【科学×人文コラム】利他性、偽善、啓蒙思想2.0、サイバネティクス

Nature Human Behaviorという人間行動一般に関する学術雑誌(ジャーナル)を購読しています。今回こんな記事を見つけました:

Psychology: People work less hard for others:

Effort is costly. People devalue personal rewards that require some measure of physical or even mental effort. Laboratory studies now suggest that physical effort is especially costly when engaged to benefit others. Even when people are willing, however, their efforts are often superficial, with people doing what is necessary but no more.

ボランティア活動に関わっている人々がどう読むのか知りたいな。「人は他人のために働くときは手を抜く」という話。ミルトン・フリードマンが生きてたら喜びそう。冗談はさておき、性善説・性悪説も科学的命題になりうるか否かという面白さがある。

‪‪人間本性についての新たな科学的知見が、人類に「偽善」についての哲学的な挑戦状を突き付けている。行動科学はヒトの振る舞いを記述するが、それを踏まえて人はどう生きるべきかが問われている。昔から哲学は科学の影響を受けてきたし、それは現代でも続いています。‬

‪近代の基礎となった啓蒙思想は性善説。しかし現代は、行動経済学に代表されるように、性悪説の時代。それをはっきり宣言したのがジョセフ・ヒースの『啓蒙思想2.0』で、要は「性悪説2.0」です。ヒトの本性についての科学的な理解にもとづいた、効果的な教育や社会制度設計の必要性を説く。‬

啓蒙思想2.0 政治・経済・生活を正気に戻すために:

現代社会は〈右翼/左翼〉ではなく、〈狂気/正気〉に分断されている。近代社会の礎となった啓蒙思想はどこに行ったのか? この状況を打開するために、いま考えなければならないことは? 理性と直感、知と情を束ねる新たな世界観の提示。

‪このような設計主義は、バークからハイエクに至るまで近代の保守主義者によって批判されてきた。その論拠は社会の複雑性と不確実性だった。しかし現代では複雑な社会を複雑なまま分析するための道具(ネットワーク科学)や、不確実性を取り扱うための道具(システムダイナミクス)が揃ってきました。‬

保守主義者の批判を乗り越えて、設計主義の優位性が復活しつつあります。あらゆるものを人類の知によって制御していく時代になる。その制御の対象には人類自身も含まれる。20世紀中盤から「サイバネティクスの時代」が続いてきましたが、21世紀中盤には「サイバネティクス2.0」に移行するでしょう。

ウィーナー サイバネティックス 動物と機械における制御と通信:

心や脳の機能をダイナミックなシステムとして捉えようとした先駆的な書.その後の人工知能,カオスや自己組織化といった非線形現象一般を対象とする研究に大きな影響を与えた.また理系分野に留まらず,構造機能主義などの社会学にも多大な影響を及ぼし,今日では認知科学やシステムバイオロジーなどの方法論の基礎となっている.(解説=大澤真幸)

古典的なサイバネティクスは自動制御技術によって機械を動かすというものだったが、その本質は「システム思考」にある。いまや社会を「システム」と捉え、制御しようとすることは突飛な発想ではない。サイバネティクスは人間以外の客体を制御する時代から、人間自身(主体)を制御する時代へ移行する。

そのとき、古典的な人間観は最新の人間観にアップデートされ、モデリングされ、そのモデルに基づいて社会は制御される。近代経済学が前提した合理的経済人モデルではなく、認知心理学・行動経済学モデルで。「啓蒙思想2.0」「性悪説2.0」モデルで。

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