実はキャリアで損をしやすい高学歴エリート学生たち

ハーバードビジネススクールの調査によると、同大学の卒業生が選ぶ一番人数の多かった進路はどの年も「間違った進路」だったそうです。なぜ「間違った進路」かというと、彼らに人気の進路はその年で最高潮を迎え、その翌年から業界や会社が衰退していってしまうから、のようです。同様に東大生もその時点で人気や知名度の高い会社を高値掴みしてしまうと言われます。

他にもたとえば、日本では 1980–90 年代にかけて半導体業界に多くの優秀なエンジニアが就職した時代があります。その当時の日本の DRAM の世界シェアは約 90% でしたが、しかし 2000 年代に入ると台湾や韓国勢が急伸し、日本のシェアは約 20% まで下がりました。そのシェアの下落の分、国内の職はなくなったか、人材が海外に流出したと言われています(この辺りの詳しい話は竹内先生の『10年後、生き残る理系の条件』などをお勧めします)。これも高値掴みの一種と言えると思います。

こうした”間違った”判断が起こり、高度な教育を受けた優秀な才能が衰退する業界や会社に行ってしまい、徐々に減っていく椅子の中で生き残るために激しい競争を繰り広げ、新しい価値を生みにくくなってしまうのは社会的な損失のようにも見えます。だからこそ、こうした”間違った”判断が起こるのが何故なのかを考えて、それに警鐘を鳴らす必要があるのではないかと思います。

間違った進路を選びやすい理由

例えばこういう説明はどうでしょうか。まず学歴の高さは就職の選択肢の多さにつながるという点で間違いなく、圧倒的に恵まれています(選択肢の多さ故に選べない、という点はあるかもしれませんが)。

そして学歴にかかわらず基本的には誰もが今最高潮の業界や職を望み、誰もがその業界や職に応募します。その中で高学歴の人たちは高学歴というブランドがあるからこそ、その最高潮の企業や業界に採用してもらうに至る競争力があります。望めば最高潮の業界に入れてしまう、その競争力こそが「キャリアの高値掴み」の問題を引き起こす原因、というものです。

だから高学歴であればあるほど実は損をしやすい環境にあって、将来世界が進む方向や自分のやりたいことをしっかり考える必要があり、世間の流れに下手に流されてしまわないよう殊更気をつけたほうが良いかもしれません — —

— — と、最近学生の方からキャリアの相談を受けることがあり、こうした話をするときがあります。

とはいえこうした警鐘を鳴らす程度のことしかできていません。「未来はこうなるからあの業界がお勧め」なんていい加減な将来予測を出すことなんてできませんし、「常に不安定なことが実は安定なので、起業やフリーランスを選ぼう」「リスクを取らないリスク」なんてレトリックを使うことも憚られます。私自身も別段良いキャリアを歩んでいるわけではないので尚更です。

大きく間違わないための戦略

なので、そうしたときにはオプションの価値の考え方や、アンチフラジャイルなバーベル戦略の有効性、キャリアの間違った最適化問題に取り組まないようにランダム性を取り入れたり死亡前死因分析をキャリアに当てはめて、「10年後、自分のキャリアが大失敗したときの原因は何だろう?」と事前にキャリアが潰える原因を考えて対策してみるといった、各種の考え方を伝えるようにはしていますが、他にもなにか良いアドバイスの方法があれば教えてほしいと思います。

そもそもやりたいことなんていうのはなかなか見つからないものだと思っていて、「やりたいことを見つけよう」というのも実効性がないアドバイスだと思っています。人は情熱があるから行動するのではなく、行動して始めて情熱が生まれる、と言われるので、とりあえず何かプロジェクトをやってみればいいのではないでしょうか、ぐらいは言いますが、それぐらいしか言えないのが歯がゆいところです。

Peter Thiel が指摘するように、我々全員が時間という資産の投資家であり、仕事を選ぶときはそれが数十年後に価値のあるものになると信じて選ばなければならないと考えると、誰もが VC や起業家のような逆説的な思考をしてみるのも一つの手段なのかもしれませんね。

個人的には、キャリアの選択肢の中の一つに、起業という選択肢を入れてもらうにはどうすればいいのだろうなと思いながら色々考えてます(あまり起業自体は勧めたくないのですが、起業という選択肢を常に頭の片隅に持ってもらうことは勧めたいなと)。

なお、本書の対談で竹内先生が指摘していた「エンジニアって、専門性が高いだけに、基本的に事業部という船と共に沈みゆく人じゃないですか」という部分は耳が痛いポイントでした。