製品の外にある体験を視覚化しよう

これは iPhone 7 のコマーシャルの一コマ。少年が夜中に写真を撮りに行ったときのシーンです。夜でも撮影できる、スマートフォンでも綺麗な写真が撮れるという機能的な部分を暗に語っていると同時に、少年の感情や動機も表現しています。夜中突然、撮影をしに行きたくなる動機を iPhone 7 が与えてくれてるかのように見えます。それはコマーシャルのところどころに出てくる少年の表情から見ても分かります。iPhone 7 は、彼にとって自己表現のデバイスであるわけです。

iPhone 7 のコマーシャルを 1200 メガピクセルのカメラ、手振れ補正の改善、最大10倍のデジタルズームといったスペックを中心に語ることができたでしょう。代わりに、iPhone 7 を使う人にフォーカスを当てた内容になっており、視聴者によっては感情移入した人もいるかもしれません。

こうした語りかけは、Web サイトやアプリという製品そのもののデザインをしていると忘れがちな視点だと思います。実は製品がどれだけ素晴らしいかというのは、一部のファン以外興味がない部分です。それより、製品を通して使っている自分がどう変わるのかに興味を持っています。本来、利用者の体験について考えなければならない部分はこうしたところで、製品そのものを触れているときの体験に留めるべきではないわけです。アップルのコマーシャルは、製品ではなく使う人にフォーカスしていることが多いですが、製品を使うことによってどう変わるのかを語りたいからでしょう。

Amazon にしても同じことが言えます。あらゆるものものを手頃な値段で買えるのはもちろんですが、たった 1 クリックで用を済ますことができる利便性が最大の魅力です。家にないと突如気付いたとしても、ワンクリック解決。数時間後、遅くても次の日には手元に届くわけです。急ぎのモノもすぐ届くことで、自分自身にも喜びがあるでしょうし、周りの人も「助かった」と感謝するかもしれません。私たちが Amazon に対して思い出す印象は、素晴らしい UI ではなく「欲しいものがすぐ届いた」という体験のほうが強いはずです。

スマホで簡単にモノを売買できるメルカリにしても、片手で出品・購入できるというアプリ内の体験が最大の魅力ではないと思います。自分で送り先の情報を書かなくても良かったり、自分の個人情報を完全にさらけ出すことなく、モノを売り買いできるのは非常に便利です。今まで手間だったこと、足かせになっていたことを省いてくれたところが人気の秘密だと思います。「欲しいものがすぐ届いた」という意味では Amazon と体験が似ているかもしれません。

ポジティブでもネガティブでも、感情に響く物語が体験として残ることが多いです。そして、それは Web サイトを使う、アプリを使うといった製品の中に留まらないこともありますし、むしろそこは含まれていない場合もあります。「何をデザインしなければいけないのか」という問いは、製品そのものだけではなく、時には社会システム(決済、運送、法律など)のデザインにまで及ぶことがあります。そこまで踏み込んでいるサービスが国内外問わず注目を浴びているように見えます。

もちろん、Web サイトやアプリのデザインが重要ではないと言っているわけではありません。また、社会システムのデザインまで話を広げると、ひとりのデザイナーができることは限られています。しかし、製品だけにフォーカスすることで本来人が成し遂げたかった目的が見え難くなるときがありますし、デザインも目的達成を助長するものであるべきです。もし、自社の製品の機能や見た目を紹介せずに、使う人にフォーカスして語るなら、どのような物語が生まれるでしょうか。Web サイトやアプリのデザインをする際にも役に立つ視点です。


この記事は、筆者 Web サイトで公開したオリジナル記事からの転載です。