雨は止まないー雨の国の物語ー

1章

真っ暗な水面に漂うように浮かんでいた。目を開けても何も見えない漆黒の闇に包まれている。自分が眠っているということをどこかで感じている。やがて幽かな振動が皮膚に伝わってくる。それと同時に周囲がだんだんと明るくなる気配を感じる。光はどんどん強くなる。目覚めの時間が近づいているのだ。抗いたいのに抗えない。寝返りをうって光を避けようとしても光はあらゆる方向から包んでくる。光が騒音のように神経に刺さってくる。と、目蓋の裏に閃光を感じた。身体を包む光が爆発した。
 (この光の粒子になって、ここから飛び出していけたら)
 目を閉じたまま、そんなことを願う。でも、この光には熱が感じられない。冷たい光。人工的な光。乾いた光。
 閃光を感じるちょっと前、感じた幽かな振動。発電機がフル稼働するときに発する振動。この船のずっと遠く、居住スペースから最も遠い、最下部にある発電機を大量の水が回しているのだ。開明期には、この朝のひと時しか感じない。晦冥期には終日感じられる振動。もっとも、それは自分が住んでいる最底辺の居住スペースだからだ。上層階に移れば、この振動も感じなくなるだろう。あと、何年か、おそらくは2、3年のうちには、自分は上層階に移れるはずだ。そんな漠然とした希望が、今のタクマを支えている。
 (カグラを踊ることさえできれば、俺は)
 踊りには自信がある。自分のイメージした通りに自在に体を操ることができる。ユウキの厳しい指導で、なめらかに踊れるようになった。
 (次の晦冥期の祭りには、あの中央広場の舞台に立つんだ)

「昔の人の知恵をバカにしちゃなんねえ」
機織りをしながらユキ婆はよく言った。
「このフネの暮らしだって、昔の知恵があるから何事もなく過ごしていられるんだからな」
 フネと呼ばれるこの世界はどのくらい大きいんだろう。ユキ婆と暮らすこの町内だけでも百人以上はいるし、中央広場で行われるマツリに集まる人の数には本当に圧倒されてしまう。
「この錦がおり上がったら、お前のハレギにしてやろう。今年はお前の舞も引き立つだろうて」
「ユキ婆、ハレってなんだ」
「みんなの前に出て面目を施すということだ」
「みんなの前に出て踊るのは嫌だな」
「みんなお前が舞うのを楽しみにしとるで、そんなことを言うたらバチがあたる。」

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