イギリスで働く

とあるソフトウェアエンジニアの限定的な体験に基づくイギリス観

Yusei Nishiyama
Jan 29, 2018 · 10 min read

日本からイギリスのオフィスへ出向になり早一年が経った。

日本人エンジニアが海外で働くことも珍しくなくなってきた今日、海外生活について綴ったブログ記事をよく見かけるが、だいたいほとんどがUS、それもシリコンバレーの話。せっかくイギリスにいるんだしイギリスの話も書いてみるか、と思いキーを叩いている。

なぜ移住したかというと、御託はいくらでも並べられるが、一言で言うと退屈だった。20代後半が退屈だったら、あと3–40年何をするんだと。とりあえず、一旦無力になれば見えるものもあるかもしれない。コンフォートゾーンとかミドルライフクライシスがどうとか、さしずめそういう話だと思う。

自分はBristolという南西部の都市に住んでいる。人口で言うと、イギリスで10番以内には入るかな、というくらい。これがLondonやManchesterのような大都市だと話は変わってくると思うので、「こういうのもあるよ」くらいの感じで聞いてほしい。

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Bristolの町並み

仕事

1年前、会社のUKオフィスの立ち上げとほぼ同時に移ってきた。当時は仮のオフィスに5人くらいしかいなかったが、気づけば大きなオフィスに移転し、社員も3–40人くらいになった。日本人はそのうち2–3割くらい。これは、あくまでUKオフィスのだけの話で、チーム全体では200人以上の人が関わっていると思う。

自分はiOSエンジニアなので、iOS開発の話をする。チームには10名のiOSエンジニアがいて、イギリス人5、日本人2、アメリカ人1、ポーランド人1、コロンビア人1という構成だ。自分は、モバイルの下回りをやっていて、最近はCIやコード分割(Modularization)に注力している。具体的な話は、以下4つカンファレンスで発表したので、ここではしない。気になる人は、Realmの記事を参照してみてほしい。

  • CodeMobile (Chester, UK)
  • iOSDevUK (Aberystwyth, UK)
  • FrenchKit (Paris, France)
  • Mobilization (Łódź, Poland)

ヨーロッパのカンファレンスへの応募や登壇に関しては別途記事を書いてみたいと思っている。

余談だが、執筆した『Swift実践入門』の改訂版がつい最近出たので、買ってください。お願いします。


「紳士の国」というと、なんとなく安っぽいステレオタイプのように感じるが、実際親切な人は多い。率先してドアを開けたり、進入してくる車を先に入れてあげたりといったことは、彼らにとって基本的なことのようで、nice guyであろうとする意識が非常に高い。

同僚のイギリス人が日本を訪れた際に、エレベータで中の人が閉じるボタンを連打しているのを見てショックを受けたそうだ。確かにこれはイギリスではありえなさそうなことだ。「(日本人の)仕事上のコミュニケーションの丁寧さには目をみはるものがあるけど、日常的には不親切な人も多いよね」と言われて、ギクッとした。

Stingの名曲”Englishman in New York”に次のような歌詞がある。

Modesty, propriety can lead to notoriety
You could end up as the only one
Gentleness, sobriety are rare in this society
At night a candle’s brighter than the sun

String — Englishman in New York

彼がなぜ嘆いているのか、以前よりもよく分かるような気がする。

また、遠回しな表現を好む傾向があり、この点は日本人の感覚に近い。これはつまり、普段我々が日本語でやっているように、真意を汲み取る必要があるということに他ならない。quite goodはbad、interestingはnonsense、braveはinsaneと読み替えても大差がない。

ただ、「日本人に近い」と書いたが、それでも日本人より良く喋るし、はるかにフレンドリーだと思う。ちょっとシニカルな感じもありつつ、前向きな人が多いので、そのバランス感覚は見習いたいものがある。


言語

日本人が移り住むにあたって一番気になるところは、実際どれくらいのレベルの英語力が必要なのか、ということではないだろうか。個人的には、「かなりできないと厳しい」という印象。

自分の英語力はというと、移住する以前(2年前)の時点でTOEICは900点台、昨年特に何も対策もせずに受けたIELTSは7.0だった。帰国子女等でない普通の日本人としては、まあまあできるといっても怒られないレベルだと思う。ただ、これくらいではネイティブと対等に会話するには明らかに足りない。

まず、イギリス英語とアメリカ英語が思っている以上に違う。例えば、身近な単語だと、

  • loo … トイレ
  • bin … ゴミ箱
  • jumper … セーター
  • quid … ポンド
  • flat … アパート

などが思い浮かんだが、こういうのが無数にある。もちろん、単語だけではなく表現も違う。例えば、Let’s table Aと言うと、アメリカ英語では「Aは一旦横においておきましょう」というニュアンスだが、イギリス英語だと「Aについて議論しましょう」という真逆の意味になる。感嘆詞も聞いたことがないものが頻出する。BlimeyとかWicked!とか言われて、どんな気持ちか察することができますか?

