効果的な 1 on 1 ミーティングのためにマネージャができること

Taka Umada
Jan 12, 2017 · 19 min read

2016 年に逝去した、元 Intel CEO の Andy Grove による High Output Management の日本語訳が復刊され、さらに Hard Things の Ben Horowitz の序文がついたことで、改めてスタートアップ界隈でも 1 on 1 (ワンオンワン) ミーティングの効果が注目され、各社や各人の 1 on 1 のノウハウが共有されるのではないかと期待しています。

Y Combinator の Sam Altman はスタートアップ初期でのコミュニケーションの重要性を何度も説いています。特にスタートアップは業務が複雑になりがちで、かつ状況の変化も早いため、コミュニケーションがボトルネックになりがちです。

コミュニケーションの遅れは意思決定の遅れにつながります。そして意思決定の遅れは事業の進捗を遅らせたり、トラブルの兆候を見逃してトラブル発生の原因になります。また従業員が仕事を辞める原因の多くは「上司との人間関係」だとも言われ、従業員の維持といった面でもコミュニケーションは重要です。そうしたときに役立つのが 1 on 1 です。

もちろん、従業員が3, 4人で、もともと気心が知れている関係であれば、スタートアップに 1 on 1 は不要かもしれません(大体そういうチームは深夜に 1 on 1 的な深い話をしているようです)。しかし 8, 9 人ぐらいを超えてきて、これまで創業者と関係がなかった人がスタートアップに入ってくると、次第にコミュニケーションに支障が出始める傾向にあるように思います。

1 on 1 は企業文化や戦略、アラインメント、信頼関係、従業員の幸福度や会社で働き続ける可能性、さらに自己成長に役立つ、と言われます。CB Insights の CEO なども「もっと 1 on 1 をやるべきだった」と後悔していたり、Groove の CEO も、もし何か違うやり方ができるとしたら何をするか、という問いに対して「全従業員と 1 on 1 ミーティングのスケジュールを始める」と答えています。1 on 1 用の SaaS を提供する Lighthouse というスタートアップも居るぐらいです (500 Startups 出身)。

そこで自分の頭の整理も兼ねて、1 on 1 を実施する上で調べたことや気をつけていること、これまで数年 1 on 1 を受けたり実施してきた体験等を踏まえて、 1 on 1 についての情報をまとめてみました。

記事が長いので目次を書きます。以下の通りです:

  1. 最初の 1 on 1 を試す前にやること
  2. 毎回の 1 on 1 を行う前の準備
  3. マネージャの心構え
  4. 1 on 1 で話す内容
  5. ミーティングをまとめる

また特に以下の記事などはお勧めです。


1.最初の 1 on 1 を試す前にやること

1 on 1 の目的や背景を伝える

1 on 1 を始めようとしたとき、恐らく 1 on 1 に慣れていない人からは「毎日会ってるから要らない」「いつでも話せる」「スタッフミーティングがあるのでは」「ミーティングが邪魔」といった反応が返ってきます。そうした状況では 1 on 1 の効果は上がりにくくなります。

そこでまず「何のために 1 on 1 を実施するのか」を対象者(部下)に伝える必要があります。特に「1 on 1 は部下(あなた)のためのもの」であることを伝えます(後述するように、通常 1 on 1 はアジェンダも部下の人が決めるようにしてください)。

1 on 1を実施する目的は会社によって異なりますが、一般的に言えば部下個人を中心としたミーティングを設けることで、

  • 「部下のキャリア開発」
  • 「部下のパフォーマンス管理」
  • 「部下のモチベーション向上」
  • 「マネージャの情報収集や理解度の向上」
  • 「部下とマネージャの良好な関係性の維持」

を行うことができます。

さらにいえば、1 on 1 を頻繁に持つことで、「上司は部下の成長へコミットしている」という態度を示す良い機会になりますし、1 on 1 を通してパフォーマンスへのフィードバックを頻繁に行えます。頻繁なフィードバックは部下やチームの能力向上を助けてくれます。

1 on 1 の効果に関する最終的な責任はマネージャにありますが、部下の協力がなければ効果は上げられないので、いかに最初に巻き込むかがやはり大事です。

できれば「なぜ 1 on 1 が “部下のあなたにとって” 重要なのか」といったような文書を作っておき、いつでも説明できるようにするか、今回のような記事や類似記事を部下にも読んでもらい、1 on 1 の目的や背景、効果に関する共通認識を作るところから始めたほうが良いかもしれません。

