バーティカル・リテラシーエゴからエコへの垂直方向のシフト

— — 21世紀の大学を新たに想像する — —

U Lab Japan
25 min readOct 5, 2020

by Otto Scharmer オットー・シャーマー

(2019年4月16日ブログ記事 Vertical Literacy: Reimagining the 21st-Century Universityの日本語訳)

高校生による気候変動ストライキ「未来のための金曜日」(FFF: Friday For Future)は、最も重要でありながら、今日のアメリカのメディアではほとんど報道されていない話の一つかもしれません。2019年3月15日の一週間だけで、125カ国で160万人のストライキ参加者を数えました。この二酸化炭素排出量を減らす環境運動は、スウェーデンのティーンエイジャー、グレタ・トゥーンベリが2018年後半に始めたものです。一方、ドイツの政治家の間では、金曜日に生徒が教室ではなく街頭に出ることが正しいことなのかどうかについての議論が続いています。

以下に紹介する諸原則は、この議論に対して、21世紀の技術的、環境的、社会的な混乱に取り組むために、世界の教育システム、特に大学をどのように「アップデート」していくかというより大きな観点から臨んだものです。図1をご覧下さい。

図1 21世紀の大学(と教育)を再発明するための12の原則

伝統的な大学が、研究と教育の一体性に基づいてきたのに対し、現代の大学は研究、教育と、実用性の一体性に基づいてきました。一つの文明が終焉を迎えて滅び、別の文明が誕生しつつある現在のこの歴史的瞬間は、21世紀の大学像を、研究、教育、そして社会と自己の変革の実践を一体化させたものとして新たに描いていくことを私たちに求めているのではないでしょうか。

しかし、現在の大学がもたらす社会の変革に対する貢献は、いまだ明確ではありません。なぜなら、大学の伝統的なアウトプットは知識であり、知識は社会変革を促進する上での「今欠けているパズルのピース」ではないからです。ここで、次の10年の変革目標を概観した、現在の国際的な枠組みであるパリ協定と17の持続可能な開発目標(SDGs)の例で考えてみましょう。

パリ協定やSDGsを世界中で実行することが難しいのは、知識のギャップが要因ではありません。問題は、政治的意志の欠如および知識と行動のギャップ、つまり私たちの集合的意識と集合的行動とが断絶していることです。このギャップによって、大規模な環境破壊や社会の分断、そして多くの人々がソーシャルメディアに誘引されて、深い自己の源から分離するなど、誰も望んでいないような結果が集団レベルで生み出されています。

これらの深い課題に対処するためには、私たちの心理的精神的・社会的オペレーティング・システム(OS)を、利己的システム意識(エゴ)から生態系的意識(エコ)へとアップグレードしてくれる新しいプラットフォームや新しい能力が必要です。

図2は、鍵となるさまざまな社会システムの進化を、そのOSの観点からマップ化したものです。

- 1.0(インプットと権威中心)と2.0(アウトプットと効率中心)から

- 3.0(ユーザー中心)と4.0(生態系中心)へ

図2 OSの4つのタイプ、システム進化の4つのステージ (出典 オットー・シャーマー『U理論[エッセンシャル版]』)

この図2のマトリックスは、他の場所でも紹介されているので、ここではそのエッセンスに焦点を絞ることにします。表の縦方向は、OSという観点から見たさまざまな社会システムの進化を示しています。そこには脱資本主義へと向かう経済の進化も含まれます。後からの段階には、それ以前の段階の様相が含まれていますが、全体は新たなメタコンテクストに入っています。これを見ると、第四のステージの問題を OSの1.0、2.0、3.0レベルで解決しようとしているために、集合的な知識と行動の間のギャップが生じるのだということがよく分かります。しかしアインシュタインが教えてくれているように、問題を生み出したのと同じレベルの思考ではその問題を解決することはできません。

今の大学や学校で主要な問題になっているのは、バーティカル・リテラシーの欠如なのです。バーティカル・リテラシーとは、変革を導く能力、すなわち、必要に応じてOSを1.0や2.0から3.0や4.0へとシフトさせる能力のことです。

  • 自分自身を見ること、すなわち自己認識(個人・集団の両方で)
  • 好奇心・思いやり・勇気にアクセスすること
  • 傾聴や対話が起きるための深い場を作る
  • 中央集権型からエコシステム型へと、組織化の仕方の再形成する
  • 全体を見ることによって運営していくガバナンス方式を育てる
  • 深い変容のためのスペースを保持すること、つまり「手放す」「迎え入れる」

