【科学×人文コラム】形式科学、知的生命体、人工知能、人型AI禁止法、計算論的思考

理系文系という二分法には致命的な欠陥がある。数学の位置付け。伝統的に哲学者と数学者は兼業。数学や論理学は自然科学でも人文科学でもない。正しくは「形式科学」という。形式科学は「このヒト」「この自然」から離れた純粋な抽象概念の科学。それゆえ我々の知らない宇宙、知らない知的生命体においても通用する。

カール・セーガン原作の映画「コンタクト」で素数を使ってコミュニケーションするシーンがある。もし相手が自然数に相当する認知能力、つまり「数を数える力」を持つならば、素数を理解できる可能性もある。地球外と素数を通信する意義は、そういうふうに理解できる。

しかし、宇宙は広いので、そもそも自然数の概念がない、つまり「世界を分節化して数えること」をしない知性があるのかもしれないけどね。仏教で言えば、つねにすでに悟っている存在。

世界を分節化することがない存在は、おそらく言語や概念を持たない。パターン認識もしない。脳に相当するような学習機能もない。それでも自動制御機械のような(サイバネティックな)振る舞いをする存在はありえる。脳を持たず脊髄反射のみで生命活動する存在を想像すればいい。マダニの環世界。(※ユクスキュルの説)

マダニ程度では知性的には見えないが、単に機構を複雑にしていけば、どんどん知的生命体に見えてくるはずなんだよね。知性とは質ではなく量の尺度で、明確な閾値もない。なんとなく好みで知性があるとかないとか言ってるに過ぎない。知性を決定する人間の振る舞いは知性的ではありえない。

マダニという生物を例に説明したけど、同じことは人工知能についても言えるわけで。我々人類が十分に発達した人工知能に憐れみの情を抱いたら、簡単に生殺与奪できなくなる。しかしその境界線は人により異なる。では正義と法はどうなるか。我々の社会は深刻なチャレンジに直面する。

だから、そもそも厄介な問題を起こさないためには、最初から「人工知能やロボットを人間に似せること」を法で禁じてはどうか。ディストピアを未然に防ぐために。

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ちなみに、理系文系の区別と、自然科学人文科学の区別は、同じ区別ではない。そもそも社会科学もまた単純に理系とも文系とも言えない。行動科学 (behavioral science) は「人の『あや』(文)について研究する」という意味で「人文科学」。「自然界に存在するホモ・サピエンスというオブジェクトの性質を記述する」という意味で「自然科学」。単純な二分法では決定不可能なマージナルな存在で、面白い。

ちなみに、ぼくは「人文科学」という言葉に違和感があって、「人文知」のほうを好む。それで言うと、知の全体像をどう捉えるか、なかなか難しいけど、形式科学、自然科学、社会科学、人文知という4つの大きな「まとまり」があると思っている。排他的な「分類」(category)ではなく。‬

もちろん形式科学、自然科学、社会科学をまとめて「科学」と呼んでいいが。それはさておき、問題は、4つの「まとまり」の関係。相互依存していることもあり、シンプルに整理できない。とはいえ、一つはっきりしているのは、自然科学や社会科学を可能にしているのが形式科学だということ。‬

論理学や数学のような形式科学は、純粋な概念操作の知であり、特定の対象を持たない。だからこそ、あらゆる対象を研究する道具として使える。計算機科学の一部も形式科学だから、あらゆる学問分野に応用できる。「計算論的思考」と呼ばれる。

計算論的思考(Jeannette M. Wing著、中島秀之訳、情報処理 Vol.56 №6 June 2015)

コンピュータ科学とは計算に関する,すなわち計算可能性と計算方式の,学問である.
概念化のことであり,プログラミングではない.
人間の思考法のことであり,コンピュータのそれではない.
概念であり,モノではない.
多くの人がコンピュータ科学をコンピュータのプログラミングのことだと思っている.コンピュータ科学を専門とする子供たちの就職先の可能性を狭く捉える親がいる.またコンピュータ科学の基礎的研究は完了していて技術的問題だけが残っていると,多くの人が考えている.計算論的思考は,この分野に対する社会通念を変えようとする
コンピュータ科学を専攻した学生は何を専門に してもよい.英語や数学を専攻した学生は異なる分野で複数のキャリアを追求しているではないか. コンピュータ科学もしかり.コンピュータ科学を専攻した後に医学,法律,経営,政治,そしてあらゆる種類の科学や工学,さらには芸術の分野に進むことができる.
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