シカゴ派のデザイン思考

あまり知られていないけど、ヨガに様々な流派があり、茶道に裏千家や表千家があるように、「デザイン思考」にも西海岸派と中西部派(分かりやすくするために、この稿ではシカゴ派と呼びます)という流派があります。

単純化して2つを分類するとこんな感じしょうか。

シカゴ派:システム思考的アプローチ。顧客体験とビジネスモデルの設計にフォーカス。プロセス重視でメソッド志向。使う言語はかなりビジネス寄り。

IDEOに代表される、西海岸派のデザイン思考はいろいろなところで解説・導入されているので、この稿ではシカゴ派の話をしてみたいと思います。

シカゴ派は、ビジネスをミルク、デザインをコーヒーとするとしたらカフェラテ。配合比率で言うとかなりビジネス(ミルク)が方が大きい。シカゴには、ブティック系の小ぶりなデザイン会社がたくさんありますが、Strategist(戦略屋)やAnalyst(分析屋)を名乗る人の比率がとても高く、コンサルやビジネススクールからの人材の流入も珍しくありません。コンペでもマッキンゼーやBCGのような戦略コンサルティングファームと競合することも多いようです。


個人的に、シカゴ派かくありなん、というのを思い知ったのは、シカゴのデザインスクールに留学中に、Magnificent Mile(NYで言うと五番街)というシカゴの目抜き通りにあるApple Storeに見学ツアーに行った時でした。

目の前に並ぶのはAppleのクールなプロダクト群。一般的なデザインスクールであれば、プロダクトの美しさ / 使いやすさなどにフォーカスを当てるでしょう。

でも、その学校はちょっとひねくれていて、ザックという講師は、Apple Storeの在庫管理の仕方、受発注の仕組み、接客マニュアルに書かれている文言などを詳しく説明するんです。店員の服装から、言葉遣い、製品の並べ方にも色んな工夫が詰まり、多くの秘密が隠されている、と(確かに話を聞くと、伏線が大量に張り巡らされたサスペンスのように面白かった・)。

そして他の授業では

iTuneで有料アプリを購入すると数日後にメールでレシートが届く。これはなぜか?

と詰問されたことがあります。これを尋ねて来たのは、名物教授でTen Types of Innovationというイノベーションの解説書を書いたラリー・キリーという名物おじさん。シカゴのDoblinというデザインファームを共同設立した大御所です(ちなみにDoblinは2014年にデロイトに買収されました)。この質問は、国際税法と租税回避スキームがわからないと答えられないのだけど、「デザイナーたる者これくらい考えろ」と言い放つ。その他、「プロダクトのみにフォーカスするな、体験にフォーカスしろ」、「プラットフォームレベルで考えろ」、「儲かる仕組みを考えろ」こんなこともシカゴ派の教えとして説かれます。


シカゴ派は、こんな風に「氷山の水面下(Iceberg Underwater)」への目配りが所作として身についている。自動車の流麗な形状、Webサイトの美しい質感、と言ったようなものがあるように、世の中には「エレガントな仕組み」というものがあると信じていて、それを作ろうとします。

0からものを作ること、ものを届けるための仕組みづくり、そしてものがひとの手に渡る瞬間の体験のデザイン、その全てをデザインの対象としています。

最近、シカゴ時代の恩師の一人(デザインファームのパートナーでもあります)が、Uberの最大の武器は、ソフトウェアでもUX(顧客体験)でもなく、ロビイストの数と質だと言う記事を書いていました(アメリカだけで250名以上のロビイストを抱えているそうです)。とてもユニークかつ本質的な視点だと思います。実際、C2Cサービスを行っているクライアント企業に、ロビイストの採用戦略を提案しているとのこと。それって果たして何デザイン!?とも思うのですが、それでいいのだと思います。とてもシカゴっぽい。

アメリカ中西部でこうしたデザイン手法が発達したのは、地理的特性に依るところが大きいように思います。

中西部は、アメリカ東西海岸と違って、保守的で多様性の低い地域。少し日本ぽいところがあります。

ビジネス環境もそうした土地柄を反映してか、IT・テック系企業が少なく、どちらかと言うと伝統的な業界である小売りや自動車、金融、外食産業の比率が高い。会社名を挙げると、マクドナルド、P&G、GM、3M、ボーイングなど。こうした保守的な大企業に、(ビジネス言語を多用しつつ)摩擦係数の少ない形で新しい事業やサービスの導入を促す必要があったのだと思います。

そんなシカゴ派にも欠点があるとすれば、それは決して美的感覚(aesthetic)のレベルが高くはないということでしょうか。

シカゴ派は、一本の線が生む緊張感、と言ったようなものに割と無頓着に気がします。平たく言うと、カッコよくないもの、美しくないものを作ってしまう。美意識や、文化そのものを作っていきたいという態度、こうしたものが組み合わさることで、より洗練されたものになるのではと思います。


このデザイン思考を西海岸/中西部の2つに流派に分ける考え方は、ジェレミー(ドラマ「The Office」のマイケル・スコット似)という、いい加減で有名な講師が作ったもので、正直どれだけ信憑性あるか分からないです(正確性を欠くところがいくつかありますが、とにかく分かりやすさを大事にしました)。

少なくとも、デザイン思考を多元的に捉えるための、思考実験の機会を与えてくれるコンセプトだと思います。