どうでもいい奇跡

すごいけど、なんの意味もない奇跡の話。


今から約10年前、ぼくはロンドンに留学していました。

音楽ばかりで、勉強なんてまともにしてこなかった学生時代。留学は勢いだけで決めました。

当時は、まったく英語が喋れず入国審査でも無言を貫くしかないレベルです。

しかし若さのおかげか、努力なのか渡英2ヶ月後には英語はぐんぐんと上達し、気がつけば政治について簡単な意見を言えるほどに。日常生活に支障は一切無くなりました。

これだけ喋れるならどこにでも行ける!

自信を持ったぼくは、学校の冬休みを利用して、憧れの『パリ一人旅』を決行することにしました。

列車のチケットや、ホテルの予約なんて英語が出来ればヨユーヨユー。フランス語は「ぼんじゅーる、めるしー」の2つだけをボキャブラリーに入れて、どこを巡るか計画を立てることに。

そうしてやって来た冬休み。

ウォータールー駅からユーロスターに乗り込み2時間(当日朝まで友達と飲んでいてベロンベロンだったので、ユーロスター内の記憶はまったくありませんが)、花の都パリの玄関・北駅に降り立ったぼくに、最初の奇跡が訪れたのです。

まずは一服、と喫煙所へ。

北駅では、喫煙所は隔離されておらずホームの端に灰皿がありました。二日酔いでガンガンする頭を抑えながらタバコに火をつけようとすると、あまりキレイとは言えない、わかりやすい言葉で言えば『ホームレスのおじさん』が、ぼくの服の袖を掴みながらフランス語で何か捲し立ててきます。

「What!?」

驚いて問いかけるも、家なしおじさんはフランス語で喋るのを止めません。おじさんが繰り返す『シガー』的な単語と状況から、どうやら「タバコを1本めぐんでくだせ〜!」的なことをぬかしているようだと判断しました。

最初は、あまりの勢いと臭いにビックリしましたが、意味がわかれば怖くなんてありません。ぼくが(働けよ)と思いながら、最後の1本が入ったタバコの箱ごと、ホームがレス状態のおじさんに差しだそうとした瞬間…

ガッ!!

すごい勢いでノーホームおじさんに腕を捕まれたのです。

驚きのあまり、声も出せずにいるとNOホームスイートホームおじさんはグイグイとぼくの腕を引っ張ります。

されるがままだったぼくも、少し落ち着くとだんだんこの状況にムカついてきました。

「なんやねん!タバコくれてやったのに何さらしとんねんアホが!しばくぞボケェ!!」

と、丁寧に教えてあげようした瞬間です。

…ふと気づくと周囲のざわめきが消え、辺りに静寂が訪れました。

おじさんはぼくの手を握り、真っ直ぐな目で、優しく、そして力強く、ぼくに話しかけたのです。すると、理解出来ないはずのフランス語が、スッと頭に入ってきました。

おじさん「ゴミは、ここ。」(ゴミ箱を指さしながら)

ぼくは腕を振りほどいて、無言で立ち去りました。

それぐらい捨てろボケ。

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