STOインタビュー その1
角永 圭司郎さん(サービスグラント)

Yuko Mitsumoto
Sep 29 · 15 min read
――STOの話を聞いた時、自分に重なると感じましたか?うち(サービスグラント)の事務局長に「そうなんじゃない?」と言われました。
スキルを使って社会の役に立ちたいという思いがあり、プロボノなどのボランティアベースだけではなく、仕事として取り組んでみたいと考え、今の関わり方になっています。
――角永さんは最初からエンジニアとしてキャリアをスタートしたんですか?そうですね。SIerと事業会社で18年、システムエンジニアとプロジェクトマネージャーをやっていました。主にウェブアプリケーションのシステム開発・運用を担当していました。
大きいシステムだと数千人から数万人の規模でした。そのほか中小企業やスタートアップ企業のシステムも担当していました。
――そこから今の仕事に転職をしたのはどういった経緯があったのですか?4年前(2015年3月)に会社を辞めて、半年くらい何もしない時期に、改めてやりたいことを考えて、元々システムエンジニアになったのは、スキルを持って社会の役に立ちたかったからだ、と気づきました。その思いを実現するために模索していた時に、今関わっているサービスグラントというNPOに出会いました。
――企業の仕事をしていく中で、ソーシャルセクターの存在というのは気になってきますか?企業にいた時は、まったく知らなかったです。企業にいるとソーシャルセクターとの接点が基本的には無いと思います。サービスグラントを通じてはじめて知りました。
――現在はどのような働き方をしているのですか?週4日は、サービスグラントの事務局スタッフとして、週3日は、個人事業主として、他のNPOのIT支援をしています。休みが無いですね(笑)
サービスグラント以外の他のNPOは、サービスグラントの過去の支援先のつながりによるものが多いですね。
仕事としては、細かいレベルだと、ホームページのHTML修正から。一方で、基幹業務のシステムを今後どうしていくのか、といったコンサルティングのような関わりもあります。
――サービスグラントに入ったのはソーシャルな世界への関心からですか?繰り返しになりますが、スキルを使って社会の役に立つ、という思いがあり、サービスグラントが手掛けているプロボノで、それを実現できるのではないかと考え、プロボノワーカーとして半年ほど関わり、その後、事務局スタッフとして関わるようになりました。
――プロボノワーカーは収入があるのですか?収入のないボランティアです。収入がない1年間は貯金などで生活をしていました。
――サービスグラントの事業について説明してもらってもいいですか?プロボノというスキルを活かしたボランティア活動をしたいプロボノワーカーと、組織運営に課題を抱え支援を必要としているNPOなどの非営利団体を結びつける役割をしています。NPOを支援するNPO、中間支援の立ち位置です。
プロボノワーカーは、週5日フルタイムで働いている人が多いですね。
ITスキルを持った方は、全体としてはそれほど多くなく、大半は、企業などでゼネラリスト的な役割を担っている方が多いです。
プロボノの支援を必要としている非営利団体は、NPOをはじめ、一般社団法人や公益社団法人など様々です。非営利団体から「必要と思っていることになかなか手が回らない」などの理由で応募があります。
――プロボノに応募してくるのは、専門的なスキルを持った人たちですか?専門的なスキルといっても色々とあり、例えばデザイナーやコピーライター、コーダーといった「テクニカルスキル」だけでなく、「ポータブルスキル」と呼ばれる、資料作成や論理的な思考でもスキルとして役立てることができるのが、サービスグラントのプロボノの大きな特徴です。
――今までに関わってきたNPOの規模はどれくらいですか?職員が約15名のサービスグラントが一番大きいくらいで、他はすべて、それよりも小さな団体でした。
企業では、業務システムがはじめから整っていることが多いと思いますが、非営利団体では、エクセルや紙などを使ってやっているなど、IT基盤が整っていないこともあります。
――そういった団体におけるIT活用の必要性は、どの辺りにあるのでしょうか?非営利団体にとってのIT活用は、特に情報発信の観点で、とても重要だと思っています。
