こんにちは。この記事は、日本で大学院生をやっていた頃の先輩である @keihigu さんがやっていらっしゃる研究留学アドベントカレンダーに向けたものになります。
いついったか、どこにいったか
初めての方ははじめまして。今年の9月から、イギリスのKing’s College LondonのComputing in Educationという修士課程に在籍する鵜飼です。7月までMicrosoftのグローバルなR&D組織にてProgram Managerをしていました。Office Lensとか、Minecraft Hour of Code Designerとかが、代表作です。
それより前は、大学院は東大の暦本研究室でHCIの研究をしたり、学部は慶応の村井研究室でネットワークの研究をしたりしていました。
何をやっているか
英国において修士課程は基本1年間なので、私も1年間のフルタイムプログラムに所属しています。最初の6ヶ月間は3ヶ月ずつの冬学期と春学期があり、その後の時間を研究に使い9月に卒業する形になります。
今は、9月から冬学期が始まり、ちょうど学期が終わったところになります。周りの多くの留学生は、地元に帰国している場合が多いです。冬学期では、以下の授業を履修していました。Computing in Educationのプログラムでは、その専門分野に関する授業2つを含む4つの授業を、最初6ヶ月で修了する必要があります。多くの授業は、6000単語程度のAssignment Papersだけで評定がつけられるので、いかに授業で積極的に発言しようと、最後のペーパーの出来が悪いとfailするというなかなか怖い仕組みです。
School Effectiveness and Improvement
英国は、データを用いた教育政策に関する長い歴史をもっています。興味がある人は、Ofstedという学校検査をする機関を調べてみてください。もともとMicrosoftでデータ分析(笑)みたいなこともしていたので、その仕組みがどうなっているのか、公教育はどれだけ教育的な価値を提供できているのか、数値で測れない教育の目的はなんなのか、とかに興味があり、履修しました。周りの履修者は多くがロンドンもしくは近郊の学校で意思決定に関わる人なので、最初は背景知識が足りなすぎて議論についていくのがやっとでしたが、今は学校外教育(例えば放課後クラブや、サマースクール)が英国において使われている学校の教育的貢献(value-added)の数値をどれだけ歪めるのか、についてAssignment paper を書いています。
Recent Developments in Technology in Education
プログラムの必修科目のひとつで、広い意味でICTがどのように教育を変えているのか、ICTが普及した現代において教育はどう変わっていくべきなのかを議論する授業です。これについては、コンピュテーショナルシンキングを他教科だけで教えることのメリットとデメリットについてペーパーを書いていて、興味があるプログラミング教育関係者も多いと思うので、後日別の記事にできればと思っています。
なんで他分野で留学しようと思ったの?
Microsoftでの4年間、グローバルな環境でOfficeやMinecraft Educationのチームで製品開発に携われたのはかけがえのない経験でした。特に、Minecraftチームに所属していたときにアメリカ最大のコンピュータサイエンス教育NPOであるCode.orgとMinecraft Hour of Code Designerという、プログラミング教育な製品開発に携われたのが最高に楽しく、それまでも自分で小学校にボランティアで出張授業に行ったりしていたのですが、コンピュータサイエンス教育を含めた広い意味での教育学をしっかり勉強して研究したい、という気持ちが強くなりました。あとは、プログラミングをやったことなかったり、教育をちゃんと学んでいないのにプログラミング教育を語る人になりたくなかったり、そもそも学部時代に少しだけ教職課程を取っていたのに忙しすぎて諦めたのを後悔していたというのもあります。キャリアや考え方については、以下のインタビューがうまくまとまっています。
なんでKing’s College Londonを選んだの?
- Microsoft Research CambridgeのResearcherであるSimon Peyton JonesにCS教育の研究がしたい、という相談をしたときに、UKにおいでよ、くるならKing'sにトップの教員が多くて一番良いと強く勧められたから。
- 特に、Computing at School (CAS)というイングランドにおけるComputing必修化で中核的な役割を果たした産官学連携コンソーシアムで中心的な役割を果たした、Sue Sentanceが所属しているから。
- イングランドではComputer Scienceが教科Computingの一部として2014年から必修化され、その取り組みの最前線を見ることができると思ったから。
- (ロンドンに住んで毎週プレミアリーグを見る、ということが一生で達成したいことリストの中にあったから。)
ということで、日本で学んでいたComputer Scienceとは異なる、Educationの分野での修士号(2個目ですが)の修了を、ロンドンで目指しています。Computer Science Educationの研究分野ではあるので、全くの別の分野ではないものの、フィールドとしては工学ではなく教育学になります。日本では珍しいですが、アメリカでもイギリスでも、社会人になってから興味関心が変わって学び直す、というのは珍しいことではありません。むしろ、まわりはストレートに学部から修士に上がっている人のほうが少ない印象です。日本でも、「学び直し」支援などの動きが広がっていきそうな気配がありますが(ちゃんとやらないと批判の嵐になりそうですが)、こんな変な人生を歩んでいる人もいるよ、という参考になれば。
楽しさ
- 一度、日本でCSの修士課程で国際会議に論文を書いたり、修士論文で研究をまとめたりというプロセスを学んでいるので、純粋に学問としての学びに集中できていて楽しい
- 自分とは全く違うキャリア、特に教育学を学んで、現役で教員をやりながら学んでいる学生が多いので、彼らの話がとても新鮮。
- 上記に関連して、かなり珍しいバックグランドを持っているので、いろいろな機会を頂ける
- 一度社会に出て、様々な問題意識を体感しているので、学びたいことが明確。
大変さ
- 1年間で修士号を取得できるということはイギリスを選んだ一つの理由ではあるものの、やはり結構スケジュールがかつかつになってこれから大変そう
- 学部で教育学を日本語でも一切学んでいないので、いちいち新しい単語とか調べまくる必要があって、最初は論文を読むペースがあがらない
- (HCIとくらべても) 研究結果の一般化(Generalization)がどこまでできるのかが非常に不明確なので、研究の結果もなにかあいまいになる(いろんなふうに解釈できる)ことがある
- (HCIとくらべて)論文に圧倒的に図、写真、グラフが少ないので、斜め読みで内容を把握するのが困難なので時間がかかる
あと、これは教育学の分野特有かもしれませんが…
- イギリス(というか、ロンドンにいるのでイングランド)の教育制度、教育政策やその歴史について知らないと議論についていけない場面が多発する(というのを気づくのが少し遅れた)
- 現場で働いている教員しか議論に貢献できないトピックがある(例えば、Ofstedによる学校検査でどんな検査があって、どこらへんを改善してほしいか、とか言われても、受けたことないから知りませんよ、とか)
… なんか他にも書きたいことあった気がするんですけど、忘れてしまった時間(現在23:48)なのでとりあえず投稿。