Facebookよりも進んでいる!?中国出張で見たモバイル決済インフラとしてのWechat

Yusuke Tanaka
12 min readAug 28, 2016

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先日1年ぶりに中国深セン・広州に出張に行ってきた。メインは深センのハードウェア系の会社の視察であったのだが、実は米国ワシントン大学留学時代のアメリカ人の友人が広州のWechatで働いていることを知り、せっかくなのでキャッチアップついでにWechatオフィスを訪問してきたのだが、Wechatのモバイル決済プラットフォームとしての凄さを体感したので、感動を忘れないうちに備忘録的に書いてみたい。

Wechatといえば中国IT大手のTencentが作ったメッセージングサービスで中国版のLINEと言われ、全世界で7億人以上のユーザー数を誇る巨大メッセージングプラットフォームである。(これは2016年7月に10億人に達したFacebook MessengerやWhatsappに次ぐ数字である)

いきなりWechatの話をする前に、メッセージング分野の全体を俯瞰してみたい。Facebook, LINE, Wechatなど昨今のメッセージングアプリのユーザー数の伸びやその周辺のBotなどの盛り上がりは自明すぎるのでわざわざここで書くつもりはないが、その中の1つ重要なトレンドとして「Conversational UI」(会話型インターフェース)だけは触れておきたい。

会話型インターフェースは大きく分けて、Amazon EchoやSiriなどに代表される「音声インプット」によるものと、「チャット・テキストベース」なものに分けられる。その中でも「チャット・テキストベース」のものは、AIや自然言語処理技術の発達、およびユーザー数の伸びによりテキストデータが大量にたまってきたことにより、最近では”Bot”などを通してコマースに繋げたりなど今後大きな注目を浴びている分野である。(この分野についてのより詳細なレポートについては僕の前職の上司、CAV 米国代表の南出のレポートをご覧ください。)

僕なりのConversational UI (会話型インターフェース)に注目すべき理由としては、も・し・か・す・る・と、もしかすると

「ユーザーがチャットアプリから一切出ることなく、買い物、決済など全て実現できてしまう世界がくるかも?」ということである。

逆に言えば、今までアプリを何個もダウンロードしては、買い物、タクシー、送金、検索などをモバイルで行っていたが、それ以外のアプリを使わず、チャットアプリだけで解決します!という世界が来るかも!?ということである。

上にも述べたが、このチャット・テキストベースでの会話型インターフェースの盛り上がりは主には「人口知能の発達」にドライブされるものであり、あくまでその存在が欠かせない、というのが一般の常識だと考えている。

しかし、僕が今日ここで書きたいのはそんなことではない。今日書きたいのは、「そんな人口知能とかなくても、アプリ上で何でもできるインフラにWechatはすでになっていたよ!」という話である。特にその中でも感動したモバイル決済・ペイメントについて書いてみたい。

〜〜モバイル決済インフラとしてのWechat〜〜

わかりやすくするために、現在僕が住んでいる米国サンフランシスコと中国の日常生活シーン別に、それぞれのシーンにおいてどういう決済方法をするかを比較してみたいと思う。

シーン⑴個人間送金(借りていたお金を友達に返す、貸してあげる)

米国: Venmo, facebook, Paypal

最も身の回りで使われている個人間送金と言えばPaypalに買収されたVenmoであろう。

写真にあるように、「送金先」「額」「内容」を記入するだけで1分以内に送金ができる。個人間のお金の貸し借りからをまとめて支払うルームメイトにもVenmoが使われているのが日常である。(人によってはFacebookやPaypal, Chase Quick Payなども使っているが)

ここで中国を比較してみよう。

中国:Wechat Transfer

中国ではどうやらWechat Transfer で簡単にできるようだ。実際に友達に送ってもらったスクリーンショットがこちら。

左上にあるのがTransfer

中国の銀行口座を持っていなくても銀行口座をアカウントに紐付けてるユーザーから1 Chinese Yuanを送ってもらうことができた。送金リクエストがくればそれをアクセプトするだけで完了である。

シーン⑵レストランでの支払

米国:店舗内で口頭で注文(もしくは設置型のタブレットで注文)=>グループの誰かがまとめてクレジットカードで決済=>残りのみんなはVenmoで1人当たりの額を送金。

注文方法は主に、到着前にOrder Ahead などのモバイルアプリを使い注文してしまうか、現地でタブレットを使って注文するか、従来通り店員さんに口頭で注文を伝えるか?の3つがメインである。

その後食事が済むと事前にモバイルアプリで決済している場合は別だが、基本はそのグループの誰かがまとめてクレジットカードで支払って、一人当たりの支払額を個人で後からVenmoする、というのが普通である。店舗によってはクレジットカードを受け付けない店があるのでその場合はキャッシュで支払うしかない。