マネージャーの職責を伝える

1 on 1 を始める上では、マネージャの職責や視点を部下にも理解してもらうことが助けになります。

マネージャーの職責を一般化して言えば、Andy Grove が指摘するように、「マネージャーのアウトプット = 自分の組織のアウトプット + 自分の影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプット」です。

そして 1 on 1 で話し合われるべき内容は、このアウトプットを増やすために必要なもの、たとえばチームワーク、個人の話(近親の体調等)、職場の人間関係、他チームとの連携、問題を未然に防ぐための情報、マネージャ自身へのフィードバック等々の広範な内容になり、基本的には「1 on 1 では何でも話して欲しい」ということになります。

また Andy Grove によれば、マネージャの最も重要な仕事は「部下から最高の業績を引き出す」ことです。マネージャはそのために、「訓練」と「動機づけ」という二つの手法を取ることができると彼は言います。

その文脈で 1 on 1 を見てみると、マネージャは 1 on 1 の中のパフォーマンスフィードバックを通して部下の「訓練」を行い、キャリア開発の相談を通して部下の自己実現を支援して「動機」を高める環境を作ることができます。

そのため 1 on 1 とは、部下の成功を支援することで自分の組織のアウトプットを上げるための、重要な「マネージャの仕事」です。この部分の共通認識を部下にも持ってもらうところも重要ではないかと思います。

適切な頻度を設定する

状況によって 1 on 1 の最適な頻度は異なります。

  • 若い人は多め、ベテランは少なめ
  • 状況が変わりやすい職は多め、それほど頻繁に変わらない職は少なめ
  • 入社直後は多め、その後は少なめ

など、部下の状況や職務、習熟度によって変えていくほうが良いと言われます。とはいえ最低でも隔週で行ったほうが良いでしょう。

できるだけ定期的な予定を入れておくほうが良いですが、一回のミーティングの終わりと一緒に設定するのも一つのやり方です。

適切な時間を設定する

一般的に言えば 30 分程度から 90 分程度が良いと思います。これも役職や部下に与えている裁量、開催の頻度によって変えることになります。

Andy Grove は、「(1 時間以下だと)部下が持ち出してくる問題は、すばやく取り扱える簡単なものにおのずと限定されがちである」と警鐘を鳴らしています。私も裁量が大きいときは、二週間に一度の 30 分の 1 on 1 だと短かかったように思います。

「クリエイターのスケジュール」を「マネージャのスケジュール」で邪魔しない

Paul Graham は “Maker’s Schedule, Manager’s Schedule” (lionfan さんの和訳) の中で、マネージャがクリエイターの時間を分断しないように、という話をしてます。

エンジニアやクリエイターにはまとまった時間が必要です。1 on 1 が必要だからと言って、彼らの集中力を切らせるような形でミーティングを入れないようにして下さい。

やり方を適切に移行する

1 on 1 のやり方は適切に変えていく必要があります。効果的な 1 on 1 は信頼関係の上に成り立ちます。そのために、まずは信頼関係やラポールを作る必要があります。

なので最初は 1 on 1 の型に無理やりはめようとせず、雑談や個人の問題などから入るのも効果的かもしれません。「親密になれる36の質問」や「あなたのチームは、機能してますか?」の個人の歴史に関する演習やチームの有効性に関する演習、MBTI などのパーソナリティ診断などを活用して下さい。

その後、仕事の面を重視した 1 on 1 の形式に徐々に移行していくことをお勧めします。


2.毎回の 1 on 1 を始める前の準備

必ず事前にアジェンダを設定する

Andy Grove がお勧めするのは、部下のほうが 1 on 1 ミーティングのアジェンダを事前に出すようにすることです

そうすることで 1 on 1 が部下のためのものであることを示せますし、部下は話したいことを話せるようになります。そして部下自身にとっても、今自分が抱えている課題について考える良い機会となります。逆に上司がアジェンダを設定しようとすると、部下の数だけ仕事量が増えますし、部下は話したいことを話せません。

また事前にアジェンダを出してもらうことで、事前に対策ができたりして、効率的に話が進められます。持ち帰りの多いミーティングになってしまえば生産的とはいえません。

とはいえ多くの人は進んで準備はしてくれません。なので、「マネージャも 1 on 1 で何を言われるのか怖いんです」「事前に準備できると効率的に話が進められます」と伝えたりすると、やらされ感が多少和らいで協力してくれるのではないかと思います。

