Chocolate Letters On Valentine's Day

Yoko Sasagawa
8 min readApr 13, 2020

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2020.02.12 - 2020.03.22

友人の存在をチョコレートの味に喩えて贈るプロジェクト
Chocolate Letters On Valentine’s Day

喩える事で、「そのまま」を伝えたい

目に見えず、形のない人の魅力を何かに喩えることで表現したいという思いから始まったバレンタインプロジェクト。食べられるメタファーを通してある人の分類不能な美しさを「そのまま」表現できたら、そこから私の意図しない様々な解釈=色々な見方が生まれるのではないか、と考えました。喩えを贈り、そこから引き出される、言葉や肩書きのない、新しい形の「名刺」とも呼べるものを作りたい。そんな思いから、バレンタインの時期に「その人らしさ」を込めたチョコレートを贈ることにしました。

3月22日。アメリカにいる友人を除いて、渡したかった11人全てにチョコレートを手渡すことができました。この文章では、チョコレートを贈る過程を振り返ります。

チョコレートを贈りたくなる人は誰?

バレンタインの起源はローマ帝国の時代にまで遡ると言われています。当時のローマ皇帝クラウディウス2世は、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、兵士たちの婚姻を禁止。それを憐れんだキリスト教司教のヴァレンティヌスが内緒で結婚式を行なった事が噂で伝わります。皇帝の逆鱗に触れ、二度とそのような事がないように命令を受けつつもそれに屈しなかったため、処刑されてしまった事が由来だそうです。なんたるドラマ。

もちろんこの話には諸説、異論もあるのですが、人が心の拠りどころとなる他人との繋がりを大切に思っていることは、昔も今も変わらないのだなと実感するエピソードです。離れ離れになると連絡が容易につかない当時は、愛して結婚する相手との結婚式で繋がりを意識する儀式が兵士の心を支えていたのだと思います。では、メールやチャットも電話でも連絡が容易につく現代社会で、バレンタインにチョコレートをあえて贈るとしたらどんな意味があるのだろう。それを考えている時にこの言葉を思い出しました。

「関与者たち」は、私たちにとって最も基本的な社会的資源である。
プラース,D.W.(1985)「日本人の生き方:現代における成熟のドラマ」より

プラースの語る「関与者」とはある期間に渡って、しかもある程度の親しさをもって関係を保つ人びとのこと、つまり濃い付き合いのある人びとです。日頃当たり前のように関わる日常的な繋がりがあり、実はお互いに影響し合っている人、とも言えるのではないでしょうか。誰とでも連絡を気軽に取れる時代だからこそ、このような近くの「関与者」には基本的な「ありがとう!」という気持ちは伝えていないかもしれない。

ということで今回は私が「関与者」である12人に日頃の感謝を込めてチョコレートを贈りました。今回選んだ12人には、もしもこの人達がいなければ今の私の考え方はないなと思うほど影響を受け、心から尊敬しています。「いつもありがとう!」とつい言いたくなってしまう友人です。

「その人らしさ」をチョコレートに込める

贈る相手が決まったら、早速チョコレート作りに取りかかります!
今回はカカオ豆を購入し、できる限り原料に近い段階から手作りしました。現代、スーパーに行けば当たり前のように美味しいチョコレートは手に入りますが、その過程を知っておきたいと思ったのです。
(市販の滑らかなチョコレートは細かな技術の結晶だと実感しました。)

「その人らしさ」を喩えるにあたって考えたのは主に以下の7つ。

・食材の味(甘い、酸っぱい、苦い、辛い、しょっぱい)
・食材の食感や質感(爽やか、トロトロ、粘っこい、まろやか)
・食材の色(淡いみどり、強めの赤)
・食材ができるまでの時間(熟成3年)
・食材の産地(乾燥地、高い木、国産)
・食材の口当たり(なめらかさや硬さ)
・チョコを食べるTPO(おめざ、仕事/勉強の休憩中、夜食)

