人は何に美しさを感じるのか

Tatsuya Uchida
7 min readApr 10, 2017

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大学でデザインとか建築をやってるとForm Follows Functionという言葉を習う。形態は機能に従うということで、「形を考えるときは格好良さじゃなくて、機能から生まれる必然的な形を考えなさい」という基本原則。アップルの製品デザインも形に合理的な理由を感じる。iPhone発売前のアップル信者はそれを力説してた。

なんだけど、この前多摩美の統合デザイン学科の成果展にいったら、深澤直人さんが全く逆の、「訳なく好むかたち」っていうテーマで授業した作品があってびっくりした。でも実際、訳もなく好まれるものっていうのは明らかに存在してる。黄金比は一つの法則ではあるけど、黄金比に従えば必ず美しいものができるのかと言えばそうではない。深澤直人さんの授業はそれを自分なりに探すのが目的だったぽい。

多摩美統合デザイン学科成果展の展示風景

もちろん時代や社会によっても変わってくるだろうし、主観的なものではあるんだけど、漫画のキャラクターが1話と最終話では最終話の方が洗練されているのは多くの人が感じたことがあると思う。やはりそこには人類が共通して本能的に感じられる「かたち」としての美しさや強さの何かがある。

自分が大学の時考えてた美しさ(というかビジュアルの強さ)の原則は、「変化」「立体感」「密度」「無重力」「生命力」の5つ。(実際はもっとあったかもしれない)半分くらい独断と偏見なのでちょっとまとめてみる。デザイナーとして4年働いて、美術的な美しさと、デザインとしての美しさにも共通点がある気がした。

変化

基本的に変化が大きいものは魅力的に感じる。よくデザインの本に載ってる「ジャンプ率」みたいな言葉も変化の一つだと思う。大学の造形の授業で最初にやったのは、一枚の紙と鉛筆を渡されて、「同じ曲線を二度と使わずに一筆書きで線を描け」というものだった。要は単調なものは見てて飽きる。掘り下げれば、大きさや線の変化だけじゃなく、色の変化、動きの変化、ストーリーの変化とか、いろいろあると思う。変化があるから世界は均質じゃない。比較によって物の輪郭が明らかになる。

面積のジャンプ率。雑誌のレイアウトとかこうなってること多い。
同じ曲線を使わずに一筆書き。難しい。AIの方が上手いかも。

立体感

奥行きとも言う。平面のデザインしてても、要素を微妙に重ねたりして立体感を出すことがよくある。最近は(数年前は)パララックス効果とかもUIデザインで流行ってた。写真教室に通ってた時も「立体感」は作品として成立する写真の一つのキーワードのようだった。

自分が映像作ってたときはフラクタルを使ってどんどん奥に永久に吸い込まれていくようなものを作ってた。これは先の立体感とは少し違う体験かもしれない。その時考えてたのは、奥行きがあると「奥に何があるのだろう?この先どうなるのだろう?」と見る人が考えて引き込まれると思ったから。

下の薄いグレーと濃いグレーを離して置くより、重ねた方がいい感じ。
恥ずかしながら昔作ったやつ。あと「Powers of Ten」とか美術系学生は見せられる。

密度

デザインでもバナーとかで、背景一色ベタ塗りだと間が持たないので適当にドットとか写真のブラーを敷くことがある(褒められたことではない)。密度は高ければいいってもんじゃない(むしろシンプルな方がよい)のだけど、作品としては「情報をできるだけ詰め込むと、人を圧倒するものができる」気がする。細かいパーティクルがものすごくたくさん動いてるのとかメディアアート系の表現でよくある。いつかのメディア芸術祭で賞取ってたRhizomeとかもとにかく密度が高い。密度があるということはそれだけ作品に作るエネルギーを費やしているということなので、見る人は強さを感じるのだと思う。ただし、ずっと見せ続けられると疲れる。

「時間的な密度」も強さに繋がる気がしていた大学3年の夏。

と思ってたんだけど、シンプルでも洗練されているものが美しいのは何故かと考えると、それはビジュアルとして表層に現れる情報は少ないけど、そのビジュアルの裏にある人の思考の数が多いからなのではないかと思っている。これは少し精神論的ではあるけど。

無重力

反重力とも言える。これを初めて意識したのは美術手帖の2008年8月号で、そこに載ってた作品がものすごく印象的だった。

美術手帖 2008年8月号「現代アート基礎演習(岡崎乾二郎氏監修)」より

箱が浮いているように見える。他にも無重力を感じるものがいくつかあったんだけど、どれも当時面白かった。美術手帖の解説は全ては理解できなかったけど、「無重力=自律性」ということなのかなと理解した。自立っていうのは、説明しなくてもその作品が自然に広まっていくという感じ。

そのあとも、豊田市美術館で「反重力展」というのが開かれたりしている。自分がデッサン教室でりんごを書いた時も、「りんごの重心が少し上にある方が重力に逆らっている感じがして美しく感じられる。」ということを言われた。これは平面デザインのレイアウトでもそうだ。ミッキーも細い足で太い胴体を支えるグラフィックになっている。宮崎アニメにはほぼ全ての作品で空を飛ぶ描写が含まれている。

なぜ無重力が気持ちいいのか?前回の記事でも少し書いた非現実性というのもあると思うけど、何か生命力と繋がるところがある気がする。生きているものは皆重力に逆らって何らかの行動をしている。そして死ぬと重力に逆らえずに倒れる。

生命力

大学の時、先生にずばり「人は何に美しさを感じるんですか?」と聞いたことがある。その時は、「それは過去いろんな哲学者が考え尽くしてきたことで、教育者的には答えを教えるよりは自分で見つけ出すべきことと言われることなんだけど、あえて言ってしまうと、生命力を感じるものかな」とずばり答えをもらえた。

そして腑に落ちた。人間が生物である限り、生命力のあるものに対して魅力を感じるのは必然だ。生命力のあるものと生殖して強い子孫を残したい。だからエロスに惹かれるし美しさを感じる。

これはここまで取り上げてきた変化とか立体とかとは違う次元のものだけど、どこかでここに繋がっているのかもしれないと思う。社会性を持った人間は当然、自らを生き抜くことだけで物事を考えないのだけど、人間が本能的に感じる美しさには、何か生命力と繋がるものがある気がする。

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