アジェンダを持ちつつ柔軟に対応する

なお、アジェンダを用意したからと言って、他に重要なトピックが出てくればそれを優先するべきです。

脱線したりすると予定していた全てのトピックを話せないときもあります。話せなかった部分については次回に保留しておくと良いでしょう。

キャンセルではなくリスケジュールにする

どうしても 1 on 1 のキャンセルが発生するのは仕方がありません。そのときはキャンセルではなくリスケジュールにするようにしてください。

リスケジュールせずにキャンセルしてしまうと 1 on 1 はいつでもスキップできるもの、という習慣を身に着けてしまい、一度したことは何度も実施してしまいます。さらに悪い事には、キャンセルは「1 on 1 を重視していない(=部下のプライオリティが低い)」というシグナルを送ることになります。また 1 on 1 のキャンセルは結果的にメールを増やし、マネージャーの生産性にも悪影響をもたらすという指摘もあります。

始まる前に前回の 1 on 1 のメモをレビューする

前回の 1 on 1 のときに部下と約束したのに、まだできていない行動があれば 1 on 1 が始まる前に終わらせます。


3.マネージャの心構え

メモを取る

1 on 1 中は部下も上司もメモを取ったほうが良いと言われます。それは単なる記録ではなく、そこに集中している (be present) という姿勢を表すためでもあります。同様にメーラーなどは落としておきます。

メモは事前にもらったアジェンダのアウトラインに追記していく形で進めていくと良いでしょう。また前回の 1 on 1 の結果のレビューから入ることも多いので、1 on 1 の過去ログがすぐに引き出せるようにしていれば何かと便利です。

特に何を約束したのかをメモしておくことが重要です。約束を破ると信頼を失いがちになります。

8 割以上の時間を「聞く」に使う

1 on 1 でのマネージャの役割は聞くことです。部下からの質問に対しての答えや、状況に対するアドバイスなど、効果的にフィードバックしていきます。

また質問をして深い情報を引き出すこともマネージャの仕事です。

質問の仕方で効果が変わる

基本はオープンエンドの質問をしていくことになります。ただ「最近どう?」では答えにくいので、もっと具体的にすることも効果的です。たとえば質問が思いつかなければ、「1 on 1 で聞くべき 101 の質問」等を参考にしても良いかもしれません。コーチングの書籍も参考になります。

一旦質疑応答が終わりそうでも、できればもう一つ深い質問してみると、意外な情報を聞けることがあります。また本当に発言したいことがありそうなときは、次から次へとトピックを移るのではなく、少し時間を置いて言いかけたことを言ってもらう余裕を持つと良いかもしれません。

進捗確認や業績確認だけになるのは避ける

1 on 1 は進捗確認のミーティングではなく、部下のキャリア開発やパフォーマンス向上のためのミーティングです。ステータスアップデートは 1 on 1 で行うのではなく、メールやスタッフミーティング、スタンドアップミーティング、スモールトーク等で行ったほうがお互いにとって効率的です。1 on 1 は、もっと個人にフォーカスした話ができるまたとない機会として使ったほうが良いかと思います。

ただしジュニアや新入社員については進捗管理などを行うのも有効です。

雑談だけになるのも極力避ける

1 on 1 は単に仲を良くするためのミーティングではありません。もちろんそうした面が必要なときもありますが、基本的には仕事の時間を使って組織のアウトプットを良くするために行われるためのものなので、雑談だけで終わらないように気をつけてください。

あえて報告しないような兆候(シグナル)に注意を払い、潜在的な問題にいち早く気付く

問題の兆候を早く知ることで対策を効果的に打てることも多いため、そうしたシグナルを見つけたら深掘りするようにしてください。

1 on 1 の良いところは、スタッフミーティングなどではあえて口に出さないような、潜在的な問題であったり直観といったものを不意にぽろっと共有してくれる可能性が高まる点です。

何度でも伝えるべきことは何度でも伝える(目標やビジョンなど)

