読書メモ:司馬遼太郎対談集「日本人を考える」 :文春文庫 この本のなかでは、様々なスペシャリストと対談していくなかで日本人とはどういう人たちなのかを浮かび上がらせている。この対談が行われたのがだいたい昭和44〜46年。戦争に対しての価値観、原子力発電に関しての懸念、無階級無思想社会になってきたこと、薄れゆく方言に文明、文化。その間、日本では進んだ事柄もむしろ後退した事柄もあるが、何より曖昧な気持ちになったのは、語られている内容の大半が今も特に変わってないあたりか。 基本的に面白かったんだけれど、例えば精神医学と臨床の研究者、辻悟さんとの対談では当時の「若者」についての考察をしている。 歴史を振り返ってみると、例えば、空海や本居宣長や坂本龍馬には生きる目標があったということになるが、これはきわめて例外的であって、大多数の人間はごく簡単な生活手段をかち取るだけの努力、非常に小さな努力で社会の中に入っていけた。それだけが生きる目標で、それ以上のことは望まなかった。生きる目標なんていう高邁なものはいつの時代の人々もそれを考えずに生きていた。食うことだけが、生きる目標だったんですから。ところが、いまは職を身につけなくとも食える。どう転んでも食えるという時代は、日本史上、最初です。食うことを外すと、ひどく人生が抽象的な光景になると思うのですが、今の若い人は、そういう光景の中に放り出されている。そして個々に生きる生甲斐のようなものを見つけてゆかねばならない。大変だろうと思いますよ。(司馬遼太郎)

『日本人を考える』
『日本人を考える』
『ばあちゃんの幸せレシピ』出版イベントとタイのテレビ出演
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