【英国視察レポート — Action with Communities in Rural England (ACRE)】地域コミュニティのニーズに目線を合わせたサポート組織
アキタエイジラボは、3月5〜12日の1週間で英国視察に行って参りました!視察レポート第1段として、Action with Communities in Rural England(ACRE)の活動を紹介します。(http://www.acre.org.uk)
ACREはイングランド国内の38のコミュニティ・カウンシル(町・村よりも小さい地域コミュニティの自治単位)のネットワークを管理する公的組織であり、地域コミュニティの様々なニーズに目線を合わせた活動を展開しています。ACREのオフィスは、ロンドンから西に車で約2時間ほどの、グロスターシャー州Cirencester(サイレンスター)にあります。
サイレンスターは、イングランド中央部の丘陵地帯であり、特別自然景観地域に指定されているコッツウォルズ(Costswolds)のほぼ中心に位置するため、町の郊外には美しい英国農村の風景が広がっています。緩やかな丘が多く、広大な農地が広がっています。国土の約7割が山で覆われている日本の農山村地域とはまったく印象が異なり、視界が広く開けています。
ACREの主な仕事としては、コミュニティカウンシル(町村よりも1つ小さいレベルの自治単位)において、住民の生活環境に関する項目(交通、買物、エネルギー、水害、ハウジング・暖房、コミュニティショップ・パブの運営、教育)についてのニーズを調査し、解決策を探り、さらに関係機関と連携して住民主導のプロジェクトを立ち上げ、その運営サポートをしています。ACREは政府の地方政策について、現場の視点からフィードバックを提供する役割も担っており、人口や経済統計などを基にしたマクロ的な視点からの政策提言に対して、農村地域の住民の声に基づいたミクロ的な視点からのデータ提供を行っています。ACREはどの政党にも所属しない中立な立ち位置から政府の地域政策に対して明確なフィードバックを行う機関として重要な役割を担っています。この役割、国内では都道府県とその下の自治体が担っているかと思うのですが、独立した機関としてこの役割を担う機関があるということが驚きでした。
ACREが連携している組織に、Gloucestershire Rural Community Council (GRCC) があります。GRCCには、実際にコミュニティに住む住民のなかから選ばれたオフィサーがおり、主に困りごとのある住民を見つけて声がけをしたり、地域での集まりでコミュニティの意見を集めたりと、地元住民でなければできない役割を担っています。GRCCはこのオフィサーへのトレーニングなどを提供しています。
GRCCとの意見交換のなかで印象的だったのは、農村コミュニティと地方政策を担当する政府との間に、ACREとGRCCの存在が明確に位置付けられており、各コミュニティ単位、個人単位でのニーズが、しっかりと中央にフィードバックされていることでした。このようなコミュニケーションをファシリテーションする中間組織が日本の場合にはまだありませんし、同様の役割を担うポジションにある組織もその必要性に対する社会的認知がまだまだ低いのが現状ではないでしょうか。このような中間組織としてのコミュニケーションが公的な役割を持っているということがきちんと認知されていることで、ACREやGRCCのような組織のパフォーマンスが正当に評価されるのだろうと感じました。
GRCCでの意見交換のあとは、実際の事例であるChalford Village Shopを訪問しました。Chalfordでは、民間企業のサービスが撤退してしまい、コミュニティのなかの商店、郵便局、パブがなくなってしまい、多くの住民の方々が日常生活において、ちょっとした買物や用事でも数マイルとなりの町に出かけなければならず、特に交通面に難のある高齢者の住民を中心に生活が大変不便になってしまいました。そこで、住民ボランティアで100%運営する非営利目的のコミュニティ・ショップをオープンして運営しています。商品の品揃えも多く、郵便や宅急便などのサービスも利用できます。
ACREとの意見交換を通じて気付いたことは、イングランドの農村地域に点在する小さなコミュニティの声がきちんと拾い上げられていること、拾い上げられた声が具体的な住民主導のアクションにつながるような仕組みがステップごとに明確に設定され体系化されていること、そしてそのような役割を担う中間組織の仕事に対する社会的認知が広く浸透している、ということでした。この蓄積に学ぶところはとても大きいと感じました。
人口減・高齢化が進む地方・農山漁村地域の集落での生活環境を支援するための様々な支援・補助の制度はあれば、ではそれらの枠組みを実際に個別の集落で生活している人たちのニーズ、習慣や価値観に合わせて調整したり、長く続くように住民自らもそれらの枠組みの運営側に入り込めるようなサポートをする役割が日本にも必要なのだと感じました。近年ではまちづくり分野の担当課を新たに設置する自治体が多く、また集落支援員や地域づくり協力隊など、地域側の視点に経った政策提言・活用をするポジションがつくられてきており、流れとしてはACREのような役割を担う人々が名前を獲得してきているのだと思います。アキタエイジラボでもこの流れを掴みながら、ACREの取り組みに学びつつ、独自の中間組織としてのパフォーマンスを考えていきたいと思います。
*今回の視察については、ACREとGRCCのウェブサイトにて紹介されました。
ACRE: Sharing our ideas with the Akita Age Lab from Japan.
http://acre.org.uk/blog/2017-03-07-sharing-our-ideas-with-the-akita-age-lab-from-japan
GRCC: Akita Age Lab and ACRE visit to GRCC
http://www.grcc.org.uk/news/news/post/320-akita-age-lab-and-acre-visit-to-grcc