投資で判断ミスを招く致命的なバイアスのリスト(上)

HEYBIT
8 min readFeb 13, 2020

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行動経済学の大家であるダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)教授は、直観システムがどのようなバイアス(偏り)に弱いかを研究し、人間が相変わらず投資で失敗してしまう原因を突き止めました。

2002年ノベル賞を受賞したダニエルさん

筆者が株式投資戦略を研究して最も驚いたのは、国内で高い収益を生み出した戦略の大半が海外市場でも高い収益を記録しているという点です。約束でもしているかのように! さらに、株式市場で通用した一部の戦略は、仮想通貨市場でも通用しています。

各国の投資家代表たちが集まって「最近、最も大きく値上がりした仮想通貨を、今後1ヵ月間、引き続き上昇させるのが我々がやることじゃないですか」「そうしましょう! ははは」と合意する訳でもないですし。仮想通貨価格は徹底的に需要と供給で決まります。それにもかかわらず、クオンツ投資戦略は世界の株式市場で通用し、甚だしくは資産クラスを越えて仮想通貨市場でも有効です。

このブログに出てくる全ての戦略は、人間のバイアスを逆手にとって収益を生み出します。バイアスという判断ミスは、どこでも横行しているため、人間が金融商品を売買するすべての市場で例外なく存在します。したがって、人間のバイアスを理解することは非常に重要です。みなさんはバイアスをできる限り理解するとともに、バイアスの穴にハマらないよう心がけるべきです。

代表的ないくつかのケースを見てみましょう。我々はみんな人間であるため、心理的な落とし穴であるバイアスから完全に脱するのは非常に難しいです。推論システムだけで動く人間はこの世に存在しないはずです。

一貫性のなさ

投資は一貫性(consistency)が非常に重要です。成功的な投資には高い知能は必要ないです。このブログがあとで紹介する戦略のうち、どれを選択しても一貫性を持って真似さえすれば儲かる可能性が非常に高いです。失いたくても失えないほどです。しかし、残念ながら一貫性を持って行動する人は比較的にすくないんです。一貫性を持って行動し続けることは不可能に近いです。

我々の考えは1日に何度も変わる(Source: https://next.rikunabi.com/journal/20150922/)

ダニエル・カーネマンは仮釈放の統計を見て驚くべき事実を見つけました。 判事8人が仮釈放申請を検討して平均6分ほどで決定を下します。食事直後には仮釈放の承認の割合が65%でしたが、食事前の二時間の間では承認の割合がだんだん落ちて、食事の直前には0%まで落ちました。疲れと空腹は一貫して行われるべき仮釈放の承認に大きな影響を及ぼしたのです。

仮想通貨の投資にも気分、健康、空腹、疲れ、天気など投資と全く関係のない要素が売買の決定を左右する可能性が非常に高いです。判断ミスは致命的な投資結果を生みます。再度強調しますが、このように右往左往する人は、筆者の知り合いには一人もいないです。一貫性のある行動がこんなに難しいのに、一貫性のある投資行為はどれほど難しいでしょう。

オーバーコンフィデンス(自信過剰)のバイアス

普通、我々は他人より偉いと思う傾向があります。学歴がよければ良いほどこのような傾向はもっと強くなります。これを「自信過剰のバイアス(overconfidence bias)」といいます。人々に「あなたの運転実力は人に比べてどうだと思いますか?」と聞いてみたら80%以上が「平均以上」と答えます。現実的には平均以上の実力を保有した運転者は50%を以上になることはありえないでしょう。

先史時代には今日狩りに失敗しても「それでも明日は鹿を捕まえられる!」という自信が生存するのに重要だったはずです。家族を養わなければならない世帯主が、一日や二日ほど鹿を捕まえられなかったとしてうつ病にかかり、家に閉じこもっていたら、人類は恐らく滅びてしまったでしょう。