ビジョンや目標などは一度伝えただけでは伝わりません。折に触れて繰り返す必要がありますが、1 on 1 はその良い機会となります。


4.1 on 1 で話す内容

基本的には部下の話したいことを話してもらいます。ただ以下の項目をフォーマット化して、事前に埋めてきてもらってアジェンダとするのも良いかもしれません。

4.1. 最初は勝利を祝う

ミーティングをポジティブな気持ちで初められるよう、勝利を共有して祝うことから始めるのはお互いにとって重要です。

4.2. 便利な質問から始める

  • 「最近困っていることはなんですか」
  • 「私の聞く必要があるものはありますか」
  • 「サポートできることがありますか」

など、便利な質問から始めると良いでしょう。また定型の質問を毎回聞いていれば、部下としても答えやすくなります。

4.3. 課題解決

現在困っていることや支援が必要なことを聞きます。特に目標が設定されている場合は、そこに届かない原因や解決策、支援策についての話を具体的に行うことも一つの手です。ただし進捗確認だけにならないように気をつける必要があります。

4.4. キャリア開発

  • 5年後のキャリアパスをどう考えているか
  • 今現在望んでいる仕事はできているか
  • 次の成長のために挑戦したい仕事は何か

等の質問を行います。毎回キャリア開発の話をする必要はないと思いますが、今の仕事に満足しているかについては頻繁に聞いてみるほうがよいと思います。

4.5. パフォーマンスへのフィードバック

パフォーマンスの高い組織は個々人のパフォーマンスへのフィードバックを頻繁に受けます。たとえば McKinsey などでは人事システム上、毎月パフォーマンスフィードバックが行われているという話を聞いたこともあります。

フィードバックは単に改善点を伝えるだけではなく、良い点も伝えて行動を強化してもったり、モチベーションを高めてもらうことも重要です。

マネージャ自身へのフィードバックも貰うように心掛けることで、次のアクションに繋がりやすくなります。

4.6. 情報交換

マネージャとして知っておくべきことや、何かしらトラブルの兆候があれば、まだはっきりしていなくても情報として入手しておきます。

またマネージャは部下の持っていない情報を持っている事が多く、その情報が部下の仕事を助けるケースがあります。例えば人事情報などはその一種です。そうした情報をうまく提供しながら、部下の課題解決の支援を行うことも重要です。

4.7. 相談や意見(パーソナルなものも含む)

不安や不満や、会社全体として気になっているところなどを教えてもらうことも重要な 1 on 1 の役目と言えます。

また普段「聞いてよいかどうか分からない」、些細な質問などもこの場で行ってもらうようにしましょう。例えば会社の福利厚生や評価システム、技術的な相談などは、1 on 1 のような個別のミーティングのほうが聞きやすいという面があります。

4.8. 前回の宿題と今回の約束事

前回の 1 on 1 のときに渡された宿題が終わっているかどうかを確認しつつ、今回のミーティングで出た約束事についてもメモしておくと良いでしょう。


5.ミーティングをまとめる

最後の 5 分ぐらいは 1 on 1 をまとめるための時間として使うことをお勧めします。

感謝を伝える

毎日のハードワークに対する感謝を伝えることもモチベーション向上のためには重要です。

Next Action を確認する

次の 1 on 1 までのお互いの宿題や行動を確認しておきます。

次のミーティングの時間の確認と設定

定期的な予定が入っていれば来週もこの時間で良いか、もし変更があるのであれば次のミーティングはいつかを確認しておきます。

できれば部下の退出後 5 〜 10分の「アクションの時間」を設ける

ミーティング時間を 50 分などにして、10分程度余りの時間を設けておくと便利です。話し込んでしまって延長したときも何とかなりますし、1 on 1 が終わった段階で今すぐ取れるアクション(たとえばリクエストのあった関係各所への連絡等)はその場で取ってしまったほうが良いです。何事も信頼感は対応の速度から生まれます。

メモを交換する

マネージャと部下はお互いに取ったメモをメール等で交換して、約束事に相違がないかどうかを確認しておくと良いでしょう。


6.その他

ピアメンタリングの活用

1 on 1 に全員が慣れてくると、別チームの人と 1 on 1 してもらったり、同じチーム内でのピアメンタリングなども行えるようになります。ピアメンタリングの効果は様々なところで指摘されています。

場所を変える

ランチや散歩、コーヒー等、たまには場所を変えて実施するのも効果的です(メモを取りにくくなりますが)。

本記事のまとめ

書いてみると長いですが、当然といえば当然のことばかりです。ただ何の目的もなく 1 on 1 を始めても効果は薄いので、準備や設定のところは色々他の事例も見てみると面白いのではないかと思います。

以下は参考にさせていただいた記事です。

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