非営利団体が、その活動で対象とする受益者は、希少であることがほとんどです。例えば、児童虐待やDVの被害者は、人口全体で考えると、数自体はとても少ないです。
そうした場合、近所でチラシを配るなどでは必要な人に届かない可能性が高いため、できるだけ多くの受益者に届くように、ホームページで周知するなど、IT活用が必要になります。
また、受益者の重要な個人情報を扱うこともあり、安心できる団体と思ってもらい、信頼感を持って関わってもらうためには、ホームページが整備され、定期的に更新されている、といったことも必要だと思っています。
ただ、ホームページやシステムの更新などを業者さんにお願いする際に、非営利団体は、ITに関する体制が不充分といった理由から、うまく活用できていない、といった問題があるようには感じています。
――ソーシャルセクターが業者との継続的な関係を作るのは難しいのでしょうか?自分が見聞きしている限りでは、業者さんは、あくまでビジネスなので、非営利団体側に立った関わりにはならない場合がほとんどだと思っています。
企業であればIT専門の部署があると思いますが、非営利団体では体制が不充分で、結果「丸投げ」するしかなく、思ったように出来上がらない、といったことが発生するなど、うまく関係を築けていないことも多いのではないかと考えています。
――同じ規模の一般企業とソーシャルセクターの違いはどこにあるのでしょうか?
私自身が一般企業を離れたのには、1つのきっかけがありました。とある事業のシステムを担当している時に、その事業会社が突然倒産してしまいました。その会社は、対象事業において50%以上の大きなシェアを占めていたので、その事業の先行きを心配していたのですが、その後、その事業自体が立ち行かなくなったという話は聞きませんでした。そのときに、あくまで私見ですが、お金になる事業は誰かがやってくれる、一企業のために働き続けることが本当に社会の役に立っているのか、という疑問を感じてしまいました。
NPOは、往々にして思い優先で、お金にならなくて成り立つかどうかわからないけど、社会のためにやっている。それを応援したいという気持ちがあります。
――ソーシャルセクターの現状はSTOで改善されるのでしょうか?業者さんはビジネスとしてやっているので、作業に対していくら支払うという事に徹しています。本当にそれが必要か、それが最適かどうかの判断は、IT人材が企業よりも手薄なソーシャルセクターでは難しいと思います。
そして、今の社会の仕組みでは、その役割を担う人がいません。業者ではなくNPO側に立って物事を考える人が必要であり、STOはそのような存在になると思っています。
――規模が小さくて専従のスタッフを置けないようなNPOとは、どのような付き合いをしているのでしょう?月1、2回打ち合わせをしてから、個人で作業をしています。3~4件くらいの案件が同時進行していますが、なんとか回っていると思っています。
有償・無償、両方の関わりがあります。無償で関わる場合は、ITツールに関する情報提供などです。そうした成果物を基に、その後、団体のほうで自走できているので、それだけでも十分な価値があると思って対応しています。
ただ、業者さんの作業を食ってしまうのは違うと思っていますので、「ここからは無償ではないな」というところからは、対価を頂くようにしています。
ホームページを新規構築するなど、専従で多大な工数を要するような作業は、業者さんを紹介して、あいだに入る場合もあります。
――どのような作業が多いですか?WordPressの運用で、HTML(JavaScript/CSS)・PHPの改修などが多いです。
ただ、そこだけを作業するというよりは、運用改善やリニューアルの提案など、中を見つつ全体を考える、全体を考えるために実際に中を見ている、というようにしています。
業者さんとも直接やり取りをしていて、文言変更が数ヶ所だけで5万円以上かかるなど、作業内容によっては納得感が低いこともあるので、その場合は、自分が対応する、など、あいだに入って対応しています。
日本NPOセンターとは、これからのシステムをどうやっていくかなどを、今は月に1,2回、毎回2時間くらい話したりしています。
