世界最小の携帯型洗濯機「Scrubba」

家電製品は進化のスピードが速い。洗濯機もその例外ではなく、各メーカーの最新モデルは洗浄能力が従来のモデルに比べて向上しているのはもちろん、節電や節水機能、洗濯槽のカビ防止機能など様々な工夫が加えられている。

しかしモデルチェンジごとに性能が向上し機能が追加されていくのに対し、洗濯機の大きさにはあまり変化が見られない。洗濯機は置き場が決まっているため、どんなに魅力的な新型モデルでも置き場に納まらなければ導入できない。洗濯機にももっと小型化のトレンドが起きてもよいのではないだろうか……。

そんなことを考えていたら、インターネットで「世界最小の洗濯機」という言葉に出くわした。Calibre8という豪州のスタートアップが2012年に発売した「Scrubba」という製品の宣伝コピーだ。

実際は「洗濯機」と言うよりも「洗濯具」に近い。洗濯板と同様の機能を内部に組み込んだバッグになっていて、中に洗剤と水を入れ、汚れ物を詰めた後、外から擦ることで汚れ物を洗濯できる。したがって洗濯機のように洗濯物と洗剤を入れて電源を投入すれば、後は自動でお任せというわけには行かない。

次々と市場に出回るハイテク製品に比べると原始的な印象を受けるが、小型かつ軽量で洗浄力が高く、キャンプや旅行に携帯するのに便利だとしてアウトドア派に好評を博し、豪州のみならずヨーロッパや北米にも次々と市場を開拓。日本でもアマゾンで取り扱っている。

Scrubbaとその使い方

Scrubbaは次のような外観をしている。

素材は耐菌性かつ耐加水分解性のポリエーテルで、重さは約145グラム。折り畳めばこの記事の冒頭の画像のようなポケットサイズになる。価格は1個55ドル(約6600円)。バッグの内側の一部には次のような突起が形成されていて、この部分が洗濯板としての役割を果たす。

Scrubbaを使う手順は次の通り。

① 水と少量の洗剤(シャンプーやボディソープでも可)、洗濯する衣類を袋に詰める。

② バッグの上部を4、5回折り込んだ後、クリップを留める。

③ 空気抜きの弁を開いて、空気を抜く。

④ バッグの外から洗濯物を押して内部の洗濯板に擦りつける。

この作業にかかる時間は簡単な洗濯の場合は30秒、洗濯機と同じレベルの仕上がりを希望する場合は3分。

⑤ すすぐ。

クリップを外し、折り込んでおいたバッグの上部を元に戻し、汚水を捨てる。バッグにきれいな水を入れてすすぐ。

⑦ 洗濯物を乾燥させる。

通常のように紐や木の枝などにかけて干せばよいが、Scrubbaのサイトでは「Scrubba Travel Towel」という、マイクロファイバー製タオルも29ドル(約3480円)で販売している。Scrubbaのバッグから取り出した洗濯物を干す前にこのタオルで巻いて絞るというひと手間をかけると、乾燥にかかる時間を大幅に短縮できる。

長期のアフリカ旅行が製品開発のきっかけに

Scrubbaを開発したAshley Newland(以下ニューランド)氏は豪州で大きな弁理士事務所に弁理士として勤務していた。2010年、彼は4カ月の長期休暇を取って友人とアフリカ旅行に出かけ、キリマンジャロに登ろうと計画を立てる。

準備段階ですぐに気づいたのは寒冷な気候に合わせたキャンプ用の装具を持参しなければならないため、着替えはわずかしか携帯できないということだった。となると2、3日おきに汚れ物を洗って乾かす必要がある。しかしアフリカではコインランドリーはおろか、洗濯に使える流しも簡単には見つからないだろう。洗濯をどうしたらよいかで数週間悩んだ末、「洗濯板」に思いがいたった。

世界各地に数百年も前から存在している洗濯板だが、非常に優れた洗濯の道具だ。フィリピンのある島に派遣された日本の海外青年協力隊は木の棒で叩く洗濯方法が現地では一般的なため、衣類がすぐに傷んでしまうことに気づき、洗濯板を試作して紹介したところ島の人たちに非常に喜ばれ、洗濯板の作り方を指導するようになったというエピソードもある。石鹸の泡立ちも良く、使いやすいのだそうだ。

