【Exhibition】レポート & インタビュー「オンラインで舞台芸術は成立するか?~国際コラボレーションの現場から」

“劇場”と“オンライン”をつないで作品をつくる。どちらで観るかで、作品の見え方だけでなく、観客の参加度合いも変わり、それぞれの会場では異なる観劇体験がうまれます。

ディレクションチームの3人で膨らませてきたアイデアに、さらに新たな視点を与えてくれるメンバーとして、ボーカリストでパフォーマーのバニー・カダッグ、エクストリーム・メタルのミュージシャン、ロビ・ルスディアナ、ニューヨークを拠点にするダンサーの山中芽衣が加わります。バニーとロビはオンライン(Zoom)で自宅からの稽古参加、コロナの影響で日本に帰国している山中は、日本の稽古場に足を運び、そこからそれぞれZoomで繋がり、稽古をおこないます。そして、ともにアイデアを出し合い、表現の可能性を模索していきます。

9月18日、全テクニカルスタッフが合流。「オンラインとオフラインをどうやって繋げるか」、技術的な実現可能性を追求します。

その結果、ディレクションチームの3人にとっても初めてづくしの作品の誕生が見えてきました。『国際コラボレーション』『Zoomによるリモート制作』『劇場とオンラインの同時上演によるハイブリッド作品』などの試みに、現場はどのように臨んでいるのか。どんな作品になるのか。日本から参加するディレクターのAokidと額田大志に話を聞きました。また、これまでZoom越しでの稽古に参加していた多田淳之介APAFディレクターが、9月に初めてリアルな稽古場に足を運んだ時、この取り組みがどう映ったのかを話します。

<もくじ>
●劇場とオンラインの両方で上演すること
●オンラインで舞台芸術は成立するのか
●どちらで見るか。なにが違うか。

劇場とオンライン、両方で上演すること

──今作はAPAF2020テーマ「Anti-Body Experiment」に挑むような作品コンセプトですが、意識されていましたか?

Aokid
「最初はずっとオンラインでの稽古で、オフラインでの上演を意識して、リアルな身体に追い付こうと、想像力で補いながらずっとやってきたんです。それは“Anti-Body”かもしれないですね。でも実際には劇場にお客さんも来るので、その方々にも向けたパフォーマンスを作っていかないといけないなと思っています。

──オンラインと劇場の両方を繋いで上演することについてはどんな思いですか?

Aokid
「今は、実際に劇場とオンラインでなにが実現できるのかを探していくのが、大変ですね。オンライン・テクニカル・ディレクターと相談しながら、やりたいこととできることの中で「これは形にしたいな」というものを制作しています。
稽古では、みんながそれぞれの場所で面白いと思える瞬間や共有できる瞬間がある。その感覚がお客さんにも伝わったらいいな。「ああ、いろんなやり方があるよな」とか「いろんなふうに人とコミュニケーションできるよな」と感じてもらえたらいいですね」

額田
「オンラインと劇場のハイブリッドは、コロナ禍でないと思いつきませんでした。これが成立したら、また新しい表現方法が生まれる。オンラインのパフォーマーとオフラインのパフォーマーが共存して、ひとつの良い作品になることを目指せると、今後のオンラインを使った様々なクリエーションに影響を及ぼせる可能性を秘めていると思います」

オンラインで舞台芸術は成立するのか

──多田ディレクターは、これまでの稽古はオンライン(zoom)で見ていましたが、その感想は?また、パフォーマーが入ってから変化など感じましたか?

多田
「稽古を見ていて不思議なのが、日本、インドネシア、フィリピンのみんながオンラインでも「今のいいね!」という感覚を共有していることが、すごく新鮮。今年に入って我々の生活がだいぶオンライン化されて、オンラインの画面の向こう側への想像力が鍛えられはじめているからなんじゃないかと思います。去年ならこんなにうまくはいってないんじゃないかな。
今回のパフォーマンスは、たぶん、いま目の前にある身体の良さという”演劇の強み”もありながら、距離もバックグラウンドも離れているけど繋がっていること自体が、表現として成立している。オンラインがデメリットではなくなりリアルな身体とも拮抗できるんじゃないかと、改めて可能性を感じました」

