どうでもいい奇跡2

続きです。


ノーホームおじさんに無言で別れを告げたぼくは、一人パリの街を歩いていました。

クリスマスシーズンのパリは人通りもそこそこ。快適です。

しかし、美術館や観光名所を巡ること数日。ぼくは会話に飢えていました。

パリを訪れたことのある人はご存じだと思いますが、パリ市民のプライドは異常です。

あいつら絶対に英語を喋りません。

朝食を摂ったカフェの店員さんに英語で

「すみません、ルーヴル美術館に行きたいんですが。」

と問いかければ

「Oh!ルーヴルだね!ペラペラペラペーラ(フランス語)」

です。親切心0です。

「あのー、英語しかわからないんです。」

なんて言おうものなら両手をあげて例の『困ったよポーズ』です。

絶対理解してるくせに。

『困ったよポーズ』を仕返してやりたいけどフランス語を少しでも勉強してこなかったこちらも悪いしなあ…という律儀な日本人のぼくは、お礼を言い地図と格闘しながらなんとか目的地に行くという調子でした。


そんな日が数日続き、まともな会話と言えば唯一英語を喋ってくれるホテルのフロントマンと交わす

「お帰りなさいませ。」
「やあ。」

のみ。

しかも何を考えていたのか2週間先までホテルは予約済み

こんなところでクリスマスを迎えると寂しさで死んでしまいます。

ぼくは焦っていました。


あくる日、いつもと同じ寂しい朝を迎え、いつもと同じ、注文時以外は意思疎通の出来ないカフェでの朝食を終え、行き方が唯一分かっているルーヴル美術館へと向かいました。

「つまんねえ…」と一人旅の醍醐味を味わいながらルーヴル美術館の周辺を歩いていると、遠くから声が聞こえてきます。

「ヘイ!ユー!ブラザー!こっちへおいでよ!」

懐かしい響きが耳にこだまする。あのいびきのような「ヴー」とか「ア”ー」の音じゃない。聞こえてきた言葉がそのままスペルとして再現出来る。これは夢にまで見た英語じゃないか・・・。

急いで声の主を探し、あたりをキョロキョロと見渡すと大柄な黒人がこちらに手を振っていました。

ぼくは彼の元に駆け寄り、少し照れながら、彼に挨拶をしました。

「ハイ。」


それから彼は、ぼくにいろんなことを話してくれました。

彼も別の土地から来たこと、日本が大好きなこと、絵を学んで将来は画家になりたいこと。

ぼくはしばらく久方ぶりのカンヴァセーションを楽しんでいました。

すると、彼がぼくに提案してきます。

「俺たちはもう友達だ。この出会いのために、君の肖像画を描かせてくれないか?」

ぼくはすっかり興奮して「ワオ、これは最高の出会いだ。寂しい想いをした数日間はこのためにあったんだ!」なんて考えていたので、なんならちょっと食い気味でOKしました。

肖像画を描いている間もぼくたちのカンヴァセーションは止まりません。自分の生い立ちやなぜここにいるのか、どれだけ寂しかったのかを彼に伝えていました。彼は楽しそうにうん、うんと聞いてくれました。

10分ほど経ったころ、彼の筆が止まり、ぼくを見て笑顔でこう言いました。

「出来たよ。」

しかし視線を落とした先にあった絵は、

ぼくと同じ帽子を被ったゴリラでした。完全にゴリラです。ヘッタクソなのにゴリラの特徴だけはしっかりと描かれていることがわかります。

「え〜・・・。」と思いながら、彼に視線を戻すと彼はこう言います。

「60ユーロだね。ポンドか円でもいいよ。」

めっちゃ真顔やし。

当時のレートで約9,000円。え?それを払えと?いや待て、そもそもおれたちは友達になったんじゃないのか?なんで友達に金銭を要求するんだ?パリでは友達をお金で買うのか?あれ、もしかしてそもそも友達じゃない?それよりこれゴリラでしょ?仮にゴリラじゃないとしてry

ていうかこれって…サギ?

いろんなことが頭をグルグルと駆け巡り、下を向いてただただ、呆然としていました。

おそらく時間にして、10秒か20秒程度たったころ、近くから聞こえる声に気づき、ふと、顔を上げると警官らしき男がそばに立っていて、

ぼくの友達は逮捕されていました。

ぼくは無言でその場を立ち去り、ホテルに戻って、帰り支度を始めました。

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