ヴィンテージ着物をリメイク・販売するサイト「Kiriko」

クールジャパンの代表格、着物の美しさは誰もが知るところだが、日常的に着物を着る人はほんの一部でたんすに眠ったまま、あるいは手放す人が多いのが現状だろう。僕自身も着物や和装は美しいと感じるが、どのような素材、技法が用いられているかや歴史的背景などは恥ずかしながらほとんど知らないでいる。

今回ご紹介する「Kiriko」は、そうした日本の伝統美はどういうものなのかを学ぶことができるサイトだ。同サイトでは日本の伝統的な素材を紹介したり販売するとともに、自分たちでもこれらの素材を使って現代的なアパレルやアクセサリーを製作し、販売している。

Kirikoの創業は2012年12月のこと。日本由来の作り手や伝統工業に感謝し、高品質で長く使える商品とその意義を広めており、「ぼろ」など、つぎはぎでできた生地を使用することもある。その影響か現在ではラルフローレンやルイヴィトンもぼろを取り入れたラインを作るなど、今注目の分野となっているようだ。

「ぼろ」は貴重すぎてむだにできないもの

Kirikoの創業者はDawn Yanagihara(写真。以下ヤナギハラ)氏。日系5世の米国人だ。ホノルル、ハワイで生まれ育ったヤナギハラ氏は、両親や祖父母のクローゼットに入っているハンガーやジュエリーボックスが大好きで、家に帰るたびに直行していたという。

当初ヤナギハラ氏は法律の世界に入ることを目標としていた。しかし日本人の血が入っていた彼女は、自分のルーツがどのようなものだったのか知りたくなり、ロサンゼルスの大学を卒業した後に日本の田舎に移り住み、1年間英語教師を務めることになった。

この時ヤナギハラ氏の興味を惹いたのが、ものを長く、大事に扱う日本の古来からの価値観であり、日本の織物だったという。特に同氏は衣服にあてがったりして再利用される布の切れ端、「ぼろ」に強い興味を抱いた。

江戸時代の日本は鎖国していたため、綿花などの繊維は希少だった。そのため商人や農民、職人たちは衣服が悪くなってくると他の布地をあてがうことで修復し、できるだけ長く持たせるようにした。

ぼろの伝統は苛酷な労働条件にあった家庭では20世紀までも受け継がれ、ズボンのヒザの穴にあてがったり、寒い時期には衣服を少しでも暖かくするために使われてきたという。こうしたぼろをあてがった野良着は、今ではコレクターの間で重宝されている。

ヤナギハラ氏はこうした日本古来の「できるだけものを長持ちさせる」という考え方と比較して、現在のアイテムは、ほとんどのものが長く続くようには作られていない、と考えた。トレンドを追ったり品質のせいでいったん手にしたものを長くもっている人はそう多くない。そこでこの日本の伝統美を用いたファッションビジネスを起こすことを決意する。

“Kirikoは着物製造業者から織物のかすり生地をもらってきたことから始まったの。私たちはそういった素材を扱うビジネスをしたいと思ったわ。パターンやデザインはとても美しく色も鮮やかで装飾品にすると生地の美しさを見せるのに最高だと感じたのよ”
 — ヤナギハラ氏

まずは米国で日本のおもちゃを販売するなど、15年近く小売ビジネスを手掛けてきたKatsu Tanaka氏とともに日本のデザインを研究。日本の古いヴィンテージものの広告や写真、雑誌などを読んで、自分たちの目指すデザインや美学を確立していった。

その結果、着物などの和服用につくられた日本の繊維を用い、欧米的なバンダナやネクタイ、スカーフなどを作ることに決定。またデニムジーンズの裾の折り返し部分に和の色やパターンを追加することで、主張しすぎることなく遊び心のある個性を追加したり「ぼろ」の発想を生かすなど和の伝統と洋服をミックスした独自の新しいデザインを生み出していった。

和服のための生地があらゆるアイテムに変身

現在Kirikoで販売しているアイテムは3つのカテゴリに分けることができる。まずは和の伝統的な素材でつくった自社製の衣服やブランケット、小物などの「Kiriko」、同サイトがキュレーションした和のテイストを持ちながらもモダンなライフスタイルグッズを販売する「Kuma」。そして日本から輸入した着物や焼き物、生地など、一点物のアイテムを取り扱う「Vintage」だ。

Vintageはコレクター要素の高いものも多く、中にはヤナギハラ氏がサイトをはじめるきっかけとなった1900~1920年ごろのものと思われる京都や東北由来の「ぼろ」も500~800ドルほどの高値で販売されていた。現代では古い時代のぼろを集めるコレクターも存在しているのだそうだ。

主力製品である「Kiriko」を見てみると、着物の生地からつくられたブランケットやネクタイの他、帽子、ジーンズ、シャツなど多様な商品を見る事ができる。シャツは159ドル、バンダナは35ドル~(約4200円)、ネクタイは65ドル~(約7800円)といった価格帯で、これらの多くは和風のデザインを全体的に取り入れたものとなっていた。

和のカラーをワンポイントとして用いた商品もある。たとえば「Pocket Squares」32ドルは、上着のポケットに忍ばせることを想定したハンカチ。また「Japanese Selvedge Denim」185ドルは一見すると一般的なジーンズと変わらないが、裾を折り返して着ることを想定して作られており、その裏地部分に和のデザインが縫い込まれている。

また、ぼろを取り入れた製品として女性用のジャケット350ドルやショール295ドルなどもある。現在ではすでに販売されていなかったが、過去にはリーバイスのヴィンテージジーンズにぼろをほどこした製品もあったという。Kirikoでは「ぼろ」などをただデザイン上の特徴として捉えるだけでなく、生産や設計の過程で余った材料をいかに再利用するかということをいつでも考えているのだそうだ。

「もったいない」精神とストーリーを後世に伝えていく

Kirikoの目標は先祖代々の家宝のようなものを作ることにあるという。人の手で作られ、貴重な生地を使い、持ち主の人生の一部になるようなものだ。同サイトの顧客の多くは自分に特別な人のためにギフトとしてプレゼントしており、ヤナギハラ氏はこのことをとても嬉しく感じているという。

同サイトの影響もあってのことか、現在では有名ブランドもぼろを取り入れたラインを作りだし、素材を輸入が前より難しくなっているという。幸運にもKirikoは素材を持つ日本人たちと強いつながりがあることでなんとかなっているようだ。

ちなみにKirikoが独特の製品を販売していく中で一番難しかったのは、素材をどのように伝えるかだったという。手つむぎのもので天然色素で染めてある素材、そしてその素材に隠されたストーリーをどのように伝えるかが一番難しい。そこで同サイトは「着物」「西陣織」「藍染」「型染」など素材や技法などについてページを用意して、それぞれのストーリーを伝えるよう努めている。

もっとも、ヤナギハラ氏がストーリーを真剣に考え、調べ、人々に伝えているのは利用者のためだけでなく、ストーリーによって救われている部分も多かったようだ。同氏はインタビューで、このような言葉を残している。

“人間ってストーリーが好きなんだと思うわ。だって私たちがブランドの開発をする上でも、ストーリーは大きな力になってくれたんだから。ストーリーはほとんどの人が気づいていない、歴史や文化の一片のような素晴らしいものなのよ”
 — ヤナギハラ氏