今私たちが社会セクター全体で直面している主な課題には、この焦点シフトの問題がまさに存在しています。つまり私たちは往々にして、レベル1、2、3に留まり、レベル4に進めないでいるのです。大企業の経験豊かなCEOやCPO(最高人材活用責任者)、あるいは公共セクターのリーダーに、何をやろうとしているのか、何を必要としているのかを尋ねると、彼らはよくこう言います。「この変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の世界において組織を繁栄させることのできる、機敏で共創的な人材が必要だ」と。これを上記のマトリックスの観点から言いなおすと、組織を「4.0」の運営方式へと導くことができる能力が必要だ、ということになります。経済システムを万人の幸福に向けて変えようとしているNGOや市民社会の活動家に尋ねても、基本的に同じことを言います。私たちは、組織やセクターの境界を越えて協働し、共創する能力を高める必要がある、と。

では、大学のリーダーや、経営学部や工学部の学部長にも同じ質問をしてみましょう。一部の例外はありますが、ほとんどは、バーティカルな能力を構築することに関しては情報を持たず、無知です。多くの教員同様、学長や学部長も、「2.0」の教育(図2)という単純な世界の中で生きて活動しているのがほとんどです。その思考の枠組みは、あそこに別のスキルを追加する、ここに別のコースを追加するなどの水平的な発達の観点に止まり、本質的に意識の進化に取り組んでいく垂直的な発達の観点の枠組みではありません。スマートフォンの例に喩えれば、OS全体をアップグレードするという観点ではなく、別のアプリを追加していく、という思考なのです。

つまり、バーティカル・リテラシーとは、意識をエゴシステムからエコシステムへとシフトさせることによって変革を導くことなのです。私は、今世紀における大学の存在意義は、このようなバーティカルな変革リテラシーを、個人や組織や社会システムの中に構築する支援へと、ますます重点を移していくと考えています。

以下に紹介する12の原則は、OS全体をバーティカル・リテラシーにアップグレードした場合の21世紀の大学の姿をまとめたものです。これらの原則は、単なるアイディアの寄せ集めではありません。20年間にわたる現場での実験と、今も形成されつつある、学習者と教育者の世界的なムーブメントから導き出されたものです。そのムーブメントは、人々や組織が自らを変革して世界をよりよい場所にすることを支援するプラットフォームとして大学や学校を再生する、ということに焦点を当てています。そしてそれを、私たちの時代における3つの主要な断絶、すなわち、生態学的断絶、社会的断絶、精神的断絶に橋を架ける解決策を見出すことによって、成し遂げようとしています。

1. 社会と自己の変容 「バーティカル・リテラシーを構築する」

21世紀の大学が、研究、教育、社会と自己の変革の統合を目指すものであるならば、学習者は現実世界に出て、現代の核心的な課題に取り組まなければなりません。社会に役立つためには、大学は、目の前の差し迫った課題、例えばSDGsの実践などとの関連性を持つ必要があります。これを達成するうえで最大の障害となるのは、知識と行動とのギャップです。このギャップを埋めるには、エゴからエコへと意識をシフトさせることによって変革を導く(意識に基づくシステム変革)ためのバーティカル・リテラシーが必要となります。これらの深い学習能力は、次のすべてのレベルで培われる必要があります。すなわち、個人のレベル(自己認識のためのスペースを持つこと)、グループのレベル(傾聴と対話)、組織のレベル(中央集権的なものから生態系へ)、そしてより大きなシステムの進化(全体を見て調整すること)などの全レベルです。社会の変革を扱う場合には常に、これらすべての局面が作用しているのです。

2. 点火 「学びとは、点火して燃え立たせること」

「教育とは、点火して炎を燃え立たせることであって、空の器を満たすことではない」というプルタークの言葉は、二千年前も今も変わらぬ真実です。しかし、依然として、教育は器を満たす活動であると誤解されています。深い学びの核心が、人の内面に炎を点火させることにあるとするなら、なぜ私たちは、こと教育機関においては、それを運任せにしがちなのでしょうか? どうすれば、それが起きる状況をより意図的に作り出すことができるでしょうか? 以下に、人生や仕事において、学習者が自らの旅路を発見する上で助けとなる三つの入口を紹介します。

