狂ったアイデアへの巻き込み方: 駆け出し起業家へお勧めの「オリジナルズ」

Taka Umada
Jul 3, 2016 · 7 min read

Wharton の Adam Grant の新刊「Originals」がさすがの出来だったので紹介です。タイトルの通り、この本ではオリジナリティについての研究や言説がスマートにまとめられています。

本書でのオリジナルな人とは「みずからのビジョンを率先して実現させていく人」です。ただしこの本では、従来の通説となっているオリジナルな人の特徴と実態は少し違うのかも、ということを示してくれています。

特に起業家の皆さんにとっては、どうやって自分の狂ったアイデアに他人に参画してもらうかや、起業というある種の過激な活動に他人を巻き込んでいくか、という点について様々なヒントをくれる本ではないかと思います。今回はその一部を抜粋しながら紹介します。

アイデアに巻き込むためのテクニック

たとえばアイデアの創出そのものについては、

  • 大量に創作すると多様な作品が生まれ、オリジナリティの高いものができる確率が高くなる
  • 飛び抜けて独創的なアイデアは、新鮮な視点で問題にアプローチした場合にもっとも発見されやすい
  • 独創的なものを考えだすには、馴染みのないものを出発点にしながら、親近感を加えていくと良い
  • ノーベル賞受賞者はそうではない科学者に比べて、芸術にたずさわる割合が並外れて高い(音楽は 2 倍、美術は 7 倍、工芸は 7.5 倍、文筆は 12 倍、舞台芸術は 22 倍)

といったよくある言説が引き合いに出されます。(芸術の倍率については流石に驚きましたが)

その一方で、オリジナリティの最大の障害はアイデア創出ではなく、アイデアの選定とアイデアを実行できる環境、という一連の指摘がスタートアップに対して示唆が深い部分ではないかと思います。

実際、本書で例として挙げられる uBeam という無線充電のスタートアップ (a16z や Peter Thiel の Founders Fund などが backed) は、当初無線充電のビジョンや「無線充電器を作りたい」という過激なアイデアを語っても、技術の専門家たちからはうまく協力を得られなかったそうです。しかし本当の目的を隠して「このようなパラーメタを持つ変換器を設計してくれませんか」とお願いしたらうまく協力を得られたとのこと。

こうして自分のアイデアを聴衆受けするものに構成し直してみたり、「なぜ」から「どのように」へと焦点を移すと、アイデア自体の過激さが和らいで他人からの協力を仰ぎやすくなるといったテクニックは、奇抜なアイデアでスタートアップを始める人達にとって一つのやり方として覚えておくと良いものではないでしょうか。

その他にも、

  • 同じ価値観を持つグループと協力するときは、共通の目標を持っているだけではなく、手段が共通していることが重要。活動をする理由が違っていても手段や活動方法が同じであればお互いに親近感を持つ。(逆に似通っているけれど僅かに違う目標を持つグループとは反目しあう)
  • ただし共通の手法が 61% 以上になると同盟が出来上がる確率は低くなるとのこと。理由はお互いの手法が同じであれば得るものが少ないから、だそう。
  • 活動を始めるオリジナルな人は過激である場合が多いが、何かしらの活動に他人に参画してもらうために必要なのは、熱すぎも冷た過ぎもしない、ややソフトなメッセージ。節度のある過激派がうまくいく。
  • 最高の味方は、始めは反対していたが次第に味方になってくれた人たち。常に肯定的な人たちよりも強い親近感をお互いに覚える。それに元アンチはほかの人々を説得しやすい。
  • ビジネスの組織や政府組織において、仲間が一人いるだけでも孤立感が激減する。一人目の仲間を見つけることが重要。
  • サリック効果:弱点をさらけ出すことで、事を有利に運ぶことができる場合もある。

といったポイントは、極端に過激な思想やアイデアを持つスタートアップの創業者の人たちにとって参考になる部分もあるのではないかと思います。特にスタートアップのアイデアは当初奇抜に映るため、協力してくれる人を増やすためには時にはこうしたテクニックも多少使いながら人々を巻き込んでいくことが必要なのではないでしょうか。

ビジョンを浸透させるためのテクニック

また、スタートアップに重要な、社内でのビジョンの浸透という点でも幾つかの良いやり方が提示されています。たとえば、

  • ビジョンなどの考え方に 10–20 回繰り返し触れると、好感度は上昇し続ける。特に他の考え方と取り混ぜながら、短く何度も触れてもらうと良い。
  • あるビジョンを伝えるには、実際にそのビジョンの影響を受けている人に任せるのが最も効果的。たとえば、寄付の依頼を電話で行う社員のモチベーションを上げるためには、実際に寄付を受けた奨学生にモチベーションを上げる役目をやらせる(上司がビジョンを伝えるのではなく)と効果的だった。同様に、Skype はビジョン通りに生活が改善されたユーザーを呼んで実体験を社員に話してもらい、モチベーションを上げたりしていた。
  • 利益を視点にするとリスクを回避したがり、損失を視点にするとリスクを取りたがる。確実に失うものがあれば損失回避をするためにリスク選好的な行動をとりがちなので、ビジョンは最初に伝えるのではなく、現状の問題や損失を認識させてからビジョンを伝えることが大事。

といったポイントです。心理学や行動経済学の知見をうまく利用してビジネスのヒントにつなげている論述の手つきは見習う部分が多いなと読みながら思いました。

起業家向けの勇気づけられる話

その他起業を目指す人にって勇気づけられるのは、以下の様な部分でしょうか。

  • 現状に意義を唱える人は、「私のような人は、このような状況ではどうするべきか」という妥当性の論理を使う。つまり自分のアイデンティティや、自分がどういう人間であるかを決断の基礎とすることで、リスクを負うべきかどうかをより正しく判断できる。逆に結果の論理を使うと、リスクを背負うべきでない理由がかならず見つかる。
  • 理想的なリーダーシップを持つように思われていたワシントン初代大統領やキング牧師が、実は支持者や仲間に持ち上げられて行動した。
  • 本業を続けながら起業したような、リスクを嫌いながらアイデアの実現可能性に疑問を持っている人の会社のほうが存続する可能性が高い。たとえばビル・ゲイツも最初は起業後も学業を継続し、その後休学してから退学した。
  • 市場の過熱ぶりが冷めたころまで待った起業家は、成功の確率が高くなる。トレンドに頑固なまでに逆らってぶれない会社は上場企業になる可能性が最も高い。
  • 直感的な投資家は起業家の(表面的に出る)熱意に投資判断が影響されやすい。

などなど、もちろんこの他にも様々なヒントが掲載されています。ご興味ある人は是非ご一読下さい(別に献本をもらっているわけではないのですが)。

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Taka Umada

Written by

The University of Tokyo, Ex-Microsoft, Visual Studio; “Nur das Leben ist glücklich, welches auf die Annehmlichkeiten der Welt verzichten kann.” — Wittgenstein

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