メンタル不調で激務系メディア企業を辞めて10年以上経つ

東大卒の電通の女の子が過労自殺した事件で、自分の20代の頃を思い出した。新卒で入った大手出版社、給料はとてもよかったのだが、研修が終わった6月くらいから残業は月100時間を超えた。セクハラ・パワハラもあった(当時パワハラという言葉はなかったけど、あとから思うとそうだったと思う)。

そのころ、まだSNSはなかったが、ブログ(当時はweb日記と呼ばれていた)に日常のことを書いて、友人とコメント欄で楽しくやり取りしていた。本名や会社名は出していなかったし、仕事のことはメインではなく、たまに書いていた程度だが、仕事で疲れたとか電話取りが辛いとかぼやいていたら、上司に呼び出されて個人サイトを消すように言われた。その夜、帰宅してから泣きながらFTPソフトを立ち上げて全部削除したのは忘れられない。

でも、大手メディア企業、商社、官僚、経営コンサルなど、給料はよくて激務だけどやりがいがあるとみなされている仕事は、労働時間、理不尽さ、みんなそんなものだ。世の中にはそういう仕事をこなせる人とこなせない人がいる。偏差値の高い大学を出て、その手の企業に就職するようなタイプの人は、まわりを見るとみんな激務をこなしているので、それがあたりまえに思えるだろう。でもそうではない。激務をこなせない人はもう辞めていて視界に入らないだけだ。

私も激務をこなせない方の人だった。精神状態が悪化し、新卒で入った会社を3年もたずに辞めた。その後2社に勤めたが、そのどちらでも長く働くことはできず、結婚を機に仕事をやめた。労働するとお金がもらえる以上に心身が削られるという感覚があり、その後仕事はしていない。もちろん、生活がかかっていればそんなことは言っていられないわけで、夫に扶養されているからそう言えるわけだが。

専業主婦ですといえば、働かなくても名目が立つと思う人もいるのかもしれない。でも私はそう思えなかった。子供の頃から「自立した女性」的なものに憧れていた。結婚や子供を持つことはどちらでもいいが、仕事はきちんとやって成功したいと思っていた。

結婚して、最初は寝込んでろくに家事もできない状態からはじまり、何年もかけて精神状態が少しずつ快方に向かってきた。子供を持ちたいと思うようになり、夫と医師に相談した。当時、心療内科に通い、精神科系の薬を複数飲んでいたが、この手の薬は妊婦が飲んではいけないとされているものが多い。徐々に精神科系の薬を減らしつつ妊婦が飲んでもいい薬に置きかえ、はじめて妊娠検査薬で陽性がでたときには、すでに少量になっていた薬はすべてやめた。そのときの妊娠で上の息子を3年前に、そして今年2人目となる娘を出産した。

育児というのは会社員以上の24時間即時対応ではあるが、これは夫や両親、義両親など周りの人たちの助けもあって精神状態が悪化することなく、しんどいこともあるけど楽しいことも多いな、と、今のところやりがいを感じてやれている。私にもできる「仕事」があってよかった、けっこうな高齢出産ではあるが、なんとか間にあったというのが実感である。

新卒で勤めた会社を辞めて10年以上経って思うことは、「あの会社は、もっと早く辞めておけばよかった」である。精神状態が悪化するほどの負荷の高い長時間労働は、自分を強くするのではなく、むしろ弱くしたと思う。その後に働いた2社では、ちょっとストレスになる出来事があったときに、最初の会社で働いていた時の苦しい感覚が戻ってくるような感じがあり、精神状態が悪化して、長く働くことはできなかった。たとえるなら、いったん大量のアレルギー物質に触れてアレルギー体質になってしまったら、その後は少ないアレルギー物質でも発作が出てしまう、みたいな感じだろうか。

私はもう、ブランクが長いし、これといったスキルもないので、労働者としてはなんの価値もないが、でも生きていてよかった。亡くなった彼女も、大手企業でキャリアを積みたい、まだいける、なんとか復活できるのでは、という気持ちでギリギリになり、ほんのちょっとの気持ちの動きで死を選んでしまったのかもしれない。そういうときに死を選んでしまうか、退職届を選べるかは運みたいなものだろうと思う。

人間の精神は、目には見えないが、けっこう脆い。まわりにいる他人はみなできていることも、自分にもできるとは限らない。それまで積み上げてきた学歴とかキャリアがどんなに惜しくとも、それらすべてをぶん投げて生きる、という選択が必要なこともある。彼女もそれを選ぶことができていたら、と思う。生きてさえいれば、仕事とか他人の評価とかとまったく関係のないところで、幸せを感じる瞬間は必ずある。

子供を持つようになって、こういう問題を親の立場から考えるようになった。親御さんは本当にやりきれないだろう。

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