――NPOなどとのやり取りで重要なのは、どういうところですか?最終受益者をどれだけ意識しているか、ですね。
届けたい人がいるNPOは企業とは違って人を選びます。例えば、貧困家庭の子供を救いたいのに、サービスを利用するのは富裕層の子供、では、ダメなんです。
届けたい人たちが、今どんな状況で、どのようになりたいのか、を考えます。
そのためにはミッションの理解が大切であり、そこが作業するだけの業者さんとの大きな違いだと思っています。
それには、とにかく話すというのが一番有効な手段ではないでしょうか。実際に現場や事務所にお伺いして、見学させてもらうこともあります。
――将来に向けては、NPO側でビジョンを描いているのですか?NPOによっては、普段はビジョンをあまり意識しておらず、ただただ困っている、ということが、前面に出てくることもあります。
そのような時には私から提案もします。自分自身が、あまり作業者然としていたくなくて、NPOと関わるからには、社会課題の解決につながるような関わりをしたいと考えています。
――現場の人に理解され辛いなどのジレンマはありますか?STOの大切な部分でもありますが、団体よりも「ソーシャルファースト」でいきたいと思っています。
団体の職員は、目の前のことで精一杯になり、最終受益者が普段は意識できなくなっていることもあると思います。
ですから、団体が本当に実現したいことは何か、を「青臭く」持って関わることを大切にしています。
STOが団体以上に「その団体が解決したい社会課題は何か」を基に接する、外にいるからこそ、見えること、できることがあると思っています。
――「ソーシャルファースト」を言い換えるしたら「受益者ファースト」ですか?そうですね。「ミッションファースト」とも言えるかもしれませんね。
企業にもビジョンやミッションはあるけど、増収や増益のほうが大事です。
でも、NPOが増収や増益で終わっても、だから何?ってなります。
NPOにとっては、どんな社会的価値を出せたのか、が大切で、そこが欠けてしまうと、NPOではなくなってしまう、と思っています。
――これからSTOになるとしたら、そこに求められる資質やスキルはどのようなものでしょう?専門職は、どの世界でもそうだと思いますが、高いモラルが必要だと思います。
企業では上長の承認などチェック機能が働く仕組みがありますが、STOは1人で判断することも多くなります。しかもITに詳しくない団体の方々は、「あの人が言うなら…」といって、STOの判断に任せきりになりがちです。
しかしそこに甘えず、団体の方々が本当に理解できるように説明することが大切だと思っています。
もう1つは、高い技術力があるに越したことはないですが、そこには必ず限界があります。なので、自分がどこまでなら自信を持ってできるか、を客観的に判断する力が必要かと思っています。
――NPOではエンジニアは一括りにネットワーク、サーバ、プログラミングなど、コンピュータに関することは何でもできる人と見られがちですよね?「担当ではないかもしれないけど…」と前置きされつつも、コンピュータに関すること全般について、聞かれることは多いです。
自分のスキルとは違う部分は、他の人にお願いすることも必要だと思っています。繰り返しになりますが、話が通り過ぎることに甘えずに、どこまでだったら自分が自信を持ってできるか、客観的に評価することが大切だと思います。
――外の人とのネットワークなどは普段から作っていますか?正直、あまり外部にネットワークがなく、そこは課題かもしれません。
しかし、本当に信頼できる人と繋がるのには、相手がどのような経験、技術を持っているのかを把握する必要があるので、ネットワークづくりは難しいなと感じています。
――STOはこれから社会的にどんな意義を持つ、どんなポジションに行くべきと考えていますか?まず、絶対に必要な存在だとは思っています。
おそらく、ソーシャルセクターは、今よりも確実に広がっていくでしょう。
ただ、今は、圧倒的に人材が不足しています。そうした成長の過渡期にある中で、団体側に立って物事を考えるSTOというポジションは、より一層、必要性が増すだろうと思っています。