Aokid
「まさに、お互い遠くに離れていても、パフォーマンスしうると感じます。画面越しでも、相手が画面から消えたり、画面が手でふさがれたりしたら、自分の感情が揺らぐ。一方的に鑑賞しているだけでは心は揺れないけれど、お互いの関係を構築出来ると、相手に影響を与えることができる。自分の身体を通して「こういうことができるんだ!」と実感するのは、オンラインでもやっぱり舞台芸術だなと思います」

額田
「ただ、いろんな人から聞いて思い描いていた国際コラボレーションの大変さとは違う気はしています」

多田
「それは、そうかもしれないですね」

額田
「稽古の最初の頃から、ディレクションチームもパフォーマーも「うん、こんなかんじだよね」というポイントが合っていたんです。それはなぜか考えると、直接会えないからかもしれません。画面越しだとリアルの稽古場に比べて、共有できるのは全体的な印象になる。だからこそ、お互いのパフォーマンスを信頼して、ディティールはそれぞれのパフォーマーに委ねています。画面越しだからこそ、おおらかにクリエーションができたのかもしれないです」

多田
「なるほど(笑)」

どちらで見るか。なにが違うか。

──多田ディレクターは9月に今日初めてリアルな稽古場に足を運びました。劇場観劇の場合の目線を体感した率直な感想は?

多田
「その場で見ていると、“ここで起きていること”と“ここじゃないところで起きていること”がハッキリわかれる。そこが想像力のフックになりますね。実際のパフォーマンスと、パフォーマンスが映っている画面を同時に見られるのは不思議でした。
一方で、オンラインだと参加要素が強くなる。パソコンの画面で見ているだけの演劇体験とは違いますね。もしかすると参加することが、画面越しの新しい舞台芸術の楽しみ方になりうるんじゃないかなと感じています」

──従来の参加型演劇やパフォーマンスは、劇場に行けば参加できる。でも、行くと参加できなくて、オンライン配信だと参加できるのはこれまでと違いますね。

額田
「逆をやろう、というのはありますね。劇場で観ている人は傍観者になってもらおう、と。個人的には、画面越しの方が参加しやすいと思うんですよ。劇場だとまわりに人がいて恥ずかしいけど、画面越しなら人目を気にしなくていいからけっこうなんでもできちゃう。
前に多田さんが言われていたんですが、ギリシャ悲劇のように、市民が参加したり、お互いが見せ合うようなことが今の時代にも起こったらいいですね。誰でも演劇ができたらいい。そういう意味では、今回はかなり参加の密度が高いので、観るだけじゃない演劇の楽しさが伝わると思います。しかもそれがオンラインで起こることがすごくいいですね」

もうひとりのディレクションチームメンバー、ジェームズ・ハーヴェイ・エストラーダはこの創作について以下のリンクで語っています。

『Windows of Possibilities(可能性のまど)』
国際交流基金マニラ文化センターへの寄稿より ※英語

10月12日には、初めてのランスルー(通し稽古)がおこなわれました。関係者はじめ国内外のさまざまな方に、オンラインとオフラインのそれぞれから参加してもらい、フィードバックをいただきました。22日の初日までブラッシュアップを続けます。

今回の舞台は、タイトルは『フレ フレ Ostrich!! Hayupang Die-Bow-Ken!』(読み:フレ フレ オーストリッチ!! ハユパン ダイ・ボウ・ケン!)として、コロナ禍のフィリピンで脱走したオーストリッチ(ダチョウ)のニュースをヒントにしています。アジアを舞台にオンラインで稽古を重ね、距離を越えてオンラインと劇場を繋ぐことを目指した今作。その冒険への招待を、ぜひオーストリッチから受け取ってください。

冒険への招待

この卵は、「2つの眼」を持つ人にしか見えません。
これが見えるあなたは、冒険者の一員として選ばれました!
「応答してください」

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Asian Performing Arts Farm (APAF:エーパフ) 2020
APAF_tokyo

東京芸術祭における舞台芸術の育成プログラムです。OpenFarmでは【会期:10/20~25】に向けプロセスを公開していきます/APAF is a Tokyo Festival program supporting the development of young artists. https://apaf.tokyo