信頼を得るために大切な3つのこと

こころ
5 min readSep 11, 2016

--

―馬と人との幸せな時間

馬に乗ることは特別な体験だ。乗馬クラブだけでなく、牧場や観光地などで馬に乗ったことがある人も多いのではないだろうか。地面から馬の背中までだけで1.7mほどあり、そこに自分の座高が加わる。それだけで随分世界の見え方が変わる。いざ馬が歩み出せば、予想外に揺れることに気づいたあなたはちょっと怖くなるかもしれない。けれど、そこで体を固くしてしまってはいけない。馬が乗り手の感情や緊張を察知して落ち着かなくなってしまうからだ。

背筋を伸ばして、余計な力を抜いてみよう。周囲の景色を楽しむ余裕が生まれたらこっちのものだ。馬のお腹が左右に揺れるのを感じながら、自分も右、左、右、左と一歩ずつ馬と一緒に歩いているつもりになる。鞍から馬の体温が伝わってきて嬉しくなったら、首筋を撫でてやってもいい。馬のたてがみの根元には神経が通っておらず、いくら引っ張っても痛くないらしいのだけれど、むやみに引っ張るのはやめておこう。

もしあなたが乗馬クラブで乗馬体験をしているのなら、少し離れたところで上級者がレッスンを受けているかもしれない。彼らは自由自在に馬を操っているように見えるし、ときには障害物を跳び越えたりもしている…!

あなたはちょっと羨ましくなる。どうやったらあんなふうに馬を動かせるのだろう?そもそも人はどうやって馬に指示を出し、馬はどうやって人の指示を理解しているのだろう?

人が馬に乗るために

一般的に馬に乗るときには、人が跨るために馬の背中に鞍を置き、腹帯を締める。頭に頭絡をかけ、馬の口の中を通る金属製の馬銜に手綱をつないで、人が基本的な操作を行う。乗り手の経験が浅かったり、乗るのが難しい馬だったりすると、折り返し手綱やマルタンといった補助具を使うこともある。物音や足元に気を取られやすい馬の場合は、耳当てやメンコを装着し、人の指示への集中力を高める。

馬に指示を出すことを、「扶助」という。基本的には、足で馬のお腹を挟んだり、手綱で馬の口に働きかけたりすることだが、馬と人とのコンビネーションが取れてくると、ちょっとした体重移動だけで馬が人の意思を理解してくれることもある。馬のバランスを支えてやりながら、自然な力の流れを作っていくことが重要だ。

調教とは、「馬と人との約束事の構築」と言ってもいい。こういうインプットにはこういうアウトプットを返す、という約束の積み重ねが、馬と人とのパフォーマンスを生み出す。

扶助は本質的には文字どおり、馬本来の美しい動きを支え助けるものであるべきだ。しかし、哀しいかな、馬の気持ちや習性を正しく理解していないと、ただ馬を不快な気持ちにさせたり、馬の動きを妨げてしまったりすることもある。無理に手綱を引っ張ったり、ただ闇雲に馬のお腹を蹴りつけたりしても、馬は思い通りには動かない。

馬は集団生活を営む動物で、「この人の言うことを聞いていれば怖いことは起きないな」「この人の指示は明確でわかりやすいし信頼できるな」と思えば、すんなりと人の働きかけを受け入れてくれる。騎乗しているときに適切な関係性が築けていれば、乗り終わった後下馬して手綱を離しても、馬は自然と後ろをついてきてくれる。

では、馬の信頼を得るためにはどうしたらいいのだろう?

1. 自分が何をしたいのか、馬に何をさせたいのかを明確に。

仕上がりイメージを言語化して相手と共有できない以上、人のほうがより明確に完成図を頭の中に持っていなければならない。人の指示に迷いがあれば、馬の反応にはもっと迷いが生じる。不明確な指示は信頼感を減ずる。何をすればいいのかも分からないのに、できていないからといって怒られると、馬はやる気を失ってしまう。

2. できないことをいつまでもやらせない。できることもいつまでもやらせない。

根性論では相手は動かない。反復による習熟が意味を持つのは、何を求められているかを相手が理解している場合だけだ。難易度の低いことから順を追って積み重ねていく必要がある。そして、相手が要求に応えてくれたときには、「今の振る舞いは適切だった」と相手にわかるようにしっかりと褒めて伝えてやらなくてはならない。

一方、できることであっても同じことを繰り返していると飽きがくるし、終わりの見えない要求は相手を混乱させかねない。できるということを確認したらそこで切り上げる思い切りのよさも重要だ。

3. 気持ちよく終わろう。

その日の最後をできないことで終えるより、難易度は低くてもできることを丁寧にこなさせ褒めてやることで終える方がいい。―明日もまた気持ちよく、一日の運動を始められるように。

馬から下りたあとは、感謝の気持ちといっぱいの愛情をこめて、馬の身体を丸洗いしてやったり、馬房の掃除をしてやろう。運動時間以外の彼らが、十分快適で幸せでいられるように。

合理的かつ明快に接することで、相手はこちらのことを信用してくれるようになってくる。弛みない日々の積み重ねが信頼関係を醸成する。

これらのことは、人と人との関係性においても同様に大切ではないだろうか。言語というコミュニケーションツールがあることで随分と助けられてはいるものの、相手を尊重しながら相互理解の方法を模索するという点では変わらない。

人とともにあるすべての動物たちが、人に対するのと同様に尊重され、人と幸福な関係を構築し、その個体としての価値を最大限発揮できる環境にいられることを願ってやまない。

--

--

こころ

生きる資格がないなんて憧れてた生き方