カスタマーサクセスをするにあたって読んで良かった書籍10選

Yuta Maruyama
14 min readMay 10, 2018

--

カスタマーサクセスという概念はまだ日本国内では新しく、文献を参考にしようと思ってもなかなか良い文献にありつきにくい。特に本に関しては、カスタマーサクセスだけにテーマを絞った本は英治出版から出ているものだけだ。ただカスタマーサクセスという概念自体は新しくとも、既存の考え方を複合的に組み合わせることでカスタマーサクセスを理解することはできるし、日々の業務に落とし込める。ここでは、カスタマーサクセスの実践に役立つ既存の書籍等を紹介していく。
※自分がBtoBのSaaSに従事しているのでその前提で書かれていることを念頭においてほしい

カスタマーサクセス総論

カスタマーサクセスの全容がわかる2冊を紹介する。とりあえずは1冊目で紹介するサブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方さえ読んでおけば、なぜ今カスタマーサクセスが取り沙汰されているのかは理解できる。

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

一見、流行りのサブスクリプションモデルを紹介するだけのように思えるが、カスタマーサクセスのあり方が良く分かる本。

サブスクリプションの顧客はマーケティングの対象にされてしかるべきである。したがって、顧客向けのマーケティング活動を、見込み客の創出、見込み客の育成と同じくらい重要性が高いものとして、価値の育成と呼ぶことにする。

この一節が全てを物語っており、カスタマーサクセスは既存顧客に対していかにサポートを超えるような価値の育成、提供ができるかが重要だ。サブスクリプションエコノミーにおいてのカスタマーサクセスの重要性がいろいろな角度からわかる良書。

Customer Success: How Innovative Companies Are Reducing Churn and Growing Recurring Revenue

英語が読めればぜひチャレンジしてみてほしい。
カスタマーサクセスという概念がどのようにして生まれたかから、どう実践していくかのかなり具体的な内容まで踏み込める。例えば紹介されているカスタマーサクセス10の法則をまとめてみると

  1. 正しい顧客に売れ
  2. 放っておけば顧客は離脱する
  3. 顧客はプロダクトによって広く成功することを求めている
  4. 顧客の健康状態を絶え間なくモニタリングし管理せよ
  5. パーソナルな関係の構築だけではロイヤリティは築けない
  6. プロダクトが唯一のスケーラブルな差別化要因である
  7. 異常なほどに価値提供の時間にこだわれ
  8. チャーン、リテンションといったカスタマー指標を深く理解せよ
  9. ビジネスの主要指標によってカスタマーサクセスを駆動させよ
  10. カスタマーサクセスはトップダウンで、全社のコミットで成し得る

といった内容だ。カスタマーサクセスに従事していれば気になる内容が多いだろう。いずれ日本語版も出るかとは思っているが、カスタマーサクセス担当者のバイブルになりえるような本だ。

※2018年5月17日追記
やはり日本語版が出るとのこと。2018年6月に発売予定。

顧客サービス/顧客満足度

カスタマーサクセスを語る場合、顧客の成功がよく叫ばれるが、そもそも顧客に良質な体験をしてもらうことや心地よい使用感を味わってもらうことは同様に重要である。カスタマーサクセスといった考え方がでてくるまでもCustomer Sutisfactionの意味合いでのCSはよく研究されていたが、カスタマーサクセスを考える際もCustomer Sutisfactionを考えることは有用である。

売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門

カスタマーサポートを含め、いわゆるCS業務にあたる人間全員に読んでほしいと思える良著。顧客ロイヤルティを高め売上に直結させていく戦略を「顧客ロイヤルティ戦略」とし、その実践を7ステップに分け解説している。売上に直結させるといっても目先の収益にとらわれるのではなく、しっかりと顧客のロイヤルティを計測・可視化できる仕組みを整え、それを分析し、それに応じて施策に落とし込んでいきましょうという内容で、特に顧客ロイヤルティの集計・可視化のチャプターは必見だ。この書籍を読むと、巷に出回っている顧客アンケートの類がいかに適当につくられているか分かる。ちなみにNPSに関して学ぶのであれば「ネット・プロモーター経営―顧客ロイヤルティ指標 NPS で「利益ある成長」を実現する」という原典的な書籍があるが、さきにこちらを読んでおいたほうが早く概要を掴めると思う。