あとは発音。地域による差が大きいので、特定の人だけ何をいってるか全くわからないということがしばしば。そもそも、全体的にモゴモゴ喋る人が多いので、慣れるまでは何度も聞き返すしかない(ちなみに聞き返す際は、学校教育で馴染みの深いPardon?はほとんど耳にすることがなく、Come again、Say that againなどがよく使われている。)

特にエンジニアは、アメリカ英語に触れる機会が圧倒的に多いと思うが、もしイギリスで働くとなったら、意識的にイギリス英語のコンテンツに触れたほうが良いだろう。

「英語が喋れなくてもコードで語れば良い」などというのは幻想だと思っている。チームで働く以上、何かをするには周りを説得しないといけないし、円滑に物事をすすめるには信頼関係の構築も必要だ。どう伝えるかは、何を伝えるかと同じくらい大事だろう。


生活

先述の通り、Bristolは決して大都市というわけではないが、といっても田舎というわけではない。必要なものはちゃんと揃うがリラックスした雰囲気もある、非常にバランスのいい都市だと思う。街がライフスタイルを制限しない、と言い換えても良い。Best place to live in UKに選ばれたらしいが、実際に住んでみて良いところだと感じる。

移住する前は恵比寿に住んでいたが、体感として生活費は同じかすこし高いくらい。試しに、1 bedroomのアパートをRightmoveで検索してみたところ、£800(12–3万)くらいが相場。ただし、東京都心よりは広い家に住めるし、駐車場が付いているものも多い。外食は明らかに高くて、昼食でもレストランだと£10(1500円)くらいはとられる。

公共交通機関がいまいちなのもあって、恵比寿では持てなかった車を買った。日本の運転免許はイギリスの運転免許に切り替えることができ、また、居住開始から12ヶ月は日本の運転免許証が使用できるので、車を買ったらすぐ乗れる。注意点としては、イギリスでは納車時に自動車保険に加入していることが原則となっていて、納車までに保険番号が必要なことくらいか。

天気の悪さはよくジョークになるが、これは本当に悪い。全然晴れないので「週末晴れたらどっかいくか」とか言ってると、家から出ることができない。イギリス人に言わせると「レインコートを買い、天気次第で予定を変えない」というのが原則らしい。ただし、夏場にクーラーがいらず(そもそもついていない)、冬場は暖流と偏西風の影響で日本より暖かいくらいで、慣れてしまえば過ごしやすい。

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7月の天気。珍しいことではない。

文化

もし、USでなく、あえてUKを選ぶ理由があるとすれば、これかもしれない。とにかく歴史のあるものに容易にアクセスできる。最初に内覧に行った家は18世紀に建造されたものだったし、今にも倒壊しそうな17世紀の建物にパブが入っている。そういえば、自分のアパートの目の前にある教会は12世紀のものだ。

National Trustという歴史的建造物を保護するボランティア団体があり、その会員になると、毎月£5程度で全国500箇所以上の歴史的建造物や景勝地に自由にアクセスできるようになる。1年くらいだと、気持ちはまだ観光客みたいなもので、毎週末車を飛ばしてこうした施設に赴いている。

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豪邸とそのゴルフ場のような庭

あと、個人的な関心ではあるがコメディが面白い。ソフトウェア開発者には馴染みの深いMonty Pythonをはじめとして、かなりクオリティの高い作品がたくさんある。メジャーなものは大概、UKのNetflixやChannel 4のサイトでアクセスできる。

次の動画は” That Mitchell & Webb Look”のスケッチの1つ。brain surgeryとrocket scienceには、どちらも「非常に難しいこと」といった異義があるが、それをもとにしたネタだ。

it’s not exactly brain surgery, is it?

British Humourとは何かと問われてもうまく答えられないが、「人を苛立たせる、でもなぜか魅力的なキャラクター」を創り出すことに長けているように思う。


英語圏で先進国であることを考えると、イギリスは日本人にとって最も難なく住める国の一つだ。そうは言っても海外生活、なんだかんだで厄介ごとは多い。その国が面白いと思えなければ長続きしないだろう。その点、イギリスは絶え間無く楽しみを提供し続けてくれる国な気がしている。

これ以外にも給料や税金の話など、まだまだ興味深い話はあるものの、まとまった話を書くのにもう少し下調べが必要なのでまたの機会に譲るとする。

それではまた。

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