ここでまた中国を見てみよう。

中国:Wechatアプリで店舗内で注文、みんなで割り勘、領収書の受け取り全て完結

まず注文だが、下の写真にあるようにお店のテーブルにあるQRコードをスキャンするだけでWechatアプリから注文できるようになっている。

このQRコードを設置するだけであとはwechatアプリで注文ができるので、チェーンレストランのみならず、小さなレストランなどにとっても導入コストは低いであろうし、ユーザーにとっても簡単に注文できるので便利である。

そして支払いもWechatアプリ上で先の注文画面から支払いを行い、みんなで割り勘をしたい場合は割り勘する相手にリクエストを送るだけで完了である。

また領収書についてあるQRコードもスキャンすれば支払い内容・領収書も確認できるとのこと。

シーン⑶タクシーの支払い

米国:配車・支払い・領収書受け取りまでUber or Lyftアプリで完結

ここは詳しく書く必要ないと思うが、UberかLyftのアプリ一つで配車・支払い・領収書まで完結できる。

中国:Wechatアプリで配車・支払い・領収書まで完結

こちらもWechatアプリを使えば上記のことが同じように全部できる。

この写真の下に”Order Taxi”がありそこから配車ができる。

シーン⑷自動販売機での支払い

米国:キャッシュかクレジットカードで支払い

現状、スナックや飲み物を購入する際の自動販売機だが、基本はキャッシュであり、たまにクレジットカードを受け付けてくれるところもある。最近になって、スタートアップがモバイル決済・クレジット決済機能つきの自動販売機を提供し始めているところ、というのが肌感覚である。この分野もまだまだこれからスタートアップが提供するモバイル決済アプリや、その他Apple PayやAndroid Payとの協働が進んでいくことが予想される。

中国:Wechat でQRコードでスキャンして購入

こちらもびっくり。Wechatオフィス内にあった自動販売機はQRコードをスキャンしてその場で購入可能とのこと。(ちなみにこのタイプの自動販売機が中国全土に普及しているかは不明です)

シーン⑸水道電気ガス料金の支払い

米国:ルームメイトの代表者一人がLandlordにチェック(小切手)か銀行振込で支払い。残りのルームメイトはチェックかVenmoで代表者(取りまとめ役)に支払い。

僕は現在サンフランシスコでアメリカ人4名とルームシェアをして生活しているのだが、そのプロセスは極めてアナログ。ルームメイト代表者が家主(Landlord)へ月末に指定額をチェックを郵送している。そして残りのルームメイトはその代表者へVenmo をするのである。(Thank God, Venmo!僕がシアトルに留学していた時はVenmoも普及しておらず、わざわざATMまで行って、指定額を引き下ろし、代表者に手渡ししていたのである。今から考えると恐ろしい。。。)

中国:Wechatで支払い

下記の写真のようにWechat Walletを開くと真ん中に”Utilities”と出てくるのでタップしてみる。

そこから水道、電気、ガスの支払いができるらしい。

ここは実際に支払っていないので支払いをされている方から話を伺ってみたい。どうやら電話料金やテレビ料金の支払いもできそうだ。

まとめ

ここまでいろいろ比較してきたがそろそろまとめようと思う。

正直米国はVenmoやApple Payなどからも「モバイル決済」という領域では先に進んでいるのだろう、と勝手に思っていた。ところがどっこい。確かにVenmoやApple Pay、Squareまたその他モバイル決済周りのスタートアップにより「デジタル化」が進んできているが、現状、小さな小売店やレストランではSquareも導入されていなかったり、公共料金の支払いも未だにチェックで行っていたり、とまだまだ「アナログ」な一面が多いな、というのが所感である。またアプリ間の遷移も多く、チャットアプリ一つですべて解決、というのは程遠いように感じる。(Facebookはその分野を取りに行くと思われるが)

それに対して中国、Wechat!!

お気付きだと思うが

「Wechatアプリだけですべてできちゃいます!!!!」

というかWechatアプリから一回も出ることなくすべての支払いを終えています。これこそまさにConversational UIの肝である「チャットアプリだけで何でもできてしまう世界がくるのか?」という問いに対しての答えとして、「現状決済周りはWechatだけでできます!」と感動した理由である。

たまたまForbesがWechatを紹介した最近記事の中で「何回かのタップだけですべて支払いが完結した」という趣旨の動画が貼ってあったので、興味がある方はそちらをご覧いただきたい。

余談だが、Wechatは決済以外にもタクシー配車、ホテル予約、映画チケット購入、またレストランサイトのレビュー、台風・気象など政府などが発表する情報などもすべて公開していたりと他にも山ほどのことができるらしい。是非毎日Wechatを使われている方の感想も聞いてみたいです。

まさに”インフラとしてのチャットアプリ”と化している。

最後に、中国はよく「なんでもコピーする」と言われ、あくまで追随者、模倣者、としてのイメージが強かったが、ハードウェアのシリコンバレーと呼ばれる深センへの訪問やチャットアプリWechatにおいては遥かに米国よりも先を行っていると感じたし、社会インフラWechatの躍進を見て今後のFacebookやLINEの打ち手も見えてくるのでは、と思いました。

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Yusuke Tanaka

Founder of RestUp, Inc. Working on something new and exciting in San Francisco.