この「副業でWebサービス」シリーズでは、Lingomine の成長過程を連載形式で共有したい思ってます。Lingomine を作りはじめたのは 3 月頭で、だいたい 5 ヶ月弱でサービスインしました。2018年8月3日現在、サービス開始から 2 週間が経ち、ユーザー数がじわじわ増えてきました:
- 👨🏻💻 56 サインアップ
- 💰 $0 売り上げ
- ✅ 1049 単語・フレーズが追加
こういう “生の数字”、とくにユーザ数や収入といったデータはよそではあまり見たことがありません。でも Web サービスをこれから始めようという人にとって、Lingomine のような実例は参考になると思います。それに私は記録を取っておくのがわりと好きなので、他の人にも役立つなら公開しておこうという感じです。
収入 = 空気や水
サービスを続ける上で不可欠なのが、収入です。サービスを続けてれば、毎月 Heroku や Google Cloud 利用料金などの支出が発生します。もし支出のマイナスをプラスにできるほどの収入がなければ、赤字が膨らんでいつかはサービスを畳むことになります。なので収入とは、サービスが生き延びるのに必要な空気や水みたいなもので、とにかく絶対に必要で、それも早めのうちから必要です。
で、新規Webサービスの厳しいとこは、有料ユーザーはしばらく現れないことです。つまり空気や水の無い状態が、いつまでか分からないけど続きます。ユーザーはふつう、無料プランをしばらく試してみて、もし気に入ったらほんの数パーセントくらいがようやく有料プランに移ります。なので最初の数ヶ月間 (もっと?) は、有料ユーザーを探しつつ、収入ゼロで踏ん張らなければなりません。
となると当たり前ですが、支出を削る必要があります。なんせ収入がゼロなので、ちょっとの節約じゃダメ。だからバッサリと削ります。
支出をおもいっきり削るためには、逆説的ですが、身銭を切る必要があります。
💸 身銭を切る
身銭を切るとは、自分でお金を払うというだけでなく、コストに敏感になるという意味も含んでます。副業でお金が減っては元も子もないので、外部サービスに払うお金は意識的にとことん切り詰めます。
Lingomine では節約の結果、一ヶ月あたりの支出をたった $16.54 まで押さえました:
- $9: Heroku Postgres Hobby Basic
- $7: Heroku Hobby Dyno
- $0.51: AWS Route 51
- $0.03: AWS S3
- $0: Google Translation API
Heroku はデータベースも Dyno も最安プランです。そして、Google Translation API の料金は、なんとタダに抑えることができました。
Lingomine のポップアップ辞書は、Google Translation API による自動翻訳と、他のユーザーの訳を表示します。Google Translation API の利用料は、現在の使用量によると、何も節約しなければ月 $14 程度かかる計算です。これを自分で払うのは痛すぎるので、次のような工夫でゼロにまで減らしました:
- 訳のキャッシュ: いちど Google Translation API で翻訳した訳はキャッシュし使いまわす。これで $10/月ほど節約できた。
- Google のクーポン: Google Cloud API の無料クーポンを残りの支払い $4 に使う。これによって、毎月タダになった。
こうした節約テクは後々の収益化に直結します。支出は $16/月だけなので、黒字にするには有料ユーザたった 2 人で十分です。またユーザーはみんな大体同じ箇所を翻訳するので、ユーザーが増えてくるほどキャッシュが効いてきます。サービス初期からこうした節約の仕組みを入れておけば、長い目で見るとすごくお得です。
社内からの「協力」
実は Lingomine をリリースする少し前、社内でベータユーザーを募ったことがあります。結果はまあまあ好評で、ユーザーが増えただけでなく、次のような話までいただきました:
- 副業ではなく会社の新規事業としてやってみたら?
- 事業部や関連会社と一緒にやってみたら?
- サーバーは、会社で契約しているものを使っていいよ!
こうした申し出には、実はちょっと注意が必要です。いったん会社の仕事にしてしまうと「大きな事業にしよう」という無意識なバイアスが強くかかるからです。これはとくに Lingomine のような初期サービスにとっては考えものです。
収益化のポイントは「身銭を切ってギリギリまで節約すること」と書きました。しかしいったん会社のお金が入るようになると、節約のモチベーションはすぐどっかへ行ってしまいます。1ドル単位の節約よりも、どう話を大きく見せるかという方向に意識が向かい、運営費はいつの間にか膨んでいます。また協力者が増えてくると調整や会議が増え、肝心のサービス開発に取れる時間も減り、成長は遅くなってしまうのです。
とは言っても、会社というのはもともと、一人ではできないことをするための仕組みです。他社と協業するときとか、個人じゃ無理だしやっぱり会社は役に立ちます。でも会社として事業化するならば、サービスがある程度大きくなってからでも遅くありません。たとえば、ユーザーがすでに 1,000 人ついているといった具体的な数字が出せれば、事業化プレゼンの説得力も上がるはずです。たぶん!
まとめ
Lingomine は意識的に小さくまとめたサービスです。後々の収益化に向けて、身銭を切りギリギリまで切り詰めました。と言ってもその場限りのムリヤリな節約とかではなく、ちょっとした工夫で誰でもできることです。
英語に興味のある人はもちろん、Web サービスのスタートアップに興味がある人は Lingomine をぜひ使ってみてください。今回の “身銭を切る” 以外にも、いくつかのこだわりが入ってます。この「副業でWebサービス」シリーズでは、こうしたこだわりを連載していきます。