キャリアの初期に転職するメリットと、それを支持する 3 つの考え方

就職活動の解禁日が迫ってきました。4 月から新卒として初めて会社に就職する人も多いのではないかと思います。

学生の皆さんからキャリアの相談を受けることがありますが、具体個別な状況についてすぐに理解できないときは「最初は『上司ガチャ』のようなもので、最初の就職先で運良く良い上司に当たるかどうか次第」という話をした上で、「最初の就職先がつらいなら転職してもいいと思いますし、キャリアの初期に転職することには、自分にあった職を探索できるというメリットもあります」という考え方を紹介することがあります。

キャリアの初期にこうした「探索」を勧めるのは私だけではありません。Google で 10 年人事担当をして、Work Rules という Google での人事について書いたラズロ・ボックも、最初の 10 年間は自分のキャリアを実験してみることを勧めています。実際、外資系の社会人や IT 系の人なら、皆さんの周りには、初期の方に何度か転職しつつ、次第に腰を据えてキャリアを深掘りしているような人がいるのではないでしょうか。

今日はそうしたキャリアの初期における探索の話を補強する 3 つの考え方を紹介します。(うち一つはデータ)

  1. 探索アルゴリズムの応用
  2. 結婚問題の応用
  3. 経験的なデータによる「初期に転職した人たち」の話

1. 探索アルゴリズムをキャリアに応用してみる

自分にとってベストなキャリアを見つけようとしたとき、探索アルゴリズムの考え方は一つ参考になると思います。これは新書の『逆説のスタートアップ思考』でも、スライドの『逆説のキャリア思考』でも、Chris Dixon の記事を引用しながら書きました。

例えば山登りをして、一番高い山の頂上を目指さなければならない状況を考えてみてください。ただし、霧がかっていて目の前は少ししか見えません。そんなとき、どんな戦略で臨めば山の頂上に辿り着けるでしょうか?

https://en.wikipedia.org/wiki/Hill_climbing

ここでの単純な戦略は、探索アルゴリズムでいう山登り法です。

この方法では最初ランダムに初期地点をひとつ取り、周辺を見渡して、逐次よい(図の上では高い)方向へ進んでいこうとします。

上記のように一つしかない山であれば、この戦略でも最も高い山の頂点まで登れます。

山が二つの場合:単純な解法だと局所的な最大化にしかならな

しかし山が 2 つある場合はどうでしょうか。この二つのうち、高い方の山の頂上に登らなければならないとします。

たまたま高い山側で初期地点を取れた場合、先ほどの単純な山登り法でもうまくいきます。

ただ、もし初期値点が低い山に近い場合、上へ上へとだけ向かったときに低いほうの山へと進んでしまい、最も高い山を知らないまま、小さい山の頂上(局所的な最大値)で探索が止まってしまいます。

つまりこの単純な戦略だとダメな場合があります。

対処策:最初はランダムに何度も地点を採る

そこでいくつかの探索アルゴリズムでは、探索の初期には何度かランダムに点を取ってみて、徐々にランダムさ減らしていき、その中で最も高い地点から上へ上へと登り始めることが有効だとされています。

初期はランダムに、徐々に狭まってくる。図は焼きなまし法:https://en.wikipedia.org/wiki/Hill_climbing

さらにいえば、ときには山を下るような、つまり改悪方向への移動も認めたほうが、計算量は多くなるものの本当に高い山を見つけやすくなるそうです。

キャリアを長期で考えたときの「初期のランダム性」のメリット

こうした探索アルゴリズムの考え方は、キャリアの初期にランダムに何度か試してみる事のメリットを伝えてくれるように思います。

キャリアも同じで、おそらく一人ひとりに多くの山があります。そして最初に登ろうとした会社や職業が本当に自分に合った山なのかは分かりません。だからキャリアの初期は自分に合うかもしれない会社や職種の山を探すつもりで、何度か転職をするのは良い戦略であるとも考えられます。