ただし洗濯板は嵩張るので旅行に携帯するのには向かない。水を入れるためにバケツなどの容器も別に必要になる。

”そこで閃いたんだ。柔軟性の高い素材で洗濯板を作って防水性のある袋に組み込めば、人々が旅行中に洗濯する方法に変化を起こせるとね。”

この閃きから試作品の設計に取り掛かった。その作業と並行してニューランド氏は仮特許出願のための草稿づくりにも励んだ。豪州を旅立つ数日前にようやく試作品2個が完成し、出発前日に仮特許出願の書類を提出した。

アフリカを旅行中のニューランド氏と友人[出典:Scrubba]

しかしこの試作品を実際に初めて使ってみたのはタンザニアのモシという小さな町に到着してからだった。ニューランド氏と友人はバッグに入れた水が数分後すっかり汚れて出てくるのを見て、「洗濯機」としてのこの試作品の効果の高さに驚いた。

企業に売り込んでも不評。クラウドファンディングに踏み切り成功。

4カ月の旅行を通じて自らの発明品に自信を深めたニューランド氏。帰国後、この技術の国際特許も取得することを視野に入れてさらに試作品を洗練させることに励んだ。

当初、ニューランド氏らは自分たちでScrubbaを製造・販売する予定ではなかった。商品化のためのライセンスを販売し、ライセンス契約を結んだ企業を通じて商品化してもらおうと考えていたのだ。

ところがキャンピング用品を扱う多国籍企業数社も含め、何社にもアプローチをかけてみたが、どの企業も市場が本当にあるのか定かではない新製品に時間と資金を投じることには消極的だということが分かった。

”市場があることを証明しない限り、この企画はどこにも進まないことが見えてきた。現金が入って来なければ、僕たちはこの発明の海外のライセンスを守ることもできなくなる。そこで他の企業に頼ることはやめて、自分たちでScrubbaを製造することに方針を転換したんだ。”

幸い、クラウンドファンディングが発達したおかげで量産化の前に製造を予定している商品の市場が存在するかを確認することは難しくなくなっていた。

2011年後半、ニューランド氏は勤めていた弁理士事務所を退職してCalibre8社を創設。Scrubbaを世に出すための作業に全力を傾け、翌2012年1月クラウドファンディング・サイトであるIndiegogoでScrubbaのキャンペーンを立ち上げる。

キャンペーンでは「Travel clean, light and free(清潔かつ身軽、そしてフリーに旅行しよう)」というスローガンを使った。「free」には「自由に」「気ままに」という意味と同時に「無料」という意味もあり、Scrubbaを持参すれば、コインランドリーやクリーニングサービスなどにお金を使う必要がなくなるという金銭的なメリットもアピールした。

2500ドル(約30万円)を目標に1個40ドル(約4800円)前後で販売し、3カ月で443人から2万2525ドル(約270万円)を獲得。Scrubbaは製品化へと進み、2012年6月にはECサイトで一般販売が開始された。

宣伝のためにfacebookやGoogleの広告にも投資したが、旅行やアウトドア、サイクリングなどをテーマとした国内外のメディアがScrubbaに関心を持って取り上げてくれたことが売上の増加に繋がった。

Scrubbaの顧客層の中心はアウトドアを愛し、しょっちゅう旅行に出かける人たちだが、以下のKit Whelanさんのように家にいても洗濯機を使わずにScrubbaで洗濯しているという人も存在する。

水に直接手が触れないので手が荒れる心配がないし、電力も消費しないし、水も少ししか要らないので経済的だ。靴下や下着など普段身に着けている衣類を少量洗濯をする分には確かにこれで十分だろう。洗濯板の部分に擦りつけなければ、洗濯機を使えないデリケートな衣類の洗濯にも利用できる。

節電や節水を心がけている人、コリンランドリーに行く暇がない学生、洗濯機の数が足りない避難所で暮らす人たちなどにも役立ちそうだ。