加藤巧+前谷康太郎「Transfer Guide」展

the three konohanaでは現在常設展が開催中(〜2月18日までの土・日)ですが、同所で昨年11月11日〜12月25日に開催されていた「Transfer Guide」展は、大阪に拠点を置いている前谷康太郎(1984〜)氏と、岐阜に拠点を置いている加藤巧(1984〜)氏という、くしくも同い年のアーティストによる二人展でした。the three konohanaは、ギャラリストの山中俊広氏の手によって良質でクリティカルな個展やグループ展を多く企画してきていることで知られていますが、二人展というのは意外にも初めてとのことで、その点においても要注目の展覧会であったと言えるでしょう。

この「Transfer Guide」展、両氏とも近年美術館やギャラリー、オルタナティヴスペースにおける個展やグループ展で旺盛に作品を発表してきている――特に加藤氏はこの展覧会と並行して愛知県清須市にあるGALLERY MIKAWAYAで個展を開催していました――中で行なわれた感がありますが、今回は二人の近況を見せることに主眼が置かれた構成となっていました。両氏の代表作あるいはそれに類するクラスの作品をガッツリと見せるというよりも、これまでの作家活動で確立されている/されつつあるパブリックイメージとやや異なる視角から、近作を通してその仕事の新しい局面、こう言って良ければ未来のかけらというべきエレメントをひと足早く紹介することに力点が置かれていたわけです。もちろん今後両氏がどのような変遷を辿っていくことになるかは現時点では当然全く分からないのですが、こういった機会を通して両氏に対する視点の変換や視線の更新を見る側に対して促していたわけで、「Transfer Guide」(乗り換え案内)という展覧会タイトルは言い得て妙である。もちろん「未来のかけら」を見せるからといって、出来かけのものを放置するというような手抜きは一切ない。

加藤巧氏は現代の日本においては珍しく(?)テンペラ画を主に手がけており、当方は一昨年the three konohanaで行なわれた「ARRAY」展において氏のテンペラ画に初めて接して非常に印象に残ったものですが、今回はテンペラ画の新作に加えて、最近手がけ始めたというセメントを下地にしたフレスコ画も出展されていました。テンペラもフレスコも中世ヨーロッパにおける手法であり、現代ではその頃の壁画の修復以外の場面においてはほぼ顧みられることのない技法なのですが、加藤氏はこれらの技法の持つ「ひと筆で線や面を描けない」という――現代の視点からすると一見デメリットにしか見えない――特質を逆手に取り、最初にドローイングを描いた後、それを手本に改めてテンペラやフレスコに移し換えていくという形で絵画作品をものしている(画像参照)。氏においてテンペラやフレスコという技法は、描くことそれ自体を改めて主題として再帰的に導入するための必須の方法論であり、かような手法を採用することで、これらの技法が過去の「枯れた技術」ではなく、新たなアクチュアリティを持ちうることを見る側に強く印象づけています。

もう一方の前谷康太郎氏は、要素を極端に削ぎ落としミニマリスティックに還元した映像作品を手がけることで、近年和歌山県立近代美術館や芦屋市立美術博物館といった関西の美術館に招待されることしきりですが、今回は映像ではなく平面や写真作品が出展されていました。いくつかのタイプの作品が並んでいましたが、個人的にはとりわけ《imago》シリーズ(画像参照)に超瞠目。前谷氏が構えているアトリエ(the three konohanaの近所の、かつて梅香堂というギャラリーだった場所)の窓にかけられた暗幕が直射日光&川からの反射光で褪色したのを「Transfer Guide」展に合わせて平面作品っぽく表装し直して制作されたとのことですが、以上のような過程をレクチャーしてもらってから改めて接すると、――前谷氏のアトリエを天然のカメラオブスキュラとして――数年間にわたって露光された写真作品という相貌をにわかに帯びてくることになる。写真の発明者の一人であるニセフォール・ニエプスは自身の発明を「ヘリオグラフィーHéliographie」と名づけてましたが、この語が「太陽」と「画」を組み合わせた造語であることを勘案してみると、《imago》シリーズは真・ヘリオグラフィー状態となっており、そのことによって写真というモノの歴史的な遡行と現在における概念の拡張を、一切のデジタルなテクニックを用いることなく同時に達成しているというトンデモナイ作品となっているわけです(驚)。これ、かつて栃木県立美術館で「マンハッタンの太陽」という展覧会( http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/exhibition/t130713/index.html )を企画し、そこにおいて「太陽画」という謎概念の歴史として近世-近代以降の絵画史を再記述した山本和弘氏に見せたい。

このように概観してみると、加藤氏も前谷氏も、その出展作において技法の点で近代以前を指向していることに注目する必要があるでしょう。上述したようにテンペラもフレスコも中世ヨーロッパにおける絵画技法であるし、カメラオブスキュラはルネサンス期に確立した技術である。ここにおいて私たちは展覧会タイトルの「Transfer Guide」がもう一つ別の位相をも指し示していることに気づくことになります──近代の、モダンアートからの乗り換えという位相が。二人の作家が示した価値の乗り換えの射程は、実はものすごく広大である。

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