「しあう」


2016年10月21日から23日にかけて、ぼくたちは佐賀県の基山町で34回目のキャンプを行った。「キャンプ」についての詳しい説明は『キャンプ論』(加藤文俊著)を参照してほしいのだが、簡単に説明をすると、まちを訪れ、まちの人びとを取材し、その成果をポスターという形にまとめてまちに還す、という活動だ。このキャンプという活動は実に不思議な活動である。特に最終日に行われるポスター展は、毎回なぜか感動的な場になる。今回の基山でのキャンプにおいても、どこからともなく感情が溢れ出してなんとも言えない雰囲気が会場を包み込んだ。一体なにがこの活動を、最終日のあの場を、そうさせているのだろうか。

ポスター展のようす

キャンプの中で行われる、ぼくとまちやそこに住む人びととのコミュニケーションは、「であう・みあう・むきあう・かわしあう・かよいあう」という5つの段階で表現できる。

「であい」はいつも新鮮だ。まちの風景や雰囲気、そこにあるモノやそこにある暮らし、そこにいる人びと。とにかくすべてが新鮮で少しの緊張とともにそれらとのであいへの喜びで溢れる。あっちに行ってみようかな、こっちも良いかな、これを聞いてみたいな、どう聞こうかな。最初のうちはこうして「みあい」ながら、少しずつお互いの距離をはかっていく。あらゆるうごきを注意深く観察しながら、ときには押して、ときには引いて、少しずつ探っていく。そうしてなんでもないような会話を重ねていると、何かちょっとしたタイミングやきっかけでグッと距離が縮まったりする。距離が縮まるとお互いに「むきあう」ことを通して、より深く相手のことを知ろうとする。ひとつのことに一緒にむきあうこともあれば、相手に思いを寄せるというむきあい方もある。むきあって見えてきたことは、「かわしあう」なかで伝えていく。理解できることもできないことも、ときには理屈ではないというようなこともかわしあう。ここでは、もはや距離をはかるなどということはなく、相手への信頼を前提にコミュニケーションが成立している。こうして、お互いへの理解が深まると自然に「かよいあう」ようになる。心がかよいあうこともあれば、実際に相手を尋ねるという意味でかよいあうこともある。

ぼくはこれまで多くのまちで、そのまちやそこに住む人びととこのようなかたちで関係を築いてきた。しかし、ぼくたちはしばしばこれらが「しあう」というコミュニケーションであることを忘れてしまう。


ぼくたちはよく、取材を「する/される」やポスターを「つくる/つくられる」といったような具合で、一方が何かをしていて、もう一方が何かをされているという風にモノ・コトを捉えようとする。だが、実際はどうだろうか。キャンプにおいて、確かにぼくたちは取材をして、まちの人びとは取材をされているし、ポスターは学生であるぼくたちが作っている。しかし、よくよく考えてみると、取材にしてもポスター制作にしてもそれができるのは、まちの人びとがそれとしての振る舞い方でいるからである。つまり、ほとんどのことは、一方的に何かをしたり、されたりというような関係ではなく、「しあう」というコミュニケーションが重なって、そしてそれらが複雑に交わることによってはじめて成り立っているのである。これは決してキャンプに限った話ではなく、ぼくたちはいつも互いにその時・その場の状況に応じて自身の振る舞い方を細かく変更(編集)しながらコミュニケーションをしているのだ。

こうした「しあう」が重なって実施されるキャンプは不思議な関係性を生み出し、ぼくたちにもまちや人びとにも大きな影響を与える。そして、2泊3日の慌ただしい活動がポスター展という目に見えるかたちで実を結んだとき、あのなんとも言えない独特で感動的な雰囲気が生み出されるのである。さらに、「しあう」が重なってつくられたポスターは、キャンプが終わりぼくたちの手を離れたあともなお、あたたかみを持ったまま人と人とをつなぐメディアとなるのである。


ぼくたちはいつも忘れる。まちの風景や雰囲気、そこにあるモノやそこにある暮らし、そこにいる人びと。であったころの喜びなどはとうにどこかへ消えていて、毎日を、その一瞬を、“あたりまえ”という言葉にまとめてしまう。「しあう」というあたりまえに、キャンプのような活動をしてやっと気づける。

それは、少し悲しいことのようにも思うし、とても幸せなことのようにも思う。

基山の皆様、本当にありがとうございました。あの橋をくぐれば...。
参考URL
基山キャンプでできたポスター
http://camp.yaboten.net/entry/2016/10/23/134916
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