ネクタイの幅つめ専門のECサイト「Skinny Fatties」

ネクタイの幅を細くする「ネクタイの幅詰め」をご存知だろうか? 僕も今回紹介するサイトを知るまではそんなビジネスがあることを知らなかった。

幅詰めとは一般に「衣服の幅をスリムにすること」を指す言葉で、たとえばストレートジーンズを購入した人が、よりシルエットを細く見せたいと幅詰めをお願いすれば、スキニージーンズのように仕立ててくれたりする。ネクタイの幅詰めはそのネクタイ版で、太いシルエットのネクタイをより細くするというサービスだ。

なかなか便利なサービスにも関わらずさほど知られていないのは洋服屋の服の修繕や、購入後のオプションの1つとしてしか扱われていなかったためだろう。そんな、これまで光を浴びていなかった「ネクタイの幅詰め」サービスを専門に取り扱うECサイトとして話題を得たのが、今回ご紹介する「Skinny Fatties」だ。

同サイトは2012年、米国ニューヨークにおいて設立された。創業後は日本や南アフリカを含む世界各国12カ国からオーダーを受け、4000のネクタイのリサイズを行ってきた。インターネット上でも話題となっておりビジネスメディアのBusiness Insiderなどにも取り上げられている。

仕事をクビになり、次の仕事の面接に着ていくネクタイすらなくなる

(出典:http://dot429.com/articles/2637-joshua-adam-brueckner

Skinny Fatties創業者のJoshua Adam Bruecknera(ブルクナー)氏は2012年の夏のある日のこと、仕事をクビになった。早速新しい勤め口を探したが、面接を受けても受けてもなかなか内定をもらえず、やがてお金にも困りはじめ、面接用の新しいネクタイを買うことさえできなくなってしまった。

そんな時、ブルクナー氏は偶然にもタンスにしまってあった大量の古いネクタイを見つけた。しかしこれらのネクタイはみな時代遅れなデザインで、今風のネクタイよりもかなり幅が広かった。到底面接には使えそうもなかったが、同氏は一計を案じて「How to tailor」(服を仕立てる方法)とGoogle検索して裁縫を勉強し、自分の手で細くリサイズしてみた。

この努力は虚しく、その後も依然として就職先は見つからなかったが、ネクタイを作ったことは彼のその後の運命を大きく変える。そのきっかけが生まれたのは、少しでも収入の足しになればとAirBnBを運用していたときのことだ。

ある時訪れたAirBnBのゲストが、ブルクナー氏が幅詰めしたネクタイを見て、これを売ってくれないかと持ちかけてきた。さらに、君のやっていることは十分にビジネスになる可能性があるぞ、と教えてくれたという。試しに幅詰めしたネクタイの販売を知人に向けて行ってみたところこれが好評で、これを機にブルクナー氏は、「Skinny Fatties」を設立して本格的に事業をはじめることにした。

また、当時やってきたAirBnBのゲストがさらなる協力をしてくれたことも幸運だった。なんと自分が働いていたグルーポン型の共同購入サイトGilt Cityの同僚を紹介してくれ、このことがGilt CityでSkinny Fattiesのサービスのプロモーションを行うことにつながったのだ。このプロモーションはちょっとした話題となり、いくつかの米国の人気メディアサイトDetails MagazineTime Out New Yorkなどにも取り上げられたという。

またブルクナー氏自身も積極的にメディアに働きかけ、自身のユニークな創業エピソードを書いて発信し、これも多くのメディアに取り上げられた。こうしていくつものメディアに掲載された記事を見た人が「ネクタイの幅詰め」専門のサービスに興味を持ち、次々とサイトを訪問するようになったのだった。

ネットを通して世界中に向けて行われる「ネクタイの幅詰め」サービス

Skinny Fattiesの「ネクタイの幅詰め」サービスの利用方法はごくシンプルなものだ。まず最初に希望の仕上がりのネクタイ幅を2インチ(5.08cm)、2.25インチ(5.72cm)2.5インチ(6.35cm)、2.75インチ(6.99cm)、3インチ(7.62cm)、3.25インチ(8.26cm)、3.5インチ(8.89cm)の7種類から選択する。ちなみに同サイトによると標準的な体型の場合、理想的なネクタイの太さは2.75インチになるそうだ。

どのようなサイズが相応しいか悩んでいる時には、「Sizing help」という項目でいくつかの質問に答えることで、簡単なチェックを行うこともできる。

たとえば「ブレザーと組み合わせて身につけるわけではない」「仕事で身につける」「厳密にビジネスのみ」「体型は平均」という組み合わせで答えてみると、2.75インチがオススメのサイズと表示された。またSkypeを通して予約することで、幅詰めを行う職人からアドバイスを貰うこともできるという。

(出典:http://gearpatrol.com/2013/01/25/skinny-fatties/

幅詰めの価格は、ネクタイ1つであればどの太さであっても29ドル(約3500円)でOK。個数に応じて割引がきくようになっている。なお利用者は注文後はサイトから送られてきた出荷ラベルを貼ってでネクタイを送付し、幅詰めをしてまた送り返せば、あとは待つだけで良い。

このサービスは海外からも注文可能だ。手軽さもあって、日本や南アフリカを含む世界各国12カ国からオーダーを受け、これまでに4000ものネクタイのリサイズを行っているという。

「ネクタイの幅詰めサービスの価値は、より感傷的なところにあった」

Skinny Fatties自身はこのサービスによりかつての自分のように経済的に苦しんでいる若者を救いたい、という想いがあったようで、低所得の男性が仕事を得られるよう支援する団体に寄付する試みを行っている他、このサービスの利用層も、経済的に苦しい若年層になると想定していた。

ところが実際にメインの利用層となったのは30~60代の男性だった。彼らは家のタンスに眠っていた数百ドルする高級ブランドの、ただし現代からするとデザインが古くなっているネクタイの幅詰めを依頼しているという。この予想外の反響の理由を、ブルクナー氏はこのように説明している。

“私はネクタイの幅詰めは、最初の注文を受けるまで金持ちや有名人には受けないと思ってました。しかし実際にサービスを初めてみて、自分のやっているサービスの価値は金銭的なものではなく、より感傷的なところにあるということに気づいたのです。”
 — ブルクナー氏

確かに、若者が昔流行した太いネクタイを持っていて、新しいネクタイは買えないからそれを細くして欲しい、という状況は稀だろう。経済的な手段としての利用例としては、自分の体型とネクタイが合わないと思った人が、その微調整のために使うことがあるぐらいだという。

その一方で、時を経た今でも昔自分が着けていたネクタイを捨てられないという人たちは、それだけそのネクタイに対して強い思い出を残している。そのネクタイを今風に蘇らせて着用してみることで、昔の自分に戻ったような感覚を得られるのだろう。想定していたものとはまったく違う形で成功した同サイトだが、顧客層の事情を知るとなるほどと思わされる話だ。

3500円程度の料金でこれまで4000本を受け付けた、ということだからビジネスの規模としてはさほど大きなものではない。しかし、仕入れる必要もなく、在庫を置く倉庫も必要ない。それでいて良質な顧客とつながれる。こう考えると、eコマースのはじめ方としてはかなり優れているのでないだろうか。