ハーバード・ビジネススクールが教える 顧客サービス戦略

最近はハーバードの冠を戴くだけの怪しい本が多いが、こちらはそういった類とは一線を画す読み応えのある本。この本は、良質なサービスを継続的に提供する仕組みをいかにシステムとして設計するかといった大変アメリカチックな考えを実例を踏まえて分かりやすく解説している。このシステムの設計には原則が4つあり

  1. 「すべてが最高」には無理がある
  2. 誰かがコストを負担しなくてはならない
  3. 悪いのはスタッフではない
  4. 顧客をマネジメントせよ

といった、原則が紹介されている。肝は顧客サービスにおいてもリソースは有限なので取捨選択をして勝つべきところで勝てといった内容で、経営の観点で顧客サービスを学べる。スケーラブルで勝てるカスタマーサクセス体制を築いていくには大変気づきの多い本である。

データ分析

仮にあなたがこれまでデータとは無縁の生活を送ってきていたとしても、カスタマーサクセスに従事する以上はある程度データに対してのリテラシーを身につけるべきだろう。カスタマーサクセス担当は日々顧客に対峙している分、打ちたい施策が無限に浮かんでくるが特にスケールを目指すSaaS企業にとってはデータに基づいた施策の取捨選択が重要である。以下で紹介する本は非エンジニアでもある程度のデータのお作法が理解できる内容となっている。

データ分析の力 因果関係に迫る思考法

新書形式でサクッと非エンジニアでもとっつきやすく読める本である。特に因果関係というものについて分かりやすいように説明をしてくれる。データドリブンにビジネスを行う上で、相関関係と因果関係の履き違いは致命的である。例えばカスタマーサクセスの観点で言うと、ユーザーイベントの参加者はNPSが高い傾向にあるという相関が認められたとしても、それがユーザーイベントに参加したからNPSが上がったのか、もともと満足度が高いからイベントに参加しているだけなのかの因果までは分からない。ここを履き違えると、ユーザーイベントをひたすらに繰り返し、すでに気持ちの良いユーザーがもう少しだけ気持ちよくなるだけで全体のNPSがなかなかあがらないといった事態にもなり得る(ユーザーイベント自体は有効な施策ではある)因果を捉えるためのデータに対するアプローチの仕方、考え方がやさしく学べる本である。

意思決定のための「分析の技術」―最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法

経営コンサルによる経営のための分析技術の本だが、カスタマーサクセスの施策を考える上でも学びの多い本である。分析の技術を

  1. 「大きさ」を考える
  2. 「分けて」考える
  3. 「比較して」考える
  4. 「変化/時系列」を考える
  5. 「バラツキ」を考える
  6. 「過程/プロセス」を考える
  7. 「ツリー」で考える
  8. 「不確定/あやふやなもの」を考える
  9. 「人の行動/ソフトの要素」を考える

と9つに分けて紹介しており、どれも筆者の実体験を用いて分かりやすく解説してくれる。カスタマーサクセスの責任者はハイタッチな(ミクロ的で手厚い)サポート以外にも、マクロ的なチャーン防止施策も考えていかねばならない。そういった際にクライアント群をどう分析し解釈するかは筋の良い施策に落とし込むために必要な観点である。

Lean Analytics ―スタートアップのためのデータ解析と活用法

リーンシリーズでもデータ解析にフォーカスしたこの書籍。SaaSにおけるメトリクス設計の事例の宝庫である。SaaSのために書かれているわけではないが取り上げられている事例はSaaS企業がほとんどで、SaaSスタートアップがどのフェーズでどういったメトリクスを設定すべきかが豊富な事例とともに紹介されている。なかなかゴリゴリに解説してもらっている分、読み解くのにはなかなか体力がいるので、「MRR?CAC?LTV???」という方に関しては、@tumadaさんのスタートアップのお金と指標入門講座を読んでからチャレンジしても良いかもしれない。