とはいえ、多くの人は「競争に勝つ」ことだけを考えて、目の前にぶら下がったルアーを追いかけるように、小さい山のほうをどんどんと登っていってしまうのが普通です。

それに人は短期的な報酬を過大評価し、長期での報酬を過小評価しがちです。だから短期での報酬が出る、小さい山登り競争に走ってしまいます。また人は得をすることよりも損をすることのほうに敏感です。「今の職が一番恵まれているかもしれない」「転職すれば損をするかもしれない」というダウンサイドリスクのことを考えてしまい、中々転職に踏み出せない人も多いとは思います。

ただこうした考え方を知っておくことは、いざ一歩踏み出すときの思考の助けになるのではないかと思います。

2. 『結婚問題』を応用して、36.8% まではスルーする

またその他には「どうやって最適な結婚相手(もしくは秘書)を採用すればいいか」を考える『結婚問題』や『秘書問題』というものがあります。

答えとしてよく提示されるのは「結婚する相手は 3 人目までスルーして、4 人目以降でベストを選ぶ」です。ただ実際には 3 という絶対数が問題なのではなく、候補全体の 36.8% までは本採用はせず、それ以降でこれまでで最も良かった人を選ぶのが最良、というものです。

この例は結婚や人の採用の話ですが、雇用される社員側から見てみれば「どの会社を自分の職業人生に採用するか」「どの職種を自分の人生に採用するか」という視点になります。すると、この『結婚問題』の考え方を就職や転職にも使えるのではないでしょうか。

たとえばひとつの会社や職種をある程度試すのに 3 年必要だとします。10 回転職すれば 30 年です。23, 4 歳ぐらいから 40 年の職業人生が始まるとすれば、人生で 10 回ぐらいは転職するかもと考えるのは妥当でしょう。

であれば、3 回ぐらいは会社や職種を試してみて、それ以降で最も自分に合っているものを選んでその会社や職種でのキャリアを掘り下げていく、というのは理にかなったやり方のように思います。

その結果がラズロ・ボックの言うような、最初の 10 年間は自分のキャリアを実験することなのかもしれません。

3. 経験的なデータが示すメリット

さらにいえば、『残酷すぎる成功法則』では以下のような調査が引用されています。

  • 社会人になって早い時期に頻繁に転職する人は、キャリア最盛期に高賃金、高収入を得ている傾向がある。なぜならより自分に合った天職と巡り合うから。(ヘンリー・シュウ)
  • 仕事経験が15年以上で、経験した役職が二つ以下だった者がCEOなどの経営幹部になる確率はわずか2%だったのに対し、経験した役職が5つ以上だった者が経営幹部になる確率は18%にものぼった。(Stanford の Edward Lazear の調査)

もちろん、職種の専門性が高く、人材の流動性が高い欧米圏での調査なので、そのまま日本で使えるとは限りませんが、こうしたデータもあるということは知っておいても良いのではないかと思います。

まとめ:探索することの重要性

キャリアの初期には探索をするメリットがあるかもしれない、という考え方を紹介してきました。

私も前職時代は社内で細かいロールチェンジを繰り返していましたが(飽きっぽいので…)、今は腰を据えてスタートアップ支援の仕事をできているのも、初期の色々な探索があったからだと思います。

もちろん、最初から自分の天職に巡り会える人もいると思います。転職しなくても社内の配置転換などで様々な探索ができるケースもあるでしょう。どれだけ転職のリスクを取れるかは人によって異なりますし、新卒という最初の段階で、自分の身の丈を超えた就職先を得てしまうと、待遇が下へ下へと降りていってしまう可能性もあります。

ただ、こういう考え方があることを知っていれば、「友達の中で一番良い就職先に行けなかったから」と凹むことは少なくなるでしょうし、つらかったら転職してもいいんだ、という発想になるかもしれません。多少成果が出るまで頑張ったほうが良いとは思いますが、優秀な才能が Excel シートを作るだけに費やされるよりは良いような気がしています。

それに能力がある人にとっては、おそらくこういう戦略を取ったほうが平均的には自分に合った職に辿り着けるのではないでしょうか。

若い皆さんが自分に合う会社や職を見つけ、自分の最大限の能力を発揮できるように祈っています。


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