会社を売るな: Don’t sell your company

Taka Umada
7 min readDec 16, 2016

Twitter に買収された Vine が閉鎖されたとき、Vine の創業者である Rus は Twitter 上で「Don’t sell your company! (会社を売るな!)」と呟きました。

最近「短期間での M&A (事業売却) を前提した起業のアイデア」で起業相談を受けることが何度かありました。個人的には国内でも M&A が増えて欲しいと思ってますし、IPO 以外の Exit の選択肢の知識が起業前の人の中でも当然のように流れているのは日本のスタートアップエコシステム全体として良いことなのかなと思っています。

実際、US では現在、VC に投資されたスタートアップの8割前後が M&A での Exit になっており、多くのスタートアップは M&A での Exit を一つの選択肢として考えていると思われます。

http://nvca.org/pressreleases/2016-nvca-yearbook-captures-busy-year-for-venture-capital-activity/ のデータから作成

しかし「結果的に M&A に至るアイデア」は良いとはいえ、最初から M&A 狙いのアイデアでのスタートアップはあまりお勧めできるものではないという論調が US にはあり、私も個人的にそれに賛同します。

今日はその理由の中で、私が聞いて説得的だったものをいくつか紹介します。

1.なぜ大企業がその事業をしていないのか

他人よりも “賢く” 技術や社会のトレンドに乗ってスタートアップを立ち上げて、ベンチャーキャピタルから資金調達をして大企業に売却を狙う、という方法もないわけではありません。ただ、IT 領域であれば Google や Microsoft、Facebook といった大企業の幹部よりも自分のほうが賢く、トレンドがよく分かっている、という自信があれば、です。

まともなアイデアであれば大企業がすでに手を付けているはずです。であれば、何故やっていないのかを考える必要があります。規制の問題なのか、法律的にグレーなものがあるのか、イノベーションのジレンマに陥っているからなのか等々……理由は色々あるかもしれません。

ちなみに名前を挙げたような企業のトップの頭の良さは相当だったので、私には彼らに賢さで勝てる自信はありません。そして実行力で勝負をしようとすると、スタートアップは資源のある大企業にはなかなか勝てません。

2.売却後にも成長するかどうか

売却目的の事業のアイデアの場合、アイデアがつい小さくまとまりがちな傾向にあるように感じます。売却まではそれで良いかもしれません。しかし、買収された後にも大きく成長するシナリオが描けていなければ買収対象とはなりません。

事業シナジーや買収側に必要な技術をスタートアップが持っている、という状況がない限り、小さく成功するだけの事業を買収する企業はいません。買収する側は「このままだといずれ上場するぐらいに大きくなりそうな事業」を早く、安い段階で買収したいと考えています。

それに上場ゴールならぬ売却ゴール、つまり売却後何か問題が起こったり、成長が衰えるような事案が増えてくると、国内で増えつつある M&A の潮流に冷水を浴びせかけることになるかもしれません。

3.買収は IPO よりそんなに早くない

M&A なら 3 年ぐらいで早く Exit できる、なんて思っている人も多いかもしれません。たしかに IPO よりは Exit が短期になる傾向はあるものの、実はそれほど大きな差があるわけではありません。

US のデータになりますが、Exit までに要する時間は昨今、

  • IPO: 7 〜 8 年程度
  • M&A: 5 〜 6 年程度

です。「3 年で Exit を目指します」という話も聞きますが、その早さはレアケースです。

ちなみにこうした、M&A なら早く Exit してその後は悠々自適に暮らす、と考えている人は US でも多いようで、Y Combinator ではその傾向に警鐘を鳴らしています

4.事業売却は自分たちのコントロールの範疇外にある

自分の作った事業を売却できるかは起業家がコントロールできるものではありません。それは事業を買収する側がコントロールする意思決定です。たとえば一度自分たちの事業の競合が特定の企業に買収されると、その企業から買収される可能性は減ります。

自分たちで意思決定やコントロールできるのは上場するかどうかだけです。

5.VC から投資を受けにくくなる

ベンチャーキャピタルはその投資スタイル的に小さな成功を欲していません。ベンチャーキャピタルは大きな成功をするスタートアップに投資をしたがります。そうなると必然的に IPO 狙いで事業計画を立てたほうが VC からの調達がしやすくなります。少なくとも「売却が目的です」とは彼らに言わないほうが良いかもしれません。

例として、Zero to One に掲載されている例を引くと、Andreessen Horowitz は Instagram に約 2,500 万円を投資しました。その 2 年後、Instagram は Facebook に1,000億円という巨額で買収されました。そうして Andreessen Horowitz は約 80 億円の売却益を得たと言われます。

倍率的には 300 倍以上のリターンを手に入れました。しかし Andreessen Horowitz の運用するファンドは 1,500 億円だったため、Instagram を約30社見つけなければ十分なリターンを出せているとは言えません。投資後に素早く売却してリターンを得ることは良いように見えますが、それはベンチャーキャピタルのビジネスモデルとは少し相性が悪いこともあります。

代わりに VC は Facebook (下図の一番左) のような外れ値のホームランを狙うビジネスです。

https://www.cbinsights.com/blog/venture-capital-power-law-exits/

ちなみに M&A といっても、US の場合は投資額以下で買収されるケースが大体 2 割程度です。10 倍以上のリターンが出るのも大体 2 割程度のようです (NVCA のデータより)。

6.集中力を乱す

何より事業売却の努力は事業自体への集中力を削ぎます。これは何度も何度も繰り返し繰り返し言われていることです。「事業を売る」と決めるまで、大企業の Corp Dev の人たちとは決して話さないほうが良いというのは真実なのでしょう。

決して M&A に否定的なわけではありませんし、事業を進める途中から Exit の選択肢として考えておくのはありだと思います。

ただ、最初から M&A 狙いのスタートアップ、というのは色々な意味で避けたほうが良いのではないでしょうか。

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Taka Umada

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein