なぜUberは勝ったのか?by Simon Rothman

昨年3月に大学を卒業し、スタートアップをするために11月中旬よりCAVのEIRとしてベイエリアに移ってきて、これをきっかけにブログを始めよう、始めようと思っていたもののなかなか始められず早くも数ヶ月。ようやく第一弾です。

第一弾は、米国のトップティアVCの一つGreylock PartnersのSimon氏のブログ“Why Uber Won” が非常に分かり易く整理され示唆に富む内容だったのでtwitterでご本人にお願いし許可を頂き下記に翻訳させて頂いた。上記のリンクより原文へも飛べるので興味がある方はご参照願いたい。

ここ数年Uberの相次ぐ巨額の資金調達ニュースが話題になったが、なぜ彼らがここまでの資金調達を行ったのか、マーケットプレイスの根幹的な課題である「鶏卵問題」にどう取り組んだのか、などいろいろ自分の中でランダムな考えがあったものの、このブログによってすごく整理された。今後もベイエリアで活動していく中で感じたこと、学んだこと、などを随時アップしていこうと思う。

それでは下記より翻訳。


なぜUberは勝ったのか?

スタートアップステロイド時代とパフォーマンス向上薬 としての資金の使用

2016年のスタートはスタートアップのステロイド時代の終わりを意味する、2010年から2015年にかけての、お金が安く(簡単に手に入り)、たくさん溢れており、会社を加速させるためのパフォーマンス向上薬として使われていた時代のことである。ベンチャー資金は会社を作り加速させるために使われてきたということは疑問の余地はない。しかし今回は違った。キャッシュそのものの力だけでスケールとグロースをすることができたのである。ゼロ金利の環境は、リターンを渇望する投資家を生み出し、エンジェル投資家からLP ( ベンチャーキャピタルにお金を出資する、Limited Partner) まで皆、投資するお金を持っていた。溢れたお金は、市場の振り子を「恐れ」から「利欲」へと振り、前代未聞のラウンドサイズ、バリュエーション、そして合計資金調達額になった。このレベルのベンチャー資金は1990年のテックバブル以来見られなかったのである。

起業家はビジネスを創るためのアービトラージを探している。フェイスブックやツイッターなどの新しい広告プラットフォーム、デスクトップからモバイルへのプラットフォームのシフト、もしくはユーザーを獲得する独特な方法などだ。過去数年間特にマーケットプレイスモデルのビジネスにとってはお金自体がビジネスモデルを急速にスケールさせるアービトラージだった。

マーケットプレイスモデルのビジネスにとって、スケールを買う方法は3つある。グロース(成長)、スピード、流動性(マーケットプレイスにおいていつでも売買したい時にすぐに取引可能な状態なこと)を買うことだ。全てではないが、いくつかのスタートアップにとって、それは戦略的な動きであり、Uberにとってはお金のおかげで勝つことができたのだ。

スピードを買う(顧客獲得コスト<顧客生涯価値)

創業者投資家ともにトラクションを評価する。誰もが強力な顧客獲得、取引量、営業地域の拡大を望んでいる。グロースはビジネスの長期的な可能性を示すポジティブな信号であるがゆえに、どんなスタートアップにとっても優先事項なのだ。

あいにく、グロースは成功のための測定尺度になってしまったのだ、例えばそれが“ダメなグロース”だとしても。そう、ダメなグロースも存在するのだ。仮に顧客獲得コストが顧客生涯価値よりも大きい場合、スタートアップは死へと突き進んでいる。私は過去数年にわたり、スタートアップが資金を使用し、可能な限り最も大きなトップラインを目指しグロースを買う一方で、顧客体験や顧客維持などのビジネスのコアな部分を無視する様子を見てきた。創業者の仕事はどんな費用をかけてでもグロースを行うことではない。グロースとは優れた顧客体験の結果生まれてくる副産物なのである。

投資家がグロースについて語るとき、我々は持続可能なグロースについて話してるのである。長期的で持続可能なグロースにショートカットはない。会社はトップラインの中ではなく、顧客体験から創られるべきなのである。

スピードを買う(顧客獲得コスト<顧客生涯価値)

マーケットプレイスにとって、スピードは強力な競争優位性となる、その市場に一番乗りすることではなく、流動性を最初に手にする者になることである。Airbnbはその市場において一番乗りではなかった。一番乗りだったのはVRBOだ。UberXの概念を市場に最初に持ち込んだのはUberではなくLyftとSidecarだった。どちらのケースにおいても、スピードは重要だった。UberもAirbnbもユーザーを買い、エンジニアを採用することでより速いペースで実行したのである。

多くの人がスピードとグロースを混同している。しかし、この2つの明確な違いは、持続可能性である。もしも顧客獲得コストが顧客生涯価値よりも低い場合、グロースは持続可能的である。スピードを買う会社は持続可能な状態へより速く到達する一方で、顧客体験、質、顧客維持などの重要な要因に集中している。重要なのはペースなのである。しかし、単にグロースを買うことは会社を持続可能ではない方向に導き、完全に成功の道から外れてしまうのである。この観点からのグロースは空虚、いやそれどころか、不全なのである。

流動性を買う(ネットワークの価値>総計顧客獲得コスト)

私はマーケットプレイスの中心的なゴールについて何度も繰り返し言っている。それは私にとって呪文のようなものである。“流動性は最も重要なことでない、唯一重要なことである。”マーケットプレイスを創ることは、関係を保ちながら異なる会社を同時に2つ創ることと似ている。現実では、それを実現するのは非常に困難なのである。最初の難しい問題は、需要(デマンド)と供給(サプライ)を全く同じ場所(マーケットプレイス)へ同時に同じ商品・サービスのために持って来ることである。 残酷な程に難しい。もしも十分な売り手がいなければ、買い手も来ない。もしも十分な買い手がいなければ、売り手も来ない。これがほとんどのマーケットプレイス型のビジネスモデルが死ぬ原因である。彼らは単に普通の原因で潰れるわけではない。

その結果として、マーケットプレイスは最初の流動性に達することに執着すべきである。それを実現する方法はたくさんあるが、このステロイド時代(お金がたくさん集められる時代)においては、お金は流動性を手にするための実行可能な方法だったのである。会社は供給を買えたのだ。また需要も買えたのである。そしてもしも十分な需要と供給を買えたなら、マーケットプレイスは流動性を手に入れて、人工的な補助なしにマーケットプレイスそのものの力で持続的に稼働するところまで行けるかもしれない。計算すべきことは、流動性を実現した状態での、ネットワークの資産として価値が総計の顧客獲得に費す費用より大きいのかどうかである。顧客獲得コストが生涯顧客価値より小さいか、ではないのである。

ネットワークの価値は総計顧客獲得コストよりも大きいか?これは財務的な問いであるとともに、戦略的な問いでもある。

Uberのケーススタディ

Uberはステロイド時代においてパフォーマンス向上薬としてお金を使用した典型的な例である。記録的な事実から見てみよう。Uberは 過去6年で15回の資金調達を通して合計、9Billion US ドル(日本円にして約1兆円)を株式で調達し、1.6Billion US ドル(日本円にして約1700億円)を負債で調達した。これは未上場の会社にしては前例のないことである。

では、Uberはこのお金をどうしたのか?彼らの戦略は、グロース、スピード、流動性のうちどれかを買うことではなかった。Uberの戦略は、上記の全てを買うことであった。小さな額を使う際は、お金を使うことは財務的な決定である。額が大きくなると、お金を使うことは戦略的な決定になる。この会社のパフォーマンス向上薬としてのお金の使用方法は、美しいほどに攻めている。それは攻めであると同時に守りでもあったのだ。

もしも時計を2012年に巻き戻すと、Lyftは消費者間同士でのライドシェアサービスをローンチしUberは黒塗りのハイアーカーのマーケットプレイスであった。LyftとSidecarの消費者間ライドサービスはより大きな市場のより大きなビジネスアイデアであった。そして、他のマーケットプレイスと同様、そのビジネスは勝者が全てを手にする、もしくは少なくとも勝者がほとんどを手にするタイプのビジネスだった。同時に、これら3社全てサンフランシスコのみで運営しており、皆が流動性を手に入れることに必死で、国内の他のどの都市においても優先交渉権を取得することを目指していた 。Lyftは良いスタートを切っていたがUberはその後ろを追いかけていた。

Uberは全速力で流動性を実現するためにその軍資金を積極的に投入し始めた。これが意味するところは5分以内に乗客をピックアップし、ドライバーは1時間あたり25ドルを稼ぐことができる状態を作ることである。最初に、彼らは運転手の1時間あたりの収入を保証し、運転手の確保の資金を投じた。運転手が路上にいることで、Uberは有料チャネルとUberを利用したくなるような乗客紹介制度を通して、運転手が乗客を乗せられるようにすることにフォーカスした。 運転手が自力で満足できる収入が得られるまで十分な需要(乗り手)を創出するまで、乗車賃金も補助し無料の乗車を提供し続けた。都市ごとに、Uberはこの方法を実行した、つまり運転手を買い、乗客を買い、乗車を補助し、ピックアップタイムを短くし、運転手の収入を増やし、Uberを流動性へと突き進めていった。

合理的な競合社はスピードだけを買ったであろう。顧客獲得コストが生涯顧客価値よりも低い限り、可能な限り多くのユーザーを買う。問題は、この戦略はその他の競合が全く同じことをした場合にのみ有効である。そしてUberは単にユーザーを買ったわけではなかった。彼らはネットワークを買ったのだ。それはありえない額の費用を要したが、それは勝者が全てを手にする、もしくは勝者がほとんどを手にするタイプのビジネスにおいては、無限大に価値のあることである。

Uberはお金を道具としてではなく武器として使った。

そしてそれがうまくいったのである。

結論

安い資本と何千億円の小切手の時代は終わったのである。引き締められた資本市場において、スケールを買うことは、次の時代のスタートアップにとっては信頼できる方法ではない。

誰もがプロダクトマーケットフィットを語るが、我々はこの議論を広げないといけない。

成功の方程式(競馬における3連勝単式)は、適切な創業者とチームフィット、プロダクトマーケットフィット、そして事業とスケールフィットである。スタートアップはもうスケールするためのツールとしてお金を見ることはできない。Uberさえも同じ方法では創られなかっただろう。

この次の時代において、グロースは利益率へとつながる。資本をレバレッジすることは人とプロダクトをレバレッジすることである。集中すべきことはバランスシートから損益計算書に移るであろう。重心は財務的な方向から戦略的な方向へシフトする。そうだ、このポストステロイド時代はより一層厳しい、がしかし、創業者は問題解決のためにお金を使うのではなく創造性を発揮することになるので、会社はより持続可能的でより強固な基盤の元につくられていくことになる。

原文:”Why Uber Won”