテクノロジは我々の時間を更に効率的に使わせてくれるようになり、それが人類のさらなる繁栄をもたらしてくれるのではないでしょうか。

もちろんテクノロジやツールは新たな問題を生む可能性はあります。不可逆的なブラックスワンのようなことが起こる事態は事前に避ける努力をすべきだと思いますし、世界の汚染やエネルギーの枯渇、遺伝子の編集など、環境や倫理面で注意するべき点は熟議する必要があると思います。

しかしこれまでの人類の近年の歴史を見ていると、楽観的すぎるという批判を受けることを承知で、今もまだ様々な問題は世界にあれどテクノロジの発展によって世界はこれからももっと良くなる、あるいはテクノロジを使ってよくできるのではないかと考えられます。

そしてそうしたテクノロジを使って世界を良くする取り組みの中で、”イノベーションの担い手”たるスタートアップが様々な役目を負うことが増えるシーンが増えてくるのではないかと予感していますし、あるいは、自分たちが世界を良くするのだというスタートアップが徐々に周囲に増えていることを感じているここ最近です。

Fight Club 「これからはきっとよくなる」