『ホラホラ、これが僕の骨』デザイントーク【6】イメージを広げてくれる写真

佐藤好彦 Yoshihiko Sato
3 min readNov 5, 2017

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写真を提供していただいた茜屋さんとは、ウェブ系のイベントでお会いして以来、SNSでつながっていて、ずっといい写真を撮る人だなと思っていました。昨年、写真展を開かれて、そこで展示する写真をSNS上でも見せてくれていたのを見ていました。

何かを暗示しているように感じられるのに、どういうふうにも読みとれる

今回、中原中也の詩集のカバーを考えている時に、中也の詩の世界に近いイメージのビジュアルとして、茜屋さんの写真が思い浮かび、使わせていただくことにしました。
茜屋さんの写真は、写真として美しいのだけれど、商業写真的な、見せ方としてのあざとさがないんですね。おそらく、つるっとした、きれいなだけの写真というは、中也にはあわないと思います。

この写真は、もちろん写真ですから、対象を撮影したものなのに、抽象絵画のような雰囲気があります。中也に通じるような美意識はあるのに、詩の読み方を限定してしまうような、特定のイメージがないんですね。何かを暗示しているように感じられるのに、どういうふうにも読みとれる。そういう写真って、なかなかないと思います。

詩集の表紙は、文字だけというのが多いですね。写真などのビジュアル要素を入れると、どうしてもイメージを限定してしまいますし、風景的な写真を使うと、安っぽい広告のようになってしまいがちです。イメージを限定しない、むしろ拡げてくれるような写真に出会えたことは幸運だったと思います。

本は判型の制約があるので、トリミングする必要があるのですが、今回は写真全体の空気を使いたいと思ったので、裏面にかけてトリミングしないで使っています。また、できるだけカバーの写真を邪魔しないように、帯も異例というくらいに細くしています。最近は、太い帯に煽るようなコピーを入れた本が多いですが、昭和の頃にはこれくらい細い帯も多かったですよね。

鎌倉という縁

この写真は鎌倉で撮影されています。茜屋さんに、「中也って鎌倉で亡くなったんですよね」と言われて、ああそういえば、と思いました。知識としては知っていたのに、いわれるまで、むすびついてはいなかったんですね。特に意識したわけではないのですが、何か縁を感じてしまいました。

ぼくは茜屋さんの写真のファンです。鎌倉を撮影した、いい写真がたくさんあるので、ぜひ見てみてください。

flickr — Kamakura Photos

つづく

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佐藤好彦 Yoshihiko Sato

デザインしたり、文章書いたり、大学で教えたり、楽器を弾いたり、そんな感じ。著書 『デザインの教室』『デザインの授業』『フラットデザインの基本ルール』など。最新刊は『ビジネス教養としてのデザイン』