  • あなたにとっての点火は、各自の至高の目的や至高の自己から活動している発明家や起業家、チェンジメーカー(変革の担い手)などに出会ったときに起きるかもしれません。そのような人たちと出会い、共に時間を過ごすことによって、あなたの中で何かが変わります。微かな変化かもしれませんが、確かなものです。それが火花を起こします。
  • 大学という殻も含めて、自分の殻から出てみます。そして(学びの/新しい発見ができる)可能性が最も高そうな場所に身を浸してみて下さい。特に、制度的な人種差別や構造的暴力を受けている人たちの視点から全体システムを感じ取ることができるような場所、周縁に身を置いてみて下さい。
  • 学習者が一段と深い知の源(ソース)を探求することができる環境と傾聴の実践を創り出して下さい。

3. アクションラーニング 「学習の外的環境のシフト」

学生たちは実践を通して学ぶ必要があります。アクションラーニングは従来の教師と学生の関係を逆転させます。従来的な教育の関係は、(教師が)説明することを(学生が)聞く、ということに焦点が置かれています。アクションラーニングでは、学生がチェンジメーカーや起業家になり、教師は学習者の最高の未来の可能性を活性化させる場を保持するコーチとなります。アクションラーニングを大きな規模で開発するには、従来とは大きく異なる学習インフラが必要となります。例えば、コンテンツ提供を主目的としたクラスではなく、行動してそれを振り返ってみるためのクラスなどです。このような学習インフラでは、学生を中心にすえた学習形式のための空間を保持できる、これまでとは異なるタイプの教師が必要となります。

4. 全人性 「学習の内的環境のシフト」

学習者やチェンジメーカーは、「知」に至る様々な経路を育てなければなりません。アクションラーニングでは、学習の外的環境を教室から現実世界にシフトさせますが、全人的学習では学習の内的環境を頭から心へ、心から手へとシフトさせていきます。これらの異なる知性を活性化するために、好奇心(開かれた思考)、思いやり(開かれた心)、そして勇気(開かれた意志)を養うことで学習プロセスを深めていく必要があります。

図3 バーティカル・リテラシー構築のための深い学習サイクル(U理論) 図3は、上記の原則が、深化した学習の中でどのように機能するかを示したものです。深化した学習のサイクルは、共感知(観察、観察、観察)、 静寂( 内なる知が現れるに任せる)、共創造(即座に行動する)という段階を辿ります。(U理論)

5. エコシステム・リーダーシップ 「”私”から”私たち”へと深化する能力を構築する」

学生や学習者は、エコシステムのリーダー、すなわち、各自が今置かれている文脈の中でのチェンジメーカーにならなくてはなりません。さまざまなシステムや領域共通の、組織のリーダーたちにとっての最大の課題は、エコシステム・リーダーシップという課題に如何に効果的に応えられるかということです。つまり、

多様なステークホルダーやパートナーを招集し、蛸壷のような自己中心的視点からシステム的な視点へ、エゴシステム意識からエコシステム意識へと向かう旅にいかに連れ出すかということです。そのような旅のできる空間を保持することこそ、今日のリーダーシップのあらゆる大きな課題にとって核心にあることです。そしてまさにこれが、組織においては大きく欠落し、高等教育機関においては十分に開発されていない能力です。そのような能力は、大学が根を下ろしている都市や地域内の、現実社会のプラットホームやエコシステム・パートナーシップが、学生の参加と実践による学習のための「実験室」を提供することによって構築していきます。

6. 自己認識 「汝自身を知れ」

学習者やチェンジメーカーは自分自身を知らなければなりません。「汝自身を知れ」は、東洋と西洋の両方の智慧の伝統の基礎にあります。今日、古い構造が急速に衰退していく世界において、以前にも増して自己認識の探求は絶対不可欠になっています。「私の自己(最高の未来の可能性)とは何か」と「私のなすべき真の仕事とは何か」は、個人としてだけでなく、組織として、生態系(エコシステム)として、そして人工知能(AI)や遺伝子編集、世界的なSDGsの課題が迫りつつある文明としても、私たちが自分自身に問いかける必要のある本質的な問いです。人間という存在として、私たちは何者なのでしょうか? 私たちは何者になりたいのでしょうか? 私たちはどのような未来を共に形作り、その一部となりたいのでしょうか?

