マネージャはオーバーコミュニケーション気味で

Y Combinator のトップである Sam Altman は、スタートアップへのアドバイスの中で「チームとはオーバーコミュニケーションしろ。ほとんどの創業者はこれが本当に下手だ」と書いています。

この理由は、メッセージを伝える側はつい直観的に、自分のコミュニケーション能力のことを高く評価してしまいがちだからだろうと思います。

リーダーシップ論で有名なハーバード大学の John Kotter による古い研究によれば、マネジャーやリーダーが自分の変革のビジョンを周りに伝えたとき、1/10 程度しか相手に伝わっていなかったそうです。そして平均すると、変革の方向性について話した回数は、まわりの関係者に必要とされる頻度の 1/10 だった、とのこと。

リーダーらが自身のコミュニケーションを過大評価してしまう理由は、コミュニケーション量の計算からも示唆されます (Adam Grant, Orignals より)。

上述の Kotter の調査では会社の従業員が三ヶ月の期間内に受ける情報量が 230 万語でだったそうです。一方、同じ期間内で変革のビジョンを伝えるために使われた語数は 13,400 語でした(=おおよそ1時間の会議と簡単な報告1回とメモ1枚程度の量です)。

つまりこの三ヶ月のうち、一人の従業員が経験するコミュニケーションの 99% 以上はまったくビジョンや変革とは関係のないものでした。これでは伝えたいことが伝わっていなくても当然です。

同様のことはビジョン以外のメッセージにも言えそうです。

マネージャの文脈でも Andy Grove が同様のことを述べています。彼は High Output Management の中で「われわれは実際以上に、もちろん部下たちが考えている以上に自分自身のことをコミュニケーションの良い人、権限委譲をする人だとみなしがち」と書いており、さらにその言葉の次には「監督者の約90%は自分のマネジメント・スタイルについて、部下が考えている以上に、良くコミュニケーションを行い、権限委譲をしていると考えていた」と続きます。

マネージャやリーダーの伝えたいメッセージについて、そのコミュニケーション量が受け手のコミュニケーション量全体の中で何%かを考えると、殆どの場合 1% にも満たないのではないでしょうか。

コミュニケーション不足の改善策

コミュニケーション不全の社内的なデメリットは「フォーカスがブレる」という点が Sam Altman によって指摘されています。資源の少ないスタートアップでは皆がバラバラのことをしていては物事は進みません。スタートアップにはフォーカスが必要で、そのため優れたコミュニケーションが必要です。そしてコミュニケーションの改善は部下の活動を大きく変えるようなレバレッジを効かせてくれます。

先程の調査では 1/10、巷では「壊れるほど愛しても1/3も伝わらない」なんて言いますが、もしこれが正しいのであれば、マネージャは

  • 3 〜 10倍多く伝える
  • 3 〜 10 倍効率的な伝え方をする

のいずれかが必要です。

『1/3の純情な感情』I love you さえ言えないでいるならまあ伝わらないですよね… https://www.amazon.co.jp/dp/B000VOOMIQ

コミュニケーション量を増やす

問題のある組織では、多くの場合、単に活動量が少ないことが問題だそうです。なので手始めに、多くのコミュニケーションを心がけて、コミュニケーション量自体を多くすることはすぐに始めることができます。ただこれを愚直に実行し続けることはとてもとても難しいことだと思います。

前職時代も Satya Nadella が CEO になってから「モバイルファースト、クラウドファースト」という言葉を聞き飽きるほどに聞きましたが、逆に言えばそれほど伝えなければ浸透しなかったということを示しているのだろうと今になって思います。少なからず、同じスローガンを繰り返すことで単純接触効果により好感度は上がります。

ただ量を増やすのは限界があります。それに多くの組織は「会議が多すぎる」などのコミュニケーション過多の問題も同時に持ちがちです。そのため、効率を良くする手段をいくつか紹介します。

顧客の声を直接聞かせる

たとえばビジョンを伝えるには、実際にそのビジョンの影響を受けている人に任せるのが効果的だと Adam Grant らは調査しています。

たとえば大学の寄付金集めの担当者に、実際に寄付金を受けている奨学生の声を聞かせたところ、担当者の集めたお金は 3 倍になったとのことです。奨学生の話を聞く前の二週間に集めた資金は平均約25万円だったところ、話を聞いた後の二週間は約97万円に増加しました。特に、上司たちがビジョンを説明した後に、ユーザーを読んできて実体験を話してもらうと非常に意欲が高まる効果があったそうです

Skype でも同様に顧客の声を聞かせることで、自分たちのビジョンを伝えています。

メトリクスを設定して追跡しつづける

メトリクスの設定は現在のフォーカスを明らかにし、コミュニケーションをシンプルにしてくれます。

たとえば初期の Airbnb は、「成長率の目標のグラフ」を冷蔵庫や机、洗面所のガラスに張り出していたそうです。彼らはメトリクスの設定でコミュニケーションの効率を良くしつつ、そのメトリクスの自体のコミュニケーション量を増やそうとしていました。他にも、常に自分たちのもっとも重要なメトリクスを大きなディスプレイに表示し続けるようなチームも多々あります。

Social Network / Facebook が 100 万人ユーザーを超えた瞬間のシーン

ただよくメトリクスを設定したきりで終わってしまうチームもあります。これもコミュニケーション量の議論と同じで、きちんと追跡し続けられるかどうかはマネージャの手腕にかかっていそうです。


Sam Altman も、「かつてはそれほど注意を払っていなかったものの、最近は初期のスタートアップに対してコミュニケーションの重要性を語っている」と書いており、さらに「コミュニケーションスキルは議論されることの少ない最も重要な創業者のスキルだ」とも指摘しています。(皆が自分のことをコミュニケーション強者だと思っているからかもしれません)

最近はどの組織でもプレイングマネージャが増え、スタートアップのマネージャ陣は全員がプレイングマネージャのようなものなので、コミュニケーションばかりに気を配っていることもできず、こうしたコミュニケーションの不足になかなか気がつけない状態になっているように思います。

私ももともとコミュニケーションが得意ではありませんし、学生たちから「何を考えてるのか分からない」と言われたりしてますが、1 on 1 などを通してまずはもう少しコミュニケーション量を増やそうと四苦八苦している今日このごろです。

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