逆説のスタートアップ思考的「逆張りマップ」ワークショップ — 整理編

スタートアップは世間的にはまだコンセンサスの取れていないことに取り組むことで一気に成長します。その際、多くの場合はどこかの点で「新規性」のある取り組み — ある種の「逆張り」をすることになります。

そこで先日学生の皆さん向けに「逆張りマップ」を作るワークショップをしてみました。その方法と手順をここにまとめておきます。

逆張りマップの目的と概要

このマップを作成する目的は以下のとおりです。

  • サーベイをしながら成功や失敗した製品やサービスの傾向を知る
  • 自分たちの研究や製品がどこに位置しているのかを整理する
  • 製品の相対評価の会話を通して、自分の戦略に自覚的になる

これは新しい発想を生むためのものではなく、あくまでサーベイのためのもであり、既存の考え方の整理がメインになると思います。しかしサーベイは新しい発想にたどり着くための非常に重要な足がかりとなります(失敗の原因はサーベイ不足だという話が前に挙がりました)。

本ワークショップの所要時間は大体 20 〜 30 分です。人数は 4 〜 10 人ぐらいが良いと思います。

最終的には以下のような図を作ることになります。

※ 位置が正しいとは限りません

軸は「課題」「解決策」の「順張り」「逆張り」

基本的にスタートアップは「課題」に対する「解決策」を提供するものです。そしてそのいずれかに「逆張り」の要素がある程度入るはずです。

そこでこのマップでは課題と解決策で軸を取ります。

  • 課題の「順張り/逆張り」
  • 解決策の「順張り/逆張り」

課題の逆張りと順張りを少し詳しく説明します。

A. 課題の「逆張り」「順張り」

マップ右側(→):課題の「逆張り」

  • 課題があるのかどうか「まだ」はっきりしていない
  • コンセンサスが「当時」まだ得られていないこと
  • 気付いていない課題/そもそもない課題

マップ左側(←):課題の「順張り」

  • 既に分かっている課題
  • 課題があることのコンセンサスが得られていること

B. 解決策の「逆張り」「順張り」

マップ下側(↓):解決策の「順張り」

  • 解決が技術的/文化的に(頑張れば)実現可能そうなこと
  • 当時としては順当な組み合わせでの解決

マップ上側(↑):解決策の「逆張り」

  • 当時としては意外な組み合わせでの解決
  • 周りが気づかなかった意外な解決策
  • 技術的/文化的に実現が難しそうなこと(技術的に尖っていること)

パターン

その結果、おおよそ以下のような四象限に別れるかと思います。

多くの製品は既に見えている課題を、技術力や表現力、デザインセンスの強度で殴る系で、競争の多いレッドオーシャンにかちこむことになります。

レベルを上げて強度で殴ればいい」という考え方はもちろん真なのですが、資源の少ないスタートアップや技術力のまだ溜まっていない学生は、そうしたところでは勝ちにくい傾向があります。なので、そうでない領域を狙っていく必要があります。

(補足)天使度/悪魔度

なお、これは暦本先生の研究法における「天使度/悪魔度」の議論に近いかもしれません。

天使度が高いとは「思いつきは素晴らしいが、創るのは簡単」、悪魔度が高いとは「誰でも思いつくが、実際に創るのは難しい」ことで、これを上記のマップに当てはめると以下のようになるのかなと思います。

  • 天使度が高いのは「課題」の逆張り(マップで右側のほう)
  • 悪魔度が高いのは「解決策」の順張りで、かつ強度高め(マップ左下)
https://twitter.com/yumu19/status/883289285230604288

手順

マップ作成の手順は大きく以下の 3 つです。

  1. 製品をマップする
  2. 強度シールを貼る
  3. カテゴリ分けをする
  4. 自分たちのアイデアを評価する

1. 製品をマップする

大きめの模造紙(場合によっては模造紙をつなげて)に、先ほどの軸を書き込みます。

ワークショップを始める前に、事前に 5 〜 10 個ぐらい、自分の作った製品や気になる製品の画像を印刷して持ってきます。第一回は既存の研究やデザインプロジェクト等も含んで実施しました。大学で実施する際には、研究論文の画像などを含んで実施するのもいいかもしれません。

なお、時間がなければポストイットだけで当日挙げていく形でも構いません。

わかりやすくするために画像を印刷してくると良い

マップしていくときのポイントは、

  • 論文や製品が出てきた「当時」の周りの意見を想像してマップします(ヒットした製品は徐々に順張りに見えてくるので)
  • 成功したものだけではなく、失敗した製品/サービスも挙げてください(たとえば、セグウェイ、Google Glass など)
  • マッピングの最中の会話や独り言も重要なので、think aloud 法がお勧めです

例えばマップしていく途中の作業は以下のようになります。

Airbnb のマッピング

Dropbox のマッピング

Slack のマッピング

Facebook のマッピング

その後、より多くの製品のマップをしていきながら、それぞれの立ち位置を確認していきます。

そしてさらに増やすと以下のような図になります。

2. 強度シールを貼る

これでマップはできますが、製品は逆張りか順張りかだけで語れるものではありません。

なので、ここで更に軸を幾つか加えてみます。ここでは「強度」という軸で3つの指標を追加します。

  • 製品の強度:金(凄い、ヤバイ、強い、エモい、インパクトがある)
  • 課題の強度:緑(課題の切迫度)
  • 解決の強度:青(課題の解決の程度、満足度)