自己認識という点からは、アイデアは最も重要な通貨とは言えません。アイデアは誰でも持つことができます。いつでもウェブから引き出すことができます。Uプロセスの底(図3)において最も重要な通貨は実践なのです。実践とは、私たちが毎日することです。自己認識の発達に関する実践としては、傾聴、沈思黙考、マインドフルネス、社会性と情動の教育(SEL教育)、プレゼンシングの実践(各人の最高の将来の潜在可能性を感知して実現すること)などがあります。

7. システム思考 「システムに自分自身を観させよ」

学習者やチェンジメーカーはシステム思考者でなければなりません。システム思考が世界にもたらす最も重要な実践的貢献は何でしょうか? それは、システムが自分自身を観ることができるようにする方法やツールを使用している点です。すなわち、システムの中にいる人々に、自らが集合的に演じているパターンが見えるようにすることです。学生たちは、個人、グループ、組織、社会システムなどの、すべての変化のレベルにおいて、これらの介入を行うことに習熟する必要があります。

8. ソーシャル・アートとソーシャルな美的感性 「システムに自分自身を感じさせる」

学習者やチェンジメーカーは、ソーシャル・アートやソーシャルな美的感性の実践に精通していなければなりません。「知る」と「行う」の間にギャップがあるということは、頭と手が切り離されているということです。では、そのギャップを克服するための入り口は何でしょう? 心の知性を活性化すること。五感を蘇らせること。学習者は、本来の意味の美学(aesthetics)、つまり aistesis(アイステーシス) — — 感覚を感じること — — に長けていなくてはなりません。私たちは自分が持っているあらゆる感覚を育てなければなりません。

高度なシステム思考には、システムを感知する能力が含まれるのです。なぜなら、システムにシステム自身自身を観させるだけでは不十分だからです。「知ること」と「行うこと」のギャップに対処するためには、システムに自分自身を観させ、かつ感じさせる必要があるのです。どのようにしたら、大きな規模でこの能力を構築することができるのでしょうか? 答え — — ソーシャル・アートに基づく実践の場を通して、です。ソーシャル・アートと美的感性ソーシャル・アートに基づく実践の場が、このような基礎能力を発達させる主要な手段です。これらはバーティカル・リテラシーの基礎となるため、ソーシャル・アートは学生向けのあらゆるカリキュラムの中核的な要素となるべきです。

9. サイエンス2.0 「科学的観察の視線を、観察している自己に向ける」

学生やチェンジメーカーは手法を持たなければなりません。科学では、さまざまな特定の手法を用いて、データに語らせます。しかし、従来の科学は、主に第三者の視点に基づくデータという一種類のデータに限定して科学的手法を用いています。将来的には、三人称(外部からの観察)、二人称(深い傾聴や対話)、一人称(自分自身の経験)という三つのタイプのデータすべてが私たちに語りかけることができるようにして、科学の概念を拡張する必要性があります。そのためには、科学的観察の視線を、観察を行なっている自己に向け直さなければなりません。つまり、外的なデータと共に、内的データ、すなわち自分の体験のもっと微細な側面も調査しなければなりません。それを行うことによって私たちは応用科学の手法を今世紀の文脈で最も大切な部分、つまり、個人としてのみならず集団レベルにおける自己認識の醸成と進化という点に、使うことができるのです。なぜなら、私たちが意識を変えない限り、システムを変えることはできないからです。そして、私たちが意識を変えることは、システムがシステム自身を感じ取り、観ることができるようにしない限り、不可能なのです。

10. テクノロジー2.0 「意識に基づいたソーシャル・テクノロジーを創造する」

システムがシステム自身を感じ取り、観ることができるようにするーーこれを実践するためには、学習者やチェンジメーカーは、意識に基づいた新しいソーシャル・テクノロジーが必要です。今日においては、そのようなソーシャル・テクノロジーに長けることは、微積分や読解に習熟するのと同じくらい重要なことです。ソーシャル・テクノロジーは、複雑な環境の中で共同作業をしたり、活動したりするための基礎的なスキルを構築します。社会テクノロジーには、開かれた思考(好奇心)だけでなく、開かれた心(慈悲)、開かれた意志(勇気)を使っての「知る」を具体化するツールや実践が含まれています。

その一例が4Dマッピングで、プレゼンシング・インスティテュートの研究グループが、ソーシャル・プレゼンシング・シアター(SPT)の手法を用いて開発しました。SPTは、社会科学的なマッピング、マインドフルネス、コンスタレーション、シアター・メソッドなどを融合させた手法です。数年前に考案されたこの4Dマッピングは、現在ではあらゆる文化圏・セクターにおいて何百ものチームで活用されており、2~3時間のワークショップの中でシステムにシステム自身を感じ取らせ、観させる、信頼できるツールです。これを実践することから得られる成果は、(a)システムの深い構造を示すマップ、(b)ステークホルダーのグループに、より深い構造的な問題に取り組むための共通言語、©システムを別の状態に持っていくための介入ポイントやプロトタイプのアイデア、そして最も重要なことは、(d) メンバーたちの視点がエゴシステムからエコシステムへとシフトするようなグループメンバー間の意識変化、などです。

