負債

ある女性が今日電話をかけてきた。自分はファミリー・アーカイヴ(家族の記憶資料)を保管しているのだ、と彼女は言った。私が作家だと誰かから聞いたのだ。彼女は、イディッシュ語劇の有名な革命者であり夢見る人でもあった自分の祖父について本を書きたいと思っており、それを私に手伝ってもらえないかと思っている。私は短編をひとつ書くために、イディッシュ語劇についての手持ちの知識のすべてを注ぎ込んでしまったし、それ以上の知識をまた頭に詰めこんで、もう一冊本を書くような時間の余裕はない。私はそう説明した。なにかを身につけてから、それを文章にするまでに、私の場合はすごく時間がかかる。彼女は利益を分配しようと申し出た。でもそういう問題ではない。利益配分のいかんを問わず、私が書くどのような文学形態にも、彼女のお祖父さんの生涯はうまく収まるまい。

翌日、友人のルチアと私はコーヒーを飲みながら、この女性について話をした。ルチアは私に説明してくれた。傑出した祖父やらについてのファミリー・アーカイヴを手元に持っているというのは、あるいは文書ではなくてもいくつかの思い出を持っているということは、けっこうきついものなのだ。とくにその人が六十だか七十だかになっていて、身内にものを書ける人が一人もいなくて、子どもたちは自分の生活に追われて忙しいという場合にはね。自分が死ぬことによって、自分が引き継いだものがみんなあっけなく無に帰してしまうのは哀しいことじゃない、と彼女は言った。そうかもね、と私は言った。たしかにそのとおりだ。私たちはもう少しコーヒーを飲み、私は家に帰った。

最後の瞬間のすごく大きな変化 グレイス・ペイリー

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