作るときに全ての項目を意識していたわけではないですが、振り返って分類するとこのようになります。基本的には印象的な表情や似合う風景などのイメージが先行しているので、項目同士が関連していて不可分です。例えば、Aちゃんは爽やか(な質感)でストレートに酸っぱい(味)で昼のアイスティーが似合いそう(なTPO)で熟成された(背景の時間を感じさせる)子なので、レモンのシロップ漬けを選び、Bちゃんは淡いみどり色を纏い(色)で国外の照る光が似合う子(産地)なので、ピスタチオを選びました。「この人はなんとなく、こういう表情をしていてこういう風景が似合うからこの食材の味かな。いや、もう少し爽やかで硬めのものでもいいかな。」といった要領で感覚に頼っています。イメージが浮かばない場合には大抵1つか2つの項目から連想ゲームを始め、バランスも考えながらその人らしい食材を選びます。

中身の食材とリキュール入りチョコレートの組み合わせで12種類のチョコレートを作る

そして今回は幸か不幸か、時間の限りが決まっていました。「そうだ、チョコ作ろう!」と思い立ったのが2月12日。もうそこまでバレンタインが迫っていました。急いでカカオ豆をネットでポチり、すり潰して12粒のチョコレートを作り上げるまでにおよそ3日間。1日遅れのバレンタインチョコの完成となりました。そんな適当な性格の助けもあり、関与者たちの「その人らしさ」について「えい!やっ!こんな感じ!」と悩みすぎる事なく形になっていきました。始める前にはその1粒の意味付けを練ることに何日も悩んで作り込むべきだと思っていましたが、そんな時間もありませんでした。今思えば、バレンタインという社会的儀式の期日やチョコレートと合う食材を考えなくてはいけない、という制限が発想の余地を残してくれたのかもしれません。
ただ、普段私の住む地域のスーパーや家に偶然あった食材のみから発想すべきだったのか、既に甘いチョコレートは食材との相性を制限しないか、といった仕組みのデザインについては今後もう少し検討していきます。

手紙とチョコレートを手渡す

今回はチョコレートと合わせて、手紙を渡しました。それぞれがチョコレートに関する解釈を始めるきっかけがあればいいと考えたからです。そのきっかけの仕掛けには悩みましたが「関与者宣言」では、感謝を伝える手紙を添えました。チョコレートに込めた意図が説明の押し付けにならないように、"明るい"や"優しい"など一般的で直接的な形容詞を避け、抽象的かつ輪郭の掴める粒度になるよう配慮しながら言葉を選びます。言葉で表せない魅力や存在を形容したいのに、言葉に頼ってしまう仕組みはどうなのだろう、と内心ツッコミながら。

それぞれに似合う色を選び、その人らしさを表す言葉を添える。
チョコレートと手紙を手渡す。開くとこんな感じ。

そんなこんなで、3月中には、アメリカにいる友人を除いた全員にチョコレートと手紙を手渡し「関与者宣言」の第1弾を終えました。無事渡す事のできた11人の関与者(友人)は、1人ひとりへの渡し方もプロジェクトの説明の仕方も、もらったリアクションもそれぞれでした。「ほにゃ〜」と猫のような驚き方と喜び方で放心?する人もいれば「え!どうしてこういう風にしたの?」と嬉しそうに尋ねる人も、その場で食べる人もいれば家で食べる人もいて、帰りの道中で食べて連絡をくれた人もいました。そこに「その人らしさ」が表れていて、改めてこんなにバラエティ豊かな人々に囲まれていることを実感しました。

今回はチョコレートによる「関与者宣言」の過程を振り返りました。
思ったよりも長くなってしまったので、今回はここまで。次の記事には、気づいたこととこれからのプロジェクトについて書いていきます。

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Yoko Sasagawa

Keio Uni. Faculty of Environment and Information Studies