金融政策とその限界
はじめに
こんにちは. Acompanyの湯浅です. 暗号通貨業界でやっていくには既存金融の仕組みを理解することも重要です. 今回は金融政策の仕組みとその限界について解説します. なお, この記事の内容は岩村充先生の「中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来」を大いに参考にしております.
利子率
まず, 金融政策を理解するには2つの利子率を理解することが重要です. まず, 利子率とは現在の購買力と将来の購買力の交換比率のことです.
例えば, 1日に食べることができるパンの数が今年は10個で, 来年には12個食べられると信じられている世界を考えます. この世界では今年パンを隣人に10個貸したとすると, 来年には12個返してもらうのが道理です. つまり, ここで成立する利子率は20%で, この利子率のことを「自然利子率」と言います. 自然利子率は貨幣ではなくモノで測った時の利子率なので, 中央銀行が操作できるものではなく, 人口や技術進歩などの条件に基づきます.
対して, 貨幣の貸し借りに生じる利子率のことを「名目金利」と言います. 貨幣は中央銀行が発行権を持つので, 名目金利は中央銀行が操作することができます.
フィッシャー方程式
上の二つの利子率と予想物価上昇率の関係を整理すると, 以下の式が導き出せます.
(1+名目金利)÷(1+自然利子率) = (1+予想物価上昇率)
これはフィッシャー方程式と呼ばれます. これが成り立つのは現在の「豊かさ」を将来に送るとき, 実物的な投資契約と貨幣的な賃借契約がある場合, 予想物価上昇率を介してバランスが取れていなければおかしいと考えるからです.
金融政策は現在と将来の交換
金融政策は中央銀行が物価の安定を目的として行うものです. 公開市場操作などの手段を用いて, 金利を調整することで景気を望む方向へ誘導します.
実はこの金融政策は現在と将来の交換にすぎません. 例えば, 現在の物価が上昇しているので名目金利をあげて金融を引き締めると, フィッシャー方程式に従って現在の物価水準と将来の物価水準に差が生じ, 現在の物価の上昇は抑えられますが, 将来に物価の上昇が起こります.
流動性の罠
この金融政策には「流動性の罠」という問題が付きまといます.
流動性の罠とは「デフレに対応して金利を下げていっても, 貨幣自体ゼロ金利の金融資産なので, マイナス金利を成立させることは無理!」と言う問題です.
流動性の罠の例を見てみましょう.
まず, 自然利子率が高い成長経済の場合を考えましょう. 自然利子率は5%とします. この時フィッシャー方程式により, 予想物価上昇率がゼロなら名目金利は5%となります. 中央銀行は5%の範囲内でインフレショック, デフレショックの両方に対応できます.
次に, 自然利子率がゼロのゼロ成長経済の場合を考えます. この状況で予想物価上昇率がゼロになるような金融政策がとられていると, 名目金利も0%となります. この時, インフレショックに対応して, 金利を引き上げることは可能です. しかし, 金利はゼロより下にいかないのでデフレショックに対応して金利を引き下げることはできません.
このように, 成長経済では金融政策は自由度が高いですが, ゼロ成長・マイナス成長の経済ではデフレショックには打つ手なしです.
インフレターゲット論
「マイナス金利を実現することが無理なら今, 日銀がやってるマイナス金利政策は意味ないの?」と思う方もいらっしゃるでしょう.
実はマイナス金利は「人々の心に安定したインフレ期待を定着させる」ことで実現可能です.
フィッシャー方程式の右辺の予想物価上昇率がゼロよりも大きい値になれば, 自然利子率がマイナスに落ち込んだ状況でも金融政策はインフレ・デフレ両方に対応力を保ち続けます.
そのため, 日本銀行は「物価上昇率2%を実現する」と言い続けています. これはインフレターゲット論に基づく戦略だと思われます.
マイナス金利政策の行く末
日本のマイナス金利政策はどのような結果をもたらすのでしょうか?
成長経済では「長くしぶといインフレ」と「短い水準調整的なデフレ」の循環が回っていたのに対して, ゼロ成長, マイナス成長の経済では「長くしぶといデフレ」と「短い水準調整的なインフレ」との循環になっています.
この傾向から人々の心にインフレ期待を定着できても穏やかなインフレではなく, 短いジャンプアップなインフレになりそうです.
また, 岩村先生はデフレを脱却したとしても国民の大多数がその恩恵を受けられないのではないかとも言われています. 会社では株主・幹部クラスの人のみが恩恵を受け, 従業員クラスの人間は何の恩恵も得られません.
そして, 本当の危機はデフレを脱却した後にくるとも言われています. 拡大する経済的格差により, 人々が金融政策は豊かさを提供しないと思い始めれば, 中央銀行が独占的に貨幣を発行することへの合意も崩れ去ってしまう可能性があります.
最後に
中央銀行と金融政策は世界が成長の軌道に乗った時に初めてできたシステムです. そのシステムが世界の停滞時に今までどうりに機能するかどうかは私たちには予想がつきません. 結局マイナス金利政策がどのような結果をもたらすのかは時間が経ってみなければわかりません.
「中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来」はとても良い本なので読んでみてください!
今後も,Acompanyからブロックチェーンや経済学に関する記事を投稿していきますので,ぜひfollowしていただけると嬉しいです.