――相対的にソーシャルセクターの役割が増していった時、リソース不足はプロボノなどで補うことになるのでしょうか?ソーシャルセクター全体の問題なのかもしれませんが、ニワトリが先かタマゴが先かのような話だと思っています。ソーシャルセクターが企業と同等の報酬を支払える、安定的だと思ってもらえたら、人材不足は解消されるような気がしますが、そのためには、企業から優秀な人に入って来てもらわないと、ソーシャルセクターが発展することが難しいのではないか、というようなジレンマを、自分は持っています。
なんとか、現在のソーシャルセクターの状況の中でもがんばれる、ファーストペンギンになれるような人に増えて欲しいなと思っています。
――今の状況の中で、優秀な人が入ってくると変わってきますか?たとえば、企業で10年くらい活躍した人がソーシャルセクターに来ると、素晴らしい動きをしてくれます。
サービスグラントでも、そのような方が活躍しています。私自身は、フルタイムでの関わりではないので、そういった方が入ってくれるのは、とてもありがたいです。
――角永さん自身が支援する中で、手応えがあったこと、感動したことなどはありましたか?NICE(日本国際ワークキャンプセンター)の事例だと、過去にシステムを2回作ろうとして2回とも失敗し頓挫していたのですが、自分が関わった3回目は無事リリースでき、そこから軌道に乗り、参加者を増えたと聞き、よかったと思っています。また、ソーシャルセクターの人と関わると、自分が新たに教えてもらえるものがすごく多いです。たとえば、難聴の方を支援する団体と関わる中で、補聴器に関する技術を知ることができました。普通にIT技術者をしていると、関わる事のない世界を知ることができるのも、自分が関わる上での一つの楽しみになっています。
――NPOの現場に行く事が怖いとか、遠く感じるエンジニアの人もいると思いますが、その辺りはどうでしょう?そうした思いを持つことはありそうですね。エンジニアは、エンジニア同士で話すことのほうが多いと思うので、現場の人と話すと、エンジニアの事情を知らずに色々言ってくる、まして、NPOの人はよりエンジニアの事情を知らないので、相手が何を言ってくるか分からない、それが怖い、と感じることはあるかも知れません。
しかし、エンジニア同士の話は楽だけど、ともすると、自分でなくても成立する、替えの利くやり取りのように感じることが、自分にはありました。それに対して、NPOの現場との壁を乗り越えて、やり取りした先に、社会課題を解決できるかもしれない、一般企業とのやり取りとは異なる意味も感じられるのではないかとも思っています。
――STOになるには、ボランティアやインターンから入っていくのがよいのでしょうか?現場に行ってみて、まずは話を聞いて実情を聞いてみるのがいいのでは、と考えています。
最初のステップとして、STO事務局がうまくマッチングするような、中間支援的な働きをするのがよいと思っています。いきなりNPOに行くと、NPO側もどう関わってもらったよいか分からず、頼られ過ぎたり、うまくスキルが活かせなかったり、といったことが起こりやすいかもしれません。
――STOとNPOとのマッチングで重要なポイントは何でしょう?まず、STO側は、NPOのミッションやビジョンに共感できるかどうか、でしょうか。NPOにとって、ミッションやビジョンは第一義的な存在理由であることは、前述の通りです。一方、NPO側は、STOを目指す人は、お金じゃないものを求めてきているでしょうから、「それなら企業に行くよ」とならないように、あえてソーシャルセクターを選ぶメリットをどう出していくか、それはやはり、ミッションやビジョンに従って、日々活動を行おうとしているかどうかかと思っています。
――最後に、これからSTOになりたいと思っている人へのメッセージをお願いします自分自身、一般企業に勤務してた時代は、ソーシャルセクターのことは全く知りませんでした。まずはSTO事務局の方達と一緒に関わって、NPOのこと、社会課題のことを知ってみるというのがよいのではないでしょうか。
「コンピュータのことで何か困っていませんか?」と聞いてみるだけでも、きっと得られるものがあるはずです。まずは、そこから始めてみるのがよいのではないでしょうか。
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