日本とスタートアップ

貧しくなる国のハードテックと海外展開

Taka Umada
Mar 22, 2016 · 11 min read

日本の国力が落ちているという記事がここ最近度々話題になる印象があります。

GDP ベースで既に中国に比べて半分以下になっている一人あたり GDP は世界 27 位日本が安くなったいびつな人口ピラミッドすでに 2,500 万人以上が 65 歳以上、などなど、様々な話が挙がります。

数字だけだとわかりにくい部分もあるので、アニメーションで見てみると良いかもしれません。このアニメーションを再生してみれば、わずか 35 年の間で各国の経済規模が大きく変わっているのが分かるかと思います。特に日本はこの数年の中で一気に存在感を失い、アメリカと中国が大きく伸長しました。

スタートアップへの影響

日本はここ数年他国に比べて次第に貧しくなっていました。しかしスタートアップを見てみると、ここ数年、経済の減速にもかかわらず日本のスタートアップは活況を示し続けてきている印象があります。

これはモバイルのマーケットにおける日本の特殊性が関わっていたのではないかと思います。2007 年の iPhone の登場のころ、日本は中国よりもまだ経済規模が大きく、一気にその受容を進め、特にモバイルアプリ(ゲーム)への課金は世界一で、米国を凌ぐほどでした。そのためモバイルスタートアップの文脈では国内に十分大きなマーケットがあったと考えられます。

しかしそうしたモバイルアプリのゴールドラッシュが一段落しつつあり、徐々に産業特化型のスタートアップが増えてくるとなると、今後はスタートアップ業界全体も日本全体の貧しさの影響をより大きく受けるようになるのではないかと考えられます。

アジアを中心とした海外の状況

そうした状況の反映か、日本のスタートアップの海外展開の話をしばしば聞くようになってきました。日本より規模の小さい国は内需だけでは十分な成長ができないため、最初からグローバル展開を考えた起業をすることも多いと聞きますが、日本もそうした状況に近づいてきていると考えることもできるかもしれません。

どの国が良いのか

海外展開といえばアメリカを考えがちですが、先進国のほとんどが日本と同じように「国外のマーケットでも戦わないといけない」という状況になってきているため、アメリカのマーケットを狙う戦いは激しさを増しています。

そうした状況もあり、最近は他の国への注目も集まりつつあります。たとえば人口が一番将来を予測しやすい、と言われるところから、インド、インドネシア、ナイジェリア、エチオピアなどに注目が集まるのも当然といえます。特に今後の人口増のほとんどはアフリカから来ると言われるため、アフリカに注目する企業もあるかと思いますし、日本の地理的なメリットを活かして東南アジアやインドに注目する企業もあるかと思います。

テクノロジの普及率でいえば、これからまさにモバイルが普及するであろう新興国で、米国から日本へのモデルの輸入や、日本から新興国へのモバイルアプリのタイムマシン経営をするというのは硬い投資のように見えます。

また、Bill Gates らが指摘するように、そうした国でのエネルギーと時間の問題は解決されるべきであると思います。

しかし、めぼしい新興国には既にスタートアップや投資家がひしめいているため、今行ってもそれほど儲からないのでは、という意見もあります。

アジアの新興国を中心としたスタートアップの状況

実際に今、東南アジアやインドではスタートアップが盛り上がりつつあり、インドのスタートアップは約 200 万社あると言われており、東南アジアはインドネシア単体で 80 万社弱あると言われています。日本より桁が一つも二つも多い競合がひしめく中で日本のスタートアップがどのように勝つか、というのは欧米並に難しい戦いになります。

http://www.fastcompany.com/3052607/the-future-of-work/the-state-of-the-most-influential-startups-on-earth

また投資家目線でもアジア圏はそう簡単なマーケットではありません。アジアにおけるスタートアップへの年間投資額の割合では、約 70% は中国、約 20% がインド、約 3% が東南アジアであり、日本は東南アジアとおおよそ同等の規模感です。

http://www.vec.or.jp/2016/03/03/asia_startup/

実際に日本の数十倍の資金力を持つ米国の VC が、中国やインドのスタートアップに投資したという報道を見ることが増えてきました。その中で日本のお金を諸外国に投資しようとしても、そこまで大きく目立てないだろうという現実があります。

日本の技術は優れているのか? 枯渇と軋轢

そうした海外展開において日本の優れた技術力を中心にしていけば良い、という議論があります。日本という国は昔から科学技術において優れていると言われます。実際に少し前のアンケートでは日本人の科学技術に対する自信の現れが見えます。