プロダクト/オペレーション開発

カスタマーサクセス責任者は顧客に向き合うだけでなく、顧客から得たフィードバックをプロダクトやオペレーションに還元し全体のUXを向上させていくハブ的な役割も求められる。その際に良いプロダクトはどういったプロダクトなのか。プロダクトやオペレーションを開発していくにはどういった道筋をたどるべきなのかは理解しておいて損はない。

Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール

SaaSカスタマーサクセスの最重要ミッションであるリテンションに関して、心理学の観点から紐解いたのがこの本である。ユーザーをプロダクトに「ハマらせる」方法論をフック・モデルと称し、豊富な事例と科学的根拠を用いて解説してくれる。SaaSにおいては成果が出れば使い続けてもらえるが使い続けてもらえないと成果が出ないというある種のジレンマもああるが、使い続けてもらうための体験をどういう風に作り出すかといったアイデアに満ちた良書である。

リーン顧客開発 ―「売れないリスク」を極小化する技術

リーン顧客開発は、細かく仮説の設定、検証、学習を繰り返すことで顧客が本当に欲しがるものを突き止めプロダクトやオペレーションに活かしていく手法である。リーン顧客開発における大前提は我々のアイデアは大方間違えている(認知バイアスがはたらいている)ということと、顧客に関する真実はオフィスの外にあるということだ。これはカスタマーサクセスにおいても当てはまり、顧客に対して最善のサポートをするためには顧客を深く理解する必要があるし、深く理解するためには顧客を観察したり、実際に声を聞く必要がある。リーン顧客開発はそのための手法をまる一冊使って解説した書籍でありスタートアップ創業者、そして顧客のことを深く理解する必要があるカスタマーサクセス責任者は読んでおいて損のない書籍である。

Running Lean ―実践リーンスタートアップ

ここまでリーンスタートアップまわりで2冊書籍を紹介したが、手っ取り早くリーンスタートアップを理解するためにはこの本が最適である。カスタマーサクセスにおいては特にリーン的なアプローチは有用で、仮説検証可能な最小単位(Minimum Viable Product(MVP)と呼ばれる)で施策を実施し、そこから学びを得て、次の施策に活かしていくといったアプローチは暗中模索になりがちなカスタマーサクセスにおいて威力を発揮しやすい。リーンスタートアップが万能なわけではないが、MVPを用いて小さく仮説検証を繰り返していくアプローチ方法は特に初期フェーズのSaaSカスタマーサクセスとは相性がよく、そういったリーンなアプローチを理解する第一歩としてはこの書籍は一押しである

まとめ

  • カスタマーサクセス総論
  • 顧客サービス/顧客満足度
  • データ分析
  • プロダクト/オペレーション開発

4つのカテゴリに分けて計10冊の本を紹介したが、ひとまず

これらの2冊を読んでおけばカスタマーサクセスや顧客満足といったところの概要はひとまず理解できるかと思う。まだまだ日本国内ではカスタマーサクセスに関する書籍は少ないが、目指すべきところは顧客をしっかりとサポートし、成果を出してもらい、満足してもらうといったビジネスの根幹の部分なので、紹介した書籍のようにヒントとなるような情報はすでに溢れていると思う。この記事ではそういったすでにある情報のなかでも特にカスタマーサクセスに効いてくるものをご紹介したので、これらを読んで日々のカスタマーサクセス業務に活かしていただければ幸いです。

↓こちらのTwitterでもどんどん情報発信をしていくのでどうぞフォローをお願いします。

--

--

Yuta Maruyama

LAPRAS株式会社(旧:株式会社scouty)のVP of Customer/慶應義塾大学経済学部/リクルートジョブズ/div(TECH::CAMP)/LAPRAS Inc.