ヴァーチァルリアリティ(VR)に於ける時間経過の認識誤差について

Yuki Hirayama
Jul 14, 2016 · 5 min read

ヴァーチァルリアリティ(以下VR)における時間経過の感覚は、リアルにおけるそれとは異なる、のである。VR環境内では時間経過に対する認識誤差が存在するのだ。

その事実はエンターテイメント、ビジネス関係であるにしろVR体験では普遍的なものである。具体的な数値を用いると、本人がVRに費やしたと予想した合計時間と、実際に費やされた合計時間との誤差は平均して2割程だと確認されている。極端な例になると、本人はVRゲームに3時間程過ごしたと思っていたのが、なんと実際は12時間ぶっ通しでプレーし続けていた、という記録すらあるのだ。コーヒーブレイクは然ることながら、食事をすることも、トイレに行くことすらも無しに、である。

まず、私達はどのようにして時間経過を掴み取る手がかりを得ているのか?

明らかな道具である時計以外に、私達は様々な外部要素から時間経過のヒントを掴み取っている。例えば、モノの移動が挙げられる。

太陽はそのうちの一つである。私達はこれまでの経験に基づいて、太陽がどのくらい移動するかにより大体どの位時間が過ぎたか感知しているのだ。なので、VR環境内で太陽の位置が全く変わらないと、時間経過に対する認識誤差が生まれる訳だ。

太陽の様に1日/24時間単位で移動しないモノの移動例を挙げよう。例えば、バスケットボールがバウンドする速度が現実のそれと極端にズレていると、ここでも時間経過に対する認識誤差が生まれる。

次に自分の移動による例を挙げてみよう。VRの中で10メートル程と見られる廊下が目の前にあるとしよう。日本人の平均歩行速度では約9秒かかる計算になるが、3秒もたたないうちに廊下を歩き終えたとしよう。この段階でも私たちの時間経過に対する認識誤差が生まれる。

時間経過に対する認識誤差を引き起こすその他の原因としては、新しい環境にいる時、新しい事を経験している時、畏敬の念を起こさせるものを体験した時、心理学者のミハイ・チクセントミハイの提唱したフローを経験している時 (因みにゲーム中にフローを経験する人は多い)、などが関係している。新しい環境に慣れる為には、脳が普段よりも多く稼働せねばならない。脳にかかる負担が大きければ大きいほど、誤差を起こす、ということらしい。それに加え、新しい環境では必然と時間経過の手がかりとなるものが少ない可能性が高いからである。例えば、普段通りの仕事をしている時は時計を見なくとも、自分、同僚の仕事の流れから、または郵便物が届く時間帯などの外部要因を知らず知らずと時間経過の手がかりとして使っている。それと比べ新しい環境で新しい仕事をしている時、それらの手がかかりが減る為、時間経過への感覚誤差が生まれる。畏敬の念を起こさせるものを体験している時、そしてフローを体験しているときにも、私達の脳の稼働、負担は普段のそれとは大きく異なり、それ故に時間経過の手がかりとなる外部要因に気づく可能性も減るので時間経過に対する認識誤差が引き起こされるようである。

90年代のVRブーム時と比較すると、テクノロジーの進化によりハードウェアにおいてはスマートフォンの普及、サムソンのGear VRやグーグルのカードボードのようなヘッドマウンテッドディスプレイ(以下HMD)によりVRを体験できる敷居が低くなったのは有難い限りである。加え、VRへの活発な投資が近年行われ、 (少なくともアメリカでは) 優秀なエンジニアが大手ゲーム会社を辞めて、VRへ流出しているという事実もある。まずは、ビジネスに於けるVRの活用が大きくなるだろうと言われているが、ゲーム以外でVRの可能性をフルに生かすことにより一般消費者の生活、そして世界を変えるには、前述したHMDのワンランク上、Sony Playstation VR (執筆時点では未発売) , Oculus, HTC Viveクラスの更なる低価格化も去ることながら、高品質かつ魅力のある幅広いコンテンツの充実が必須である。自然と一般消費者の生活の一部になり得るようなコンテンツを開発するには、技術者のみならず更なる認識科学の応用、またはVRに特化した認識科学の研究、認識科学に理解のあるデザイナー、認識科学者とのコラボ等が必要であり、彼らを輩出しそして受け入れる環境が必要である。

時間経過の認識誤差はVR環境内特有の現象の一つであり、VRデザイナーはそれを考慮してコンテンツをデザインする必要がある。リアル性を求めるならそれなりの、又はこれを逆手に取るならそれなりの。

例えば、VR使用時間を短く感じるように認識誤差を更に広げ、これをリハビリと併用することによりユーザーの苦痛を軽減する事が出来るだろう。その逆、VR使用時間を長く感じるように認識誤差を広げてみて、時間に追われる忙しいユーザーが短時間で効果があり満足のできる、リラクゼーションや瞑想などのコンテンツを提供する、というサービスも人気が出るかもしれない。

私達にとって最も貴重なものの一つである時間をVRでしか出来ない表現を通じて、操作、体験することにより私達の生活、思考、可能性にも変化が現れるかもしれない。私達の未知の可能性は更なるVRに於ける認知科学の研究と応用に比例するといっても過言ではないのかもしれない。

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