しかし残念なことに、それも最近はあまり正しくなさそうだというのが実情です。

OECD のレポートを見てみると、過去 10 年程度の期間、最も引用されたトップ 10% の論文数で日本がベスト 4 位に入っているのはわずか 3 分野で、その他は米国、英国、ドイツが強く、工学系は中国の存在感が大きくなっています。

OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2015

もちろん科学論文の引用数がそのまま技術力を反映しているわけではありませんが、現状の科学力を測る上で参考になる数字ではないかと思います。

また仮に技術開発が上手だとしても、研究の実用化において日本はそこまでうまくない印象もあります。たとえば Google や NASA と協力している量子コンピュータの D-Wave はカナダのスタートアップですが、現在の量子コンピューティングの基礎となる論文を出したのは東京工業大学の西森先生でした。そして残念ながら日本でその研究結果をうまく事業につなげることができませんでした。(カナダは Deep Learning や量子コンピュータへの補助金をうまく投資していたようです)

さらに、発展途上国のほうが実は最新の技術が受容されやすい、という逆説もあります。これは新興国には既存のインフラがなく、既存のプレイヤーとの軋轢などが存在しないため、と言われます。たとえばケニアの少額モバイル決済の話はよく聞く例ですし、ドローンを飛ばして墜落しても怒られないといったような話や、法的な整備もまだのため様々な実験を行えるというメリットが新興国にはあります。

ハードな技術系のスタートアップ

そうした中で、日本のスタートアップがグローバルマーケットの中でどのように勝ち残っていけば良いのかをより深く考える必要があるのではないかと感じています。方法として、日本の高度なインフラやサービスを提供していくなど、様々な手段があるとは思いますが、個人的には「ハードな技術」系にあるのではないかという提案をしたいと思います。

折しも Y Combinator の President である Sam Altman が今月「Hard Tech is Back」という記事を出しました。

また Y Combinator 自身が注目している投資領域が徐々にハードテックになりつつあります。

Ev Williams も次は deep tech だという旨の発言をしています。

1998 年の量子アニーリングの研究から 2011 年の D-Wave の商用量子コンピュータの発表まで 10 年以上かかったことなどから、研究から実用はおおよそ十年程度かかると仮定すると、日本がまだ力を持っていた時代、お金があった時代にやっていた最先端の研究がそろそろ実用のレベルまで価格が下がってきているのではないかと考えられます。

裏を返せば、このタイミングを逃すと、日本の技術シーズは徐々に目減りしていくことになりえるのではないかと思います。

また皆が成長シナリオを描けていないせいか、日本国内にはスタートアップに流れ込むお金がまだまだ潤沢にあり、多くの VC が新しいファンドを組成しています。そうした潤沢なお金を使って、大きな賭けができる状況になりつつあります。

だからこそ、ハードテックのスタートアップが今改めて求めら、そしてハードテックに挑戦できる状況なのではないかと考えています。

海外向けノウハウの共有の必要性

しかしどんなに優れた技術やそれを元にしたプロダクトがあっても、If you build it, he will come (それを作れば誰かがやってくる)といったことはビジネスではなかなか起こりません。だからこそ海外で売る方法をより深く考えなければなりません。

ハードな技術を売りにする企業は、アプリにはあったグローバルなマーケットプレイスを活用することなどがしにくくなることが想定されます。従来のビジネスのように、地道に代理店を探し、法的なリスクを除去し、製造元と交渉し、ビジネスパートナーと協業し、顧客を探すといったようなことが求められていくのではないでしょうか。

前述のとおり、人口の少ない国では、スタートアップでも最初から世界展開を目指す傾向にあると言われます。既に他国はそうしたノウハウを貯めつつある状況を考えると、日本はこの点においてビハインドしていると思われますし、言語的な障壁もいまだ高いままです。

もちろん最初から海外のマーケットを狙う必要はないとは思っています。国内にいる近い顧客からのフィードバックを受けながら高速に仮説検証を回していき次第に海外に進出していくスタイルもありだと思いますし、逆に最初からグローバルマーケットを狙ってその 10% でも取れれば日本国内のマーケットを凌ぐサイズになれる、という考え方もありだと思います。しかしいずれにせよいつかの段階で海外に出て行くという選択肢をに行き着くことになります。

そうしたノウハウの蓄積はそれはもちろん一社でやるには荷が重い仕事です。だからこそ、スタートアップに関係する人たちがそのノウハウを一緒に蓄積しながら共有する必要があるのだと思っています。もちろんスタートアップだけではなく、もしかすると大企業や商社などと一緒に動いていくケースも出て来るべきなのかもしれません。

いずれにせよ海外マーケットの攻め方について、国内でよりオープンなディスカッションとチャレンジが必要になってくる時代になるのではないでしょうか。

今一度、ぜひ改めてこの点を議論してみたいと思います。

Taka Umada

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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