それぞれの強さを示すシールを貼っていきます。こうすることで、マップの相対位置だけでは見えないものが補完できます。

一般的な製品でやってみたときには以下のようになりました。

一般的な製品でのマップ

それぞれ傾向は以下のとおりです。

成功した製品(緑+青 or 青)

電子レンジなどはすべての面で強く、シールが沢山貼られています。つまり課題も解決策もあり、強度も高い、超優秀なプロダクトになってます。

一方、緑色はないのに(課題はないのに)青色が貼られている(解決の強度が高い)ものは、課題が顕在化していないときに解決策を提供して成功したもので、マップの右側寄りの傾向があるように思います。娯楽製品などが多い傾向です。

失敗した製品 (緑がない)

一方、失敗した製品には、緑色が貼られてなかったりします。つまり課題がないものはやはり失敗するようです。ワークショップ中には、自分たちの製品の強度自体が高いと、最初はメディアから注目されたり論文として通っているけれど、課題シールが貼られていないので社会に出していくことが難しいのでは、といった会話がなされました。

よく分からない製品 (金色だけ)

金色だけが貼られているものは「なにかすごいけど課題がなかった」ものです。たとえば発表当時のセグウェイは製品自体の強度やインパクトは強かったためバズったものの、切迫した課題があったわけでもなく、(商品の金額的な面でも)十分に解決できていたとは言えませんでした。なのでセグウェイには金色のシールは沢山貼られますが、緑色や青色のシールはあまり貼られないことになります。

逆に言えば、金色だけのものはぴったりとした課題が見つかれば化けるかもしれません。

このように、シールを貼ることでヒートマップが作成され、一覧性が高まります。

3. カテゴリ分けをする

それぞれのマッピングとシール貼りが終わったら、マップ上におおよその傾向が生まれてきます。

そのカテゴリに名前をつけたり、区切りを書いてみたりして、抽象度を上げて意味を加えると新たなヒントが見えてくることがあります。

4. 自分たちのアイデアを評価する

マップ上の他の製品と比較しつつ、このマップの上に自分のアイデアを置いてみます。その後、以下の様なことをメンバーと一緒に話すと良いのかなと思っています。

  • 過去の自分たちの製品は課題が逆張りすぎて、課題がなかったから失敗したのではないか
  • 実は自分たちには強度が足りないのではないか
  • この強度のまま課題を少し変えて他のエリアに移動させるとどうなるか
  • マップ上の空白のエリアはどういう意味か

このマップは、特にどういうものが失敗しているかの共通理解を得る際などにご利用いただけるのではないかと思います。

たとえば私達が実施したときには、

  • 「このエリア(右下のニッチ)に自分たちのハードウェアプロダクトがあるけれど、ここは仮に課題が当たっても深圳おじさんが登場したら全滅するエリアだ…」
  • 「右上のほうが未来の課題やスペキュラティブデザインで、左下になるに連れて地に足付いたものになっているけれど、その途中が割りと空白」

といった会話が生まれました。

まとめ

このマップは何か答えを示唆してくれるものではなく、マップの整理中に生まれる会話が重要だと考えています。

実際にやってみたところ、持ち寄った気になる製品をサーベイしながら、成功している製品はどこに逆張り要素が入っているかの会話が生まれたり、失敗する製品はどういった傾向があるものかなどが行えました。結果的にそれがサーベイにつながり、自分たちの創ってきたものやこれからのアイデアを議論する際の一つの補助線が引けたのではないかと感じました。

なお、製品がマップのどの象限にいても、戦略さえ合っていれば成功できると思います。ただ左下のレッドオーシャンな象限で戦う場合は、強度を増す必要があったりします。そうした戦略上の注意点の整理が他のプロダクトと比較しながら客観的にできるだけでも、あまりサーベイに慣れていない人たちにとっては有用だったのかなと。

ここから新しいアイデアを創っていくことになりますが、そのときの手法については別途解説します。

手法自体まだこなれていないかもしれませんが、まずは公開して共有しておきます。もしこのワークショップを活用できるときがあれば活用してみてください。

用意するもの

  • 模造紙(大きめのものを何枚か)
  • 大量のポストイット
  • 3色のシール
  • 人数分のペン(太め推奨)
  • 画像貼り付け用のセロハンテープ
  • 画像切る用のハサミ
  • 気になる製品を印刷したもの (各自5個以上ぐらい)

(追記)気になる製品については Scrapbox で全員が一箇所にスクラップしておくといいかもしれません。例えば以下は Human Augmentation の Scrapbox です。

準備上の注意点

  • 模造紙のサイズに対して、ポストイットや画像の数は適切になるようにしてください(多すぎると破綻します)。B5画像を50枚ほど用意した場合は 200 x 300 cm ぐらいの模造紙でやりました。
  • 歴史的なバックグラウンドの知識がある人がいないと、「その製品や研究の出現時点で逆張りだったかどうか」が分からないので、そうした人の参加をお願いしてください
  • あまり小さな領域のネタでやってしまうマップしづらくなります。研究であれば大きな学会レベルの広い領域を指定して実施してください。

Special Thanks

このワークショップは東京大学の松井克文さん、東京芸術大学の野本かもめさんとのワークショップ中にある程度まとまったものです。メインのお二人と、そのときに参加いただいた学生の皆さんに感謝申し上げます。

追記

手順書をまとめました。

One clap, two clap, three clap, forty?

By clapping more or less, you can signal to us which stories really stand out.