ジョージ・クラム 「マクロコスモス第1巻〜第3巻」

清水美子(ピアノ)ルパート・ストルーパー(打楽器)柴田晶子(口笛) 清水なつみ(スライドホイッスル、リコーダー、口笛)

長木誠司氏によるレビュー (レコード芸術 2019年12月号)

この作品に惚れ込んでクラムの門を叩いた清水だけあって、入魂の演奏だ。この世のものならぬおどろおどろしさを体現しているような作品で、心落ち着かせて聴けるようなものではないが、悪魔か神か悪戯好きの精霊かが跳梁跋扈するような、それともピアノという楽器を世のしがらみから解放するような手練手管を用いた、いくつもの試練からなる長大な作品を息つく暇なく聴かせる。ピアニスト2名が必要な《III》「では多重録音が駆使され、それも清水ひとりの個性に聴き手の耳を集中させる効果を持っている(打楽器もひとり二役)。冒頭から異様な世界で、どろりとうごめくような音響から、やんちゃに飛び跳ねる高声部での装飾、内部奏法の寒々とした金属音、唸りのような荒い声、光明が差すような音楽をどこかはぐらかすような口笛、突然現れる、意図の明確でない引用等々が、時間感覚を麻痺させながら間断なく続く。十二宮のタイトルがついた《I》でも、7曲の「エオリアン・ハープ」のような具体的なイメージと結びつくものがあるものの、基本的にはクラムの心象の中で音として抽象化されたイメージが増殖していくプロセスが聴きもので、アイデアの豊富さを楽しみながら、どこか心を鬱にして聴き進もう。《III》の2曲目のスライド・ホイッスルなどでは助演が加わっているが、セッションは結構和気藹々としていたのではないかと思う。コワイ音楽を楽しくやる。これぞクラムの醍醐味かも。