ここでソーシャル・アートの実践例を二つ紹介します。一つ目は「ソーシャル・プレゼンシング・シアター」のビデオです。二つ目は、オラフ・バルディーニによる「生成的なスクライビング(Generative Scribing)」(図4)です。これはオラフが、数百名の人が参加して行われた最近のu.lab-S(u.Labの社会変革講座)での、傾聴に基づく「バーチャル・ピア・コーチング・セッション」を、描写として捉えたものです。

図4 生成的なスクライビングの例(オラフ・バルディーニ作)

この描写では、セッション中の事実情報だけでなく、行われたプロセスのより深い本質までもが可視化されています。2人が3人目の話に深く耳を傾けることによって、その場に「最高の可能性」の空間が開いたところが捉えられています(図4)。生成的なスクライビングの起源についてはこちら。これらはあくまでも2つの例に過ぎません。今世紀の学生やチェンジメーカーたちは、最先端のソーシャル・テクノロジーに通じている必要があります。なぜなら、共に感じ取り(共感知)、共に創造する(共創造)能力は、既に起こりつつあるさまざまな破壊や混乱に対処するための私たちの究極の資源となるからです。

11. 民主化 「深い学びのための大規模なインフラを構築する」

学習者やチェンジメーカーは、深い学びを大きな規模で促進しなければなりません。知識へのアクセスの民主化は、ここ数十年の主な成果の一つです。しかし、質の高い教育へのアクセスや、深い学びのサイクルへのアクセスは、まだ簡単に手に入りません。例えばMITは、すべての人がアクセスできるオンライン教育コンテンツの無償提供を牽引してきました。(OpenCourseWare [OCW]やedXを通じて)。しかし、オンライン学習では学びが浅く(頭脳中心に)なる傾向があり、修了率も低いという研究結果が出ています。では、深い学習サイクル(頭と心と手を使う学習サイクル)を誰もが利用できるようにするには、何が必要なのでしょうか? 私たちはその疑問を念頭に置きながら、4年前にMITx u.labと呼ばれる大規模なオープンオンラインコース(MOOC)のプロトタイプを始動させました。

世界中の125,000名以上の登録ユーザーから1,200以上のコミュニティが形成されたことで、私たちは深い学びの教室(または深い学びのために維持される空間)の徹底的な分散化が可能であることを示しました。出口調査では、30%以上の人が「人生が変わるような」体験をしたと報告しています。今年からは、変革の意図をアイデアからプロトタイプに移したいと思うさまざまなチームにもこの手法を提供しています。世界各地のチームが、オンラインからオフラインへのサポート構造を通してつながり、グローバルな生態系を構築しています。現在MITの学生たち(私が都市学・都市計画学科で共同指導しているクラス)も、これを活用し、サポートしています。彼らはこのツールを自分たちの変革の取り組みにも適用しています。これを通して学生たちは21世紀のムーブメント構築の基本ツールの操作方法を学んでいるのです。

12. 第四の教師 「生成的なソーシャル・フィールド(社会的な場)を培う」

学習者やチェンジメーカーは、生成的なソーシャルフィールドを体験し、培うことができなければなりません。より深くて変容的な学習サイクルを誰もが利用できるようにするという私たちの旅路において、主たる教師はいったい誰なのでしょうか? レッジョ・エミリアのアプローチは、「場所」そのものを第三の教師に見たてることで知られています(学習者と教育者が第一、第二の教師です)。レッジョ・エミリアのアプローチを踏まえて、今私たちは、生成的なソーシャルフィールドの構築、つまり学習者や教育者、親、地域社会のメンバー、自然などの間の関係性の構築を、より深い知の源への強力な入り口(「第四の教師」)であると見るようになったのです。偉大な大学、偉大な学校とは何でしょうか?何よりもまず、生成的なソーシャルフィールドこそが偉大な学校です。これが私の締め括りのポイントにつながります。

制度的反転「エコシステムの呼吸を実践する」

図5 「エコシステムの呼吸」(ケルビー・バード作)

では、ヨーロッパの高校生や若者たちによる「フライデー・フォー・フューチャー(Friday For Future)」のデモは、この拡張された学習の概念に属するのでしょうか?