しかし、投資時の自信過剰は非常に危ないです。仮想通貨市場は価格変動が極めて激しいです。自信過剰は、投資家らの過度な取引(overtrade)を引き起こします。ベッティング額をあまりにも大きくしてしまうのです。「当然ながら」自分が買った仮想通貨が上がると確信するからです。「え? 資産の5%を仮想通貨に投資してって? ふざけんじゃねぇよー、ちっちゃ! 〇〇コインにオールインだぜ! こりゃ間違いなく上がるんだから! オレは知ってる! 暴落するって? キミたちに何がわかる? オレ様は君たちとは違う。よし、いこう~!!」最初の1、2回はこうして稼いでも、後の一発で貧乏になった人、多分周りでもしばしば見かけるのでしょう。

自分がやればなんかうまく行けそうな気がする。。。

こうやって一発で「凍死家」になった方々は精神的に何か問題があるんでしょうか? そうではないです。極めて正常な投資家です。あれぐらいの「根拠のない自信」は、大分の日本男性が見せる傾向ではないでしょうか。あういうタイプの人って、みなさんの周りにも多くいるのでは? まさか自分のことでは?

後ほどリスク・マネージメントの部分で詳しく説明しますが、投資の割合を低くしてキャッシュの割合を高くすることが非常に重要です。

基準点のバイアス

ある実験で、参加者の半分に数字「10」を見せて残りの半分には数字「65」を見せたんです。それから「アフリカ諸国のうち国連加盟国は何パーセントでしょうか?」という、参加者たちが多少分かりにくい質問をしました。10と65という数字は答えと全く関係がないですが、質問前に10を見た人たちの25%が10だと答え、65を見た人ったちの45%が65と答えました。このように当面の問題と全く関係のない数字やファクトをもとに決定を下す現象を「基準点のバイアス(anchoring bias)」といいます。

仮想通貨市場、いや、すべての投資で最も重要な「基準点」は何でしょう? それは「買い値」です。その値段以下では売りたくないのが人の心理です。

結局「買い値」という基準点に拘ったあげく塩漬けしまうというパターン

エドワード·ソープ(Edward Thorpe)という名を聞いたことありますか? この方はIQが190で、一度聞いた内容を覚えるのはもちろん、ブラックジャックゲームで勝つ必勝法を開発してカジノで大金を儲けました。当然ながら彼が目の敵だったカジノ側は彼を圧迫したり、飲み物に麻薬(!)を入れたりもしたといいます。命の危険を感じたソープは、より大きなカジノ、すなわち金融市場に進出することにしました。その後IQ 190の頭脳を稼動して転換社債(Convertible Bond)とオプションの価値を測定する公式を生み出し、これで大金を儲けました。ソープは世界初のクオンツ投資家だったのです。

後にブラック(Fisher Black)とショールズ(Myron Scholes)教授がソープの公式をコピーし、あの有名な「ブラック・ショールズ公式」を開発し、ノーベル経済学賞を取りました。「なぜ公式を論文に書いてノーベル賞を受賞しなかったのか」という質問にソープ教授は「ただ静かに公式を使ってお金を稼ぐ道を選んだ」と答えたそうです。

ソープも最初は優秀な投資者ではなかったです。カジノやぶりを終えて他の分野を覗いていたところ、ある新聞記事の内容に引かれて自動車部品会社の株を買いましたが、買ってすぐ半分になってしまったそうです。 以後数年間粘ったあげくやっと元値で売りましたが、後に自叙伝で「あぁ、私はあの頃基準点のバイアスの罠にハマってたんだ!」と嘆きました。

この冗長なストーリーのポイントは、人類初のクオンツ投資家であり、IQも190でブラックジャックを上達してブラック・ショールズ公式を開発したソープのような天才も元本損失をしない(買い値に戻す)ことに拘って、基準点のバイアスの罠にハマったという点です。 一旦お金を投資すればIQの高いソープみたいな天才も猿に過ぎないです。

ところで皆さんは自分は彼と違うと思ってますか? 基準点のバイアスの罠にハマらない自信はありますか?

つづく

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