それは、どこから見るか次第です。過去の学校や大学から見れば、このデモは学習ではありません。しかし、上記の12の原則で概説されたような、今出現しつつある未来の学校や大学から見れば、もちろんこのデモは学習であると言えるのです。それらは、今まさに作られつつある新たなグローバルな大学や学校の一部です。その新しい学校の特徴は「制度的反転」です。反転とは、内を外に、外を内にひっくり返すことを意味します。この場合の「内を外に」とは、学習者が教室を出て、自分たちの都市、地域、エコシステムにある社会的イノベーションのホットスポットに関わっていくことを意味します。つまり、都市が、地域が、グローバルなエコシステムが、教室になるのです。「外を内に」とは、世界の問題や課題をキャンパスに持ち帰ってそれを学習や科学的探究の中心に据えることを意味します。要するに、世界課題や社会の変革課題がカリキュラムとなるのです。

この反転の力学は「エコシステムが呼吸するプロセス」になぞらえることができます。つまり、行動して学ぶ学習者や行動して調査する研究者たちが、現実の世界に出ていって社会の変化の最前線に携わります(息を吐く)。また、さまざまなセクターやシステムにまたがるチェンジメーカーたちは、自らの体験を定期的にキャンパスに持ち込みます。それによって、これからの新しい動き方を共有したり、振り返ったり、共感知や共創するためです(息を吸う)。この、エコシステムの呼吸のプロセスを通じて、まさに今、新しい形態の大学が現れようとしています。新たな大学は、都市や地域、またはグローバルなコミュニティなどの、より大きな社会的なエコシステムの「生きた器官」として機能することを通して出現しつつあります。その新たな大学は、社会的なエコシステムが自分自身を感じ取り、観ることで、集合的に次の機会の波を共に形成していくことを助けます。

この呼吸プロセスの中心にあるのが、バーティカル・リテラシー(垂直方向のリテラシー)です。バーティカル・リテラシーとは、自らの意識をあるレベルから別のレベルへと、つまり、エゴからエコへとシフトさせる能力のことです。図6は、上で述べたことを、現在のあらゆる革新的な学習システムの再形成の鍵となる二つの変化に焦点を当ててまとめたものです。この二つの変化とは、学習サイクルの「深化」(頭中心から全人へ)と「広範化」(個人からエコシステムへ)です。

図6 学習とリーダーシップのマトリックス 広範化と深化

言い換えれば、私たちは社会的学習インフラの主な焦点を、左下(現在、私たちの注意と資源のおそらく90%が費やされているところ)から、マトリックス全体へと、そして特に、現在の学習システムでは盲点となりがちなマトリックスの右上の領域(例 ソーシャル・トランスフォメーション・ラボ)へと移していく必要があります。

12の原則は、私たちがこの旅をマトリックスの左下から始めて、マトリックス全体を包含するところまで進めていく上での道案内です。社会的学習インフラの主な焦点を動かしていく中で、学校や大学は、焦点を向ける対象を、自らが組み込まれている都市やエコシステム全体の「呼吸」や健全性にまで広げていきます。このように学習サイクルを広げ、かつ、深化させていくことが、高等教育機関を社会と自己を変革するための実践の場にしっかり根づかせてくれるのです。なぜなら、社会の変容と個人の変容は別のものではなく、同じ深い進化のプロセスの異なる二つの側面であるからです。より意図的に、システム全体を含むように、そして個人的かつ実践的にこのプロセスを支援すること。そしてこのような新しい学習インフラを、世界中の未来のすべてのグレタたちが利用できるようにすること。それらが、私たちの時代における最大かつ単一のレバレッジポイントになるかもしれないのです。

今年の残りの期間、私の毎月のブログ記事では、エゴからエコへの意識のシフトを体現する形で、経済、民主主義、教育システムを再発明する方法の実践例を紹介していきます。皆さんがこのムーブメントの共同形成者になるための、原則と実践について書いていくつもりです。同じトピックに関して毎月のオンライン対話シリーズを開催しています。皆さんの参加を歓迎します。

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同僚のエヴァ・ポメロイには非常に有益なコメントをいただきました。レイチェル・ヘンチサリナ・ブーハウズには、草稿へのコメントと編集を担当していただきました。オラフ・バルディーニケルビー・バードには、生成的スクライビングで素晴らしい作品を作っていただきました。皆さんに心から感謝します。

翻訳:ulab 日本語翻訳チーム(福島由美、宇野朗子、川島陽子、プラダン尚子、野田浩平、讃井邦明、内村真澄、秋元香里、井